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MtG アグロデッキを事故ロバストに設計する

■はじめに

アグロデッキはその特性上、他のアーキタイプに比べてどうしても安定性に欠け、事故が起こりやすく且つリカバリーもしにくい。
それ自体はある程度受け入れざるを得ない特性ではあるが、だからこそ、デッキの根本的な構造やカード採択により、少しでも事故が起きにくい・事故の影響を受けにくい構築をする=デッキをロバストに設計する ことが重要だと考える。

本記事は、事故の要因と事故ロバスト性改善に資するアイテム、及びその効果について体系的に整理することを目的とした。
尚、あくまで私が個人的に考えていることを整理しているだけなので、特にこれで結果を出したと言うわけでも、新たな発見があるわけでもなく、結果だけ見れば従来から経験的に判っていたことを改めて言葉にしただけである事をご承知おき頂きたい。

尚、本記事の画像は全て下記から引用した。

■"事故"の定義と類型

検討に先立ち、まずは我々が向き合うべき「事故」を改めて定義し、その性質ごとに類型を定める。

【定義】"事故"
[初手及びドロー内容の偏りによってプレイが制限され、期待したゲームプランを実行できないこと]

また、"偏り"とは、デッキの各要素の構成比に対して、特定の要素のドロー枚数が過剰に多い/少ない状況である。

例えば、デッキ構成が
 構成要素①(土地):24枚
 構成要素②(クリーチャー):24枚
 構成要素③(補助スペル):12枚
であれば、各要素の構成比は ①:②:③ = 2:2:1
であるため、初手7枚中の各要素の枚数も
 ①:②:③=2~3枚:2~3枚:1~2枚
を期待するが、①(土地)を0~1枚しか引けない/5枚以上引いてしまう、などのケースが該当する。

上述の通り"偏り"には「過多」と「過少」の2モードが存在する。この内、特定の要素が「過少」であればそもそもプレイ自体ができないが、「過多」であればカードが余るだけでプレイ自体は可能なので、事故を引き起こすのは「過少」モードであることがわかる。
マナフラッドに代表されるような、特定の要素を「過多」にドローすることも一般的に事故として捉えられるが、これはその分他の要素のカードが「過少」になっていることでプレイが制限されるためである。
「プレイが制限される」という結果は同じだが、事故の性質を正しくとらえて改善すべきポイントを明確にするため、本記事では「過少」モードを対処すべき問題に据える。

●事故要素の分類

上記の例ではわかりやすさのためにデッキの構成要素を土地・クリーチャー・補助スペルの3種で説明したが、実際には役割・特性の異なる要素群(いわゆる"枠""スロット")ごとに偏りが生じ得る。
どのような要素が偏りを生じるのかは個別のデッキ構成によるが、ゲームプラン(どのターンのどのタイミングでどんな行動をするか)から逆算して、それを実現するカード群を想定すれば概ね分類できる。下記に代表的な分類例を示す。

<役割での分類>
・土地/スペル
 →土地→白/青/黒/赤/緑/無色/氷雪マナ 等
 →スペル→
  ・(ミッドレンジ)
   クロック/システム/除去/補助パーツ
  ・(横並びアグロ)
   横並び要員/全体強化/除去/補助パーツ
  ・(果敢アグロ)
   クロック/パンプスペル/火力
   /リソース確保スペル
  ・(コンボデッキ)
   コンボパーツA/B/ドロー/除去
  ・(コントロール)
   カウンター/単体除去/全体除去/ドロー
   /フィニッシャー

<マナコスト・プレイタイミングでの分類>
・マナコスト(マナ域)
・色拘束、その他属性の拘束(氷雪等)
・インスタント、瞬速/その他 等

<属性での分類>(特定の属性を参照するギミックがある場合)
・カードタイプ:昂揚、親和 等
・色、シンボル:ピッチコスト、信心 等
・基本土地タイプ、土地タイプ:チェックランド、版図 等
・クリーチャータイプ:部族サポートギミック 等

尚、上記の分類は排他ではなく、多くの場合は重複する(例えば、2マナのインスタント除去枠 等)。また、特殊なギミックを採用しているデッキの場合は必ずしも上記だけには当てはまらない。
上記の例は一般性を失わない範囲でできる限り網羅的に分類したつもりだが、他の分類の仕方や種類は存在し得る。

●事故類型の定義

上述のように"偏り"を形成する要素を整理すれば、事故の起こり方(=事故モード)の類型を「どの要素が過少なことによって、どのようにプレイが制限されるか」の形で定義できる。下記にアグロデッキでよく起こり得る代表的な事故モードの類型を定義する。

