20:20の交差点

帰路の途中、信号のあるT字路に差し掛かった。
普段ならボタンを押せばすぐに渡れる信号なのに、今日は珍しく既に数人が立ち尽くしていた。大型犬のリードを握って電話するおじさん、車道を挟んだ向こう側には同じ方の手にレジ袋を提げた30代くらいの夫婦、信号に関心があるのかないのか、フェンスに背中を預けてスマホを見る少年と男の人。
斜め後ろにいるおじさんの声が断片的に聞こえる。きっと職場の先輩か取引先だろう。犬は大人しく四つ足で立っている。

白や黒の車のボディ、決まって赤のテールランプの軌跡が、目の前を不規則に走り去っていく。流れが途切れても誰も渡ろうとせずに、信号が切り替わるのをじっと待っている。

交差点に来て一分程経った頃か、向こう側の押しボタンが見えた。赤く光るパネルはボタンの下側。おや、と思った。
柱を回り込んで見てみると、「ボタンをおしてください」の文字が点灯していた。
「とても恐ろしい集団心理である」を思い出して苦笑しつつ、横断歩道を渡る。途中で後ろを振り向くと、犬の方がおじさんよりも早く歩き始めていたように見えた。

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