【定義】"マナスクリュー"(土地過少)
[土地枚数が過剰に少なく必要なアクションの要求マナを払えないため、各ターンごとのアクション回数が制限されること]

【定義】"マナフラッド"(スペル過少)
[スペル枚数が過剰に少なく想定するゲームプランよりも早いタイミング/少ない回数でアクションが尽きてしまうため、適切なターンに必要なアクションが取れないこと]
※"マナフラッド"という通称だが、ゲームプランの実行が困難になる直接的要因は土地を引きすぎることではなくスペルの枚数が少ないことにある。

【定義】"色事故"(特定土地属性過少/特定属性スペル過少)
[土地から出る特定の属性(色・氷雪)のマナがドローしたアクションの要求マナに対して過剰に少ないため、各ターン事のアクション回数・種類が制限されること]
または、
[特定の属性のマナを要求するスぺルの枚数が過剰に少なく想定するゲームプランよりも早いタイミング/少ない回数でアクションが尽きてしまうため、適切なターンに必要なアクションが取れないこと]

【定義】"特定マナ域過少"
[初手及びドローした特定の要求マナコスト域のアクションが過剰に少ないことで、そのマナ域のプレイターンのアクションが制限されること]
※マナコストが軽いカードが引けず、早いターンに行動できない・3~4ターン目に複数行動できない、といったケースが代表的。

【定義】"特定枠過少"
[初手及びドローしたカードの種類の内、特定の役割・属性のカードが過剰に少ないことで、アクションの種類やタイミング、回数が制限されること]
※具体的な役割・属性はデッキの種類による。クロックと除去のアンバランスや、特定のシナジーパーツの内片方だけドローする、等を指す。
※上記で定義した他の事故モードも広い意味では特定枠過少だが、ここでは特にマナ・マナコスト以外の枠の偏りに起因した事故を指す。

■改善アイテムとその効果

事故の定義が、

[初手及びドロー内容の偏りによってプレイが制限され、期待したゲームプランを実行できないこと]

である以上、事故ロバスト性改善の方策は、
 ・偏りが発生しにくいデッキ構造にする
 ・偏りを解消・緩和できるカード/構造を採択する
 ・偏りによってパフォーマンスが低下しにくいカード・構造を取る

のいずれかになる。本項はそれぞれについて考え方とアイテムについて述べる。

尚、改善アイテムを採用してもデッキが回った時の強さ(ポテンシャル)は維持できることが大前提である。いくらデッキが安定してポテンシャルを発揮できても、ポテンシャルそのものが低ければゲームに勝つことはできないため、安定性を重視するあまり弱いカードや構造を採用しないよう注意したい。

●偏りが発生しにくいデッキ構造

まず、カードの効果やプレイによってではなく、デッキ構造やカードの性質によって、ドローしてきたカード同士の偏りが発生しにくい構造について整理する。

①デッキ構成要素の種類・要求枚数を減らす
前述の通り、そもそも"偏り"とは特定のデッキ構成要素のドロー枚数が過剰に多い/少ない状況であり、これを発生しにくくするには根本的に偏りが発生する要素を排除/削減することが有効である。

パイオニアのグルール果敢を例に説明する。下記は一般的な形のリストである(メインボード+相棒 のみ)。

晴れる屋HPデッキ構築機能(https://www.hareruyamtg.com/decks)にて作成

このデッキは大別して
・クロック
・戦闘をバックアップするスペル
 (果敢系能力のトリガー)
・土地
の3種類の要素で構成される。クロックの多くが果敢などの能力を持っており、それらを2〜3体並べた状態でパンプスぺルや火力を1ターンに複数枚プレイすることで一時的に爆発的な打点を作り出し、3〜4ターン目に相手ライフを削り切ることを目指すデッキである。
従って、クロックとスペル、土地をバランスよく引く必要があるとともに、スペルは1ターン中に複数回唱えるために基本的には1マナでキャストできる必要がある(《アタルカの命令》1スロットのみ2マナを許容できている)。

このリストでは除去は《火遊び》1スロットだけだが、イゼットフェニックスの《帳簿裂き》やアマリアコンボの《野茂み歩き》にメインから対応でき、かつ能動的にもプレイできるスペルとして《魔術師の稲妻》の採用を検討するケースを考えよう。

当然ながらウィザード・クリーチャーが引けていない・除去されている場合は《魔術師の稲妻》は必要なパフォーマンスを発揮できない。事故類型に当てはめるならば"特定枠過少"にあたり、「ウィザード・カードが過剰に少ないことで、3~4ターン目に必要数のバックアップスペルが唱えられない」と言い換えられる。つまり《魔術師の稲妻》の採用によりクリーチャータイプ:ウィザードがデッキの構成要素化=事故要因化されていると言える。
このリストの場合、ウィザード・カウントは《損魂魔道士》《精鋭射手団の目立ちたがり》の2種8枚である。一旦除去やドロー順、他の事故要因等を無視して、「0~1マリガンで2~3ランドキープ後、3ターン目までに《魔術師の稲妻》を1枚以上ドローしていて、かつウィザード・クリーチャーを1枚もドローしていない」ケースが《魔術師の稲妻》採用により発生し得る具体的な事故モードとして、その発生確率を求めてみると、
土地枚数:20枚/《魔術師の稲妻》採用枚数:4枚/ウィザード採用枚数:8枚
の場合、 先手:13.1% / 後手:12.4% の確率で《魔術師の稲妻》起因の事故が発生する。この事故率を許容するかは《魔術師の稲妻》が1マナでプレイできた時にどれだけ勝率に貢献するか次第だが、《火遊び》を《魔術師の稲妻》に変えただけで約3マッチに1回プレイできない状況が発生するのはリスクが大きいと言っていいだろう。

上記はやや極端な例だが、これは例えば《魔術師の稲妻》ではなく《稲妻の一撃》や《魔女跡追いの激情》にしても(リスクの軽重の差はあれど)同様である。

《稲妻の一撃》にした場合は1マナのスペルが減少し行動回数が制限される場合("特定マナ域過少"類型)が考えられるし、《魔女跡追いの激情》の場合は攻撃クリーチャーの頭数やそもそも対象のクリーチャーがいない("特定枠過少"類型、能動スペル枚数過少) 等が事故要因になる。
もっと一般的な例で言えば、マナコストの重いカードはそれだけで土地の枚数を要求する("マナスクリュー"類型、必要マナに対して土地枚数が過少)ので、採用カードのマナ域を(デッキのパワーを保った上で)軽くできればそれだけで構成要素(土地)の要求枚数を減らし、事故率を低減できる。

簡単に言えば、「デッキの噛み合い要素を減らす」という当たり前の話だが、その「噛み合い」がデッキのパワーに貢献していることは多々あるので、結局は許容できる範囲を定めてバランスを見極めるのが重要である。

②採用カードを特定の枠に寄せる
また、上の《魔術師の稲妻》の例の改善案として、ウィザードの採用枚数を増やすことで事故率を下げることも考えられる。確率を計算すると、ウィザードが12枚の場合 先手:7.8% / 後手:6.7%、16枚の場合 先手:4.4% / 後手:3.4% まで事故率が減少する。
この様に、採用カードを特定の枠に寄せることで噛み合い対象を十分数確保することができる。
これはクリーチャータイプに限った話ではないが、やはりアグロでの代表例は部族デッキだろう。尤も、部族アグロの場合はコンセプトレベルで特定の種族に寄せることで"部族ボーナス"を得る構築思想であるから、どちらかと言えば「特定の部族以外のカードを採用すると事故率が上がる」と言う捉え方が正しかろう。
部族アグロ以外の例では、《集合した中隊》デッキで採用カードタイプをクリーチャーに寄せてヒット率を確保する、《レンの決意》の様な衝動的ドローを多用するデッキでマナ域を1〜2、スペルの種類を火力やクリーチャーなどの能動スペルに寄せる、等が考えられる。

寄せる行為はカードプールを自ら絞るに等しい。なので、そもそも寄せて得られる"ボーナス"の存在とデッキパワーを担保できるカードプールが無ければ成立しない上に、成立したとしても構築制約によってゲームプランが硬直で、構築の工夫でマッチアップ相性の改善がしにくい/対策カードに劇的にハマりやすい/サイド後に取れる戦略の幅が乏しい、と言った欠点を抱える傾向がある。

③複数の枠を兼ねるカードを採用する
ここまででも何度か述べたように、偏りは特定の要素が過少になることで事故に繋がる。つまり、上述②ほど寄せずとも、噛み合いの対象となる要素の枚数を増やすことによって事故確率の低減効果がある。
しかしながら、デッキの総枚数・初手とドローの枚数が決まっている以上、何かのカードを増やせば必ず他のカードを減らす必要があり、そこが新たな事故要因になる。わかりやすい例で言えば、マナスクリューを緩和するために土地を増せば、その分マナフラッドの確率が増える 等が該当する。
但し、それはカード1枚に一つの役割のみが割当たっている場合である。1枚のカードに複数の役割を割り当てられれば、特定の枠の枚数を減らさずに別の枠の枚数を確保することができる。グルール果敢の例で言えば下記のカードが該当する。

・《探索するドルイド》/《獣の探索》(出来事)

 主:2マナのクロック
 副:スペル過少時の果敢系能力のトリガー/
   ロングゲーム時のアドバンテージ供給源
クリーチャーを複数枚並べる必要がある以上、メインの役割はクロックである。《獣の探索》は理想的な回りをしているゲームではプレイしないものの、次点の展開や相手の受けが強い展開で攻めを継続するのに貢献する。この様にベストでない展開での役割を持つカードをデッキに無理なく組み込めるとパフォーマンスが安定する(あくまで《探索するドルイド》自身がクロックとして十分な強度がある前提である)。

・《熊野と渇苛斬の対峙》/《熊野の食刻》

 主:1マナのクロック/果敢系能力のトリガー
果敢アグロの常として、クロックとスペルをバランスよくドローする必要があるが、1ターン目のベストドロップがメインプランに組み込める1マナの果敢系能力のトリガーになる価値は非常に大きい。

・《バグベアの居住地》《ラムナプの遺跡》
 《反逆のるつぼ、霜剣山》(バリューランド)

 主:赤マナ供給源
 副:ロングゲーム時のダメージ源
標準的な展開でスペルを使い切るのが4ターン目前後なので、軽度の偏りや相手の受けが厚い時、ちょうど最後の1アクションとして機能する。

細かく言えばもっと色々あるが、これらのパーツが状況に応じて違う役割を果たすことでデッキの底力を押し上げているのは間違いない。他にも《リムロックの騎士》や《棘平原の危険》が採用されているリストもあるが、それも同じ目的である。

一般的にドローや補助スペルに枠を割けないアグロデッキにおいて、複数の役割を果たすカードをデッキパワーを落とすことなく採用できる構造が安定した=事故ロバスト性の高いデッキの条件の一つである。カード単位での具体例を挙げよう。

【プレイモードを選べるカード】
出来事呪文/モード呪文/両面カード/分割カード/魂力 等
状況に応じて過少枠を埋めることができる。片方のプレイモードが直接メインプランに貢献しなくとも、アクションの選択肢が増えることで低頻度で発生する状況への対応力やサイド後のプランの自由度に好影響を与える。
《砕骨の巨人》:火力+クロック、2マナ+3マナ
《毒を選べ》:(副)飛行除去+(副)置物除去
《セジーリの防護》/《セジーリの氷河》:防御スペル+土地
《争闘 // 壮大》:(主)コンバットトリック+(副)飛行除去
《皇国の地、永岩城》:(主)土地+(副)除去

【常在/軽い起動型/緩い誘発型能力を持つカード】
ヘイトベア/スペル内蔵クリーチャー/(起動の軽い)バリューランド 等
主の役割(クロック・土地 等)を果たしながらサブ(副)の役割も同時に果たせる。尤も、クリーチャーの場合は能力も込みで採用する場合も多いので事故対策とは言いにくいが、逆説的にそのようなクリーチャーを無理なく採用できるのは事故に強いデッキ構造とも言える。
《スレイベンの守護者、サリア》:クロック+妨害
《栄光をもたらすもの》:クロック+除去
《イモデーンの徴募兵》:(主)全体強化+(副)単体クロック
《門道急行の事件》:除去+全体強化
《変わり谷》:(主)土地+(副)クロック+(副)部族カウント

【特定の属性を併せ持つ/他属性の特徴を内蔵したカード】
カードタイプ/サブタイプ/色/CMC 等
これは特定の属性(間)のシナジーを参照するデッキに限られる。シナジーに必要な複数の属性、または必要な属性と目的の効果で表すことができる。
《ダークスティールの城塞》:土地+アーティファクト
 →《アーティファクトの魂込め》デッキ 等
《ミシュラのガラクタ》:アーティファクト+スロートリップ
 (一般的にはインスタントorソーサリーが持つ特徴)
 →"昂揚"カウント 等
《スカイクレイブの亡霊》:クリーチャー+除去
 (一般的にはインスタントorソーサリーが持つ特徴)
 →《集合した中隊》デッキ 等
《トライオーム》:基本土地タイプ
 →"版図"カウント 等
《激情》:CMC5マナ+除去
 →"続唱"デッキ 等

しつこいようだが、少なくとも1つの役割に対しては及第点の価値がある前提の話である。いくら使い道が多く器用だからといって、どのモードで使っても50点のカードはプレイするだけ負けるバッドカードでしかない。
逆に言えば、メインプランの用途で及第点の価値がある上に別モードを持っているカードは高確率で採用候補に挙げられるだろう。

●偏りを解消・緩和できるカード/構造採択

次に、ゲーム中に発生した/これから発生する偏りに対して、カードの効果やプレイによってこれを解消・緩和する手段を検討する。
事故は手札や戦場などのアクセス可能・容易な領域に特定枠のカードが必要数無い(過少)ことによって発生するので、ライブラリー等の通常干渉できない領域にアプローチし、必要なカードへアクセスできる可能性を上げることでリスクを解消・緩和できる。そのような効果を持つカードを、便宜上"追加アクセスカード"と呼称する。ドローカードなどがその代表例だろう。
しかし、そのような効果自体は基本的に盤面やダメージレースに直接影響を与えない=メインプランに直接貢献しないため、追加アクセスする"だけ"の枠を採用してしまうと却って事故要因となてしまう。
従って、アグロデッキに無理なく追加アクセスカードを採用するためには、④メインプランと追加アクセスの役割を兼ねるカードを採用する
⑤追加アクセスカードがメインプランに貢献する構造・ゲームプランをとる

ことが必要である。

④メインプランと追加アクセスの役割を兼ねるカードを採用する
簡単に言えば、クロックや火力、土地などのメインプランのために普通に採用されるカードに、オマケやオプションとして追加アクセスの役割が付いていれば良い。これは、"③複数の枠を兼ねるカードを採用する"の内容と多分に重複するが、副次的な役割が追加アクセスでありメインプランに直接貢献しないという部分がポイントである。
しかし、当然ながらこれはあくまでメインプランに関わるカードとして最低限の性能がある前提である。クロックと追加アクセスを兼ねていようと、アグロデッキのクロックとして《血清の幻視家》を採用することは不可能である。

クロックや能動スペルにオマケ・オプションとしてついている追加アクセス効果によって、そのカードのマナコストがどれだけ重くなるかは個別のカードによるが、一般的な傾向を語ることはできる。
下表は追加アクセス能力をオマケ・オプションで持つカードの代表例を[追加アクセスの種類]と、その[条件・追加コスト・制約]で整理したものである。極力、各フォーマットでアグロを中心に実績のあるカードを選んだつもりではあるが当然網羅できてはおらず、また、わかりやすさ重視のため一部重複や厳密ではない部分があるがご容赦願いたい。

縦軸が[追加アクセスの種類]である。上に行くほどアクセスの質(アドバンテージ性・プレイの容易性・自由度)が高い。厳密には異なるところもあり、種類ももっとあるだろうが、分かり良さ優先で4つ+その他に分類した。
横軸は追加アクセス効果を得るために、マナコストに追加して必要な[条件・追加コスト・制約]である。大きく分けてマナが必要かどうかで区別した。
特にフェアデッキが支配的なフォーマットの上位tierデッキを思い浮かべたときに、それらのデッキがこのような類のカードによって如何に安定性を支えられているかが分かるだろう。

まず、追加マナ不要のカード群に着目しよう。

当たり前の話だが、簡単に追加ドローが出来て(=アドバンテージが取れて)かつクロック等メインの性能に優れるカードは非常に限られる。これは、ドローというアクションが非常に強い効果だと考えられてデザインされているからに他ならない。

一方で、他の条件を満たすことで、その難易度次第では比較的容易に追加ドローが可能になる。アグロデッキ目線で言えば、戦闘・戦闘ダメージ誘発が満足しやすい条件の一つだろう。

もちろん例外はあるが、傾向としては青と黒の2~3マナ域のクリーチャーにこれに類するカードが多いようだ。特に黒は、それなりのサイズを持ちながらカード供給できるカードが多く、上記の例以外でもスタンダードレベルでは多数のクリーチャーが同種の能力を持っている。除去や盤面に左右され、ある程度構築も戦闘に寄せる必要があるからか、コストパフォーマンスという点では比較的優れる印象がある。

他の追加コストや制約は様々あるが、うまく使うには構成を寄せる必要があるものが多い。アグロデッキで言えば部族ボーナスがわかりやすい例だろう。この種のカードは制約が厳しい一方でクリアさえできればカード消費0で盤面を構築できるので、"連打してるだけで勝っている"状況をしばしば生み出し得る。

衝動的ドローも追加ドローと同じくアドバンテージを得られる能力だが、プレイできる期限が限られており、特にそのターン限りの効果の場合はプレイできるとは限らずあまり安定しない。
それでも、やはりアドバンテージを取れる可能性のある効果は強く評価されるようで、通常ドローと比べて比較的安価に衝動的ドロー"だけ"をできるスペルは数が多いものの、オマケ効果で衝動的ドローができるカードは多くは存在しない(そもそも母数が少ない)。
また、衝動的ドローをうまく使うためには構築の制約も大きい。めくれたカードを使い切ろうと思うと、
・除去などの受動的なカード
・マナコストが重いカード
はあまり採用できない。後者は軽く寄せればいいだけだが、前者についてはサイド後に《焦熱の射撃》《毒を選べ》等が取りにくくなるなど、ゲームプランに大きな影響を与える。特にバーン寄りのデッキがサイド後に取れる「火力で盤面を捌いて置物で勝つ」いわゆるコントロールモードにモードチェンジしにくくなるのはスタンダードレベルでは無視できない影響である。

次に、ルーティング(手札の入れ替え)とトップ操作(占術・諜報・探検等)を考えよう。これらの効果は基本的にアドバンテージを得られないため、前述追加ドロー・衝動的ドローに比べて大幅に安く、概ね0~0.5マナ相当でコスト設定されていることが見て取れる。

前述衝動的ドローとルーティングは赤のカラーパイなので、赤系のアグロの場合はこれらの能力に着目することになるだろう。特に戦闘誘発とルーティングの組み合わせは非常に安いコスト設定になっておりほぼタダ同然で行うことができることが多い。
また、ルーティングはドローに比べてアクセス枚数が多い傾向がある。これは特定のカードにアプローチするという観点で非常に大きなメリットになり、事故解消効果も大きい。《鏡割りの寓話》デッキの強さの根幹である。

トップ操作はドローやルーティングと異なり、カードを直ちにプレイできる領域に引き込むことはできないが、ちょっとしたカードにオマケでついていることが多い。特に占術に関しては色やカードタイプの縛り無く様々なカードにフランクついており、あまり傾向もない。
アグロデッキの場合、1~2マナのクロック1スロットがトップ操作能力を持っているとキープ基準になるので見た目以上に安定する印象がある。

フェッチランドがあるモダン環境においては、一般的なギミックとして①《ミシュラのガラクタ》+フェッチランド(シャッフル手段)②諜報ランド+フェッチランド によるトップ操作ができる。

これらのギミックを組み込めるデッキは安定性の観点で潜在的なアドバンテージを獲得できると考えて良い。特に後者については、早いデッキではタップインを嫌って敬遠しがちだが、最低限1/60枚諜報ランドを仕込めばいいだけなので積極的に採用を検討して良いだろう。

上述の分類に当てはまらないカードをその他に記載した。白系に多い特定の属性のカードをライブラリー全体orトップn枚からサーチするカード、赤系にたまにある追放領域にカードを貯める変則ドロー、エネルギーというよくわからないリソースを使って何故か踏み倒しまでできる《色めき立つ猛竜》などである。
ケースバイケースなので一般的な傾向は語れないが、どのカードも制約はあるもののハマる構築さえできれば量的・質的に優れたアドバンテージ源に成り得る。変則的な条件も多いので評価が難しいが、寄せたデッキでは非常に強力に作用する。

次に、追加アクセス効果を得るためにマナがかかるカード群について述べる。

[起動型能力/モード呪文/分割してマナを払える能力]と書くとややこしいが、要は「通常時はメインプラン用のパーツとしてプレイできるが、事故などで必要な時だけマナを払って追加アクセス効果を得ることを選択できる」カード群を指す。
これらのカードは効果を得るのにマナこそ掛かるものの、通常時はメインプランを一切阻害せずに下振れ時の振れ幅を抑えられる、と言う点でアグロデッキでの採用を検討するに値する。
もっとも、そのようなモードを持つ呪文はその柔軟性からそもそものコストを高めに設定されたり、得られる効果が弱め/重めで無いよりはマシ、程度なことも多い。あくまで事故や長期戦の時にとれるオプションととらえるのが良いだろう。

[別のカードのプレイが必要]なカード群と言うのは、自分単体では何もしない代わりに、他の特定のアクションと組み合わせて継続的に効果を生み出す、いわゆるシステムやエンジンの中核になるカードである。活用するには構築に対して大きな制約を課すが、機能した時は自分の能力で次の"弾"を供給できるのでインパクトは絶大である。実際、デッキの中核パーツになるカードも多く、構築を寄せる・デッキを組むインセンティブになり得るカード群であると言える。

ここまで長々と述べたが、簡単に言ってしまえば"メインプランの動きを阻害せずに追加アクセスできるカードは事故に強い"である。そして、ここで言う"メインプランの動きを阻害しない"とは主に、
・マナがかからない
・メインプラン用カードの枠を圧迫しない
である。やや特殊な例ではあるが、「0マナで追加アクセスできる」カードもこの条件に当てはめることができる。具体例は、
・《ミシュラのガラクタ》
・《魔力変》
・《通りの悪霊》
・《むかしむかし》(ゲーム初キャスト時)
・《運命を貪るもの》(能力)
が該当する。

ただ、キープがしにくくなったり後引きのリスクがあったりと、どれも手放しで採用できるカードではない。採用するにはアーティファクトカウントやストームカウントなど、そのカード自体に一定の付加価値が必要だろう。逆に言えば、噛み合うデッキで使えるのであれば付加価値分丸儲けである。
但し、《むかしむかし》に関しては条件も緩ければ対象も広いので多くのデッキでは使い得である(あった)。誰が考えたんだこのカード。

⑤追加アクセスカードがメインプランに貢献する構造・ゲームプランをとる
前項はあくまでクロックなどのメインプラン用のカードのオマケとして追加アクセス効果を得ることを考えたが、本項は追加アクセス効果を持つアクション・カード自体がメインプランに組み込まれるデッキ構造について述べる。
アグロデッキでドロースペルのような追加アクセスカード(主にインスタントやソーサリー)のプレイが許容できないのは、ライフや盤面に影響を与えないからである。であれば、逆説的に、追加アクセスカードのプレイという行為をダメージや盤面形成に変換するカード採択・構造であれば、追加アクセスカードの採用を許容できるようになる。
代表的な例で言えば、
・スペルのプレイで誘発する効果を持つカード(果敢・ストーム 等)
・プレイしたスペルが墓地に落ちることでボーナスを得るカード
 (探査・墓地参照カード 等)
が該当し、アグロではないがパイオニアのイゼットフェニックスが正にこれに当てはまる。

・《フェイの解放》《考慮》《選択》《手練》
等を大量に採用しドローを進めることで、必要なカードを供給しながら

・《弧光のフェニックス》《帳簿裂き》《若き紅蓮術士》
等の能力を誘発させ、

・《宝船の巡航》《時間への侵入》《弾けるドレイク》
で墓地を使ってゲームを決める。

ドローカードを多用する構成上、展開の再現性が非常に高く、その時々に応じて除去やカウンター、サイドカードなどの必要なパーツを適宜供給できる=事故が起こりにくい。

上位メタにはあまり現れないが、赤系の果敢アグロも追加アクセスカード(衝動的ドローが多い)をダメージに変換することができる。ただし、アグロのスピード感ではどうしてもパンプスペルなどに枠を割かねばならず、イゼットフェニックスのような安定性は獲得しにくい。
例外は旧ヒストリック環境のイゼットウィザードだろう。これはアリーナ調整版《対称の賢者》が異次元の超高打点を作り出すためパンプスペルの枠を空けて《表現の反復》や調整版《導師の導き》、《アノールの焔》と言った優れたリソースカードを大量に採用できるためである。

《対称の賢者》《導師の導き》はアリーナ調整版カード

スタンダードやパイオニアでも、《精鋭射手団の目立ちたがり》のような高打点カードが増えてパンプスペルの枠をリソーススペルに置換することができれば、同じように高い安定性を確保することができるだろう。

●偏りによってパフォーマンスが低下しにくいカード・構造

ここまでは、そもそも偏りを発生させない/発生しても解消することによって事故を回避する手法に触れたが、本項では偏りが発生した上でもメインプランを遂行できる=事故にならないカード・構造について述べる。

そもそも"事故"の定義は、
[初手及びドロー内容の偏りによってプレイが制限され、期待したゲームプランを実行できないこと]
であり、"偏り"の定義は
[デッキの各要素の構成比に対して、特定の要素のドロー枚数が過剰に多い/少ない状況]
であるから、多少偏ったところでプレイが制限されなければ問題ない。その為には、
⑥ゲームプランの成立に必要なカードの枚数・要求マナを少なくする
⑦ゲームプラン・レンジを可変にする
ことが有効である。

⑥ゲームプランの成立に必要なカードの枚数・要求マナを少なくする
何故偏りによりプレイが制限されるかと言えば、単純にゲームプランを成立させるために必要なカードが足りなかったりプレイできないからであるから、そもそもプラン成立のための必要枚数を減らせば多少偏ったところでカードもマナも足りるのである。
また、少ない枚数でプランが成立するということは、それだけマリガンを許容できるということでもある。その上、ゲームプランに直接関係のないスロットはフリースロットになるので、環境や有利不利に合わせた構築の自由度、サイドボーディングの幅も確保できる。これは強いデッキの特徴の一つである。

最たる例は《暴力的な突発》禁止前のモダンのカスケードクラッシュだろう。基本的には土地3枚と続唱スペルだけで勝てるので、構築の制約はあるもののあとはバックアップスペルに充てれば良い。

当然ながら、群雄割拠のモダン環境において残りのドローが何でもいいわけでは無いし、マッチアップによってカウンターや除去などの噛み合いは求められるが、勝つために必要なカードが土地を除けば1枚引ければいいことにより、残りの枠を妨害や補助スペル、対策の対策に割けるデッキ構造の強靭さが高い安定性をもたらしていたことは間違いない。

パイオニアのラクドス吸血鬼もこの類のデッキだろう。何せ《傲慢な血王、ソリン》と《血管切り裂き魔》+土地3枚でプランが成立するのだ。これらがそろえばよし、そろわずともハンデスと除去で適当に時間を稼いでいればよし、《鏡割りの寓話》で揃えに行っても良い。

そもそものプランに必要なカードが少ない上に、《鏡割り寓話》や血・トークンのルーティングで偏りを解消できるという、非常に事故耐性の高いデッキであることが分かる。実際、このデッキを使用してみると、そんなに高確率では《傲慢な血王、ソリン》《血管切り裂き魔》がそろわないし、除去や弱いクロックばかり引くことも多いが、上記の要素によってそんな状態からでも十分勝ちに行くことができる。

アグロデッキの場合、残念ながら基本的にこのような手段はとりにくい。何故なら、軽さと手数によって早いターンにライフを詰めるという特性上、どうしてもスペルの枚数が必要になるからである。それでもできることといえば、
・高ダメージ効率カードを採用することで、20点を削るのに必要な土地・スペル数を減らす

くらいであろう。前項で述べた旧ヒストリック環境のイゼットウィザードはこれを満たしている。
ただ、これを実現するレベルの高打点カード(調整版《対称の賢者》など)は当然ながらそうそう現れない。どちらかと言えば、シナジーに目をくらませて無暗に噛み合いカードを増やさないことを気を付けるべきであろう。最大速度を求めてのシナジー搭載構築をアグロプレイヤーは好みがちだが、勝利に必要な枚数が増えることは根本的な安定性に影響する極めて重大なデメリットであることを認識して慎重に検討しなければならない。

上で例に挙げたラクドス吸血鬼は、普通のラクドスミッドレンジと《血管切り裂き魔》のアンフェアな早期プレイという2面の性質を持つデッキである。《血管切り裂き魔》の持つ除去耐性・フィニッシュ能力によって、「《血管切り裂き魔》に対処できるかどうか」という対ラクドスミッドレンジとは全く別のゲーム焦点を作ることができるのが強みと言っていいだろう。この、"全く別のゲーム焦点を作る"ことがポイントで、それができる《血管切り裂き魔》=ゲームチェンジャーの存在が少ない枚数でゲームプランを成立させている。
状況は限定されるし《血管切り裂き魔》ほどの高信頼性のカードはなかなかないが、アグロデッキでも"ゲームチェンジャーとなるカードを採用することで少枚数・緩い条件でプランを成立させる"アプローチは可能である。
例えば、通常の「速さと手数でライフを削る」というプランに対して、
・《熱烈の神ハゾレト》
 :破壊除去に頼る相手に、殴って能力起動していれば勝つ
・《エンバレスの宝剣》
 :どこかで安全に装備できれば勝つ
・《ウラブラスクの溶鉱炉》
 :アーティファクトに触れない相手に、設置後ゲームが長引けば勝つ
・《暴れ回るフェロキドン》
 :ライフゲインに寄せた相手に、定着後はカード交換していれば勝つ
という本来とは別の勝利条件=プランを作ることができる。

当然ながら多くの相手に簡単にプランを作れる《血管切り裂き魔》のようなカードは多くないが(多くの相手にゲームチェンジャーとなり得るカードがあれば、それを主軸にしたデッキが成立する)、マッチアップを限定すればそれなりに存在する。その性質上、対処が難しい能力・属性を持つ脅威や特定のコンセプトを否定するカードがゲームチェンジャーになりやすい。
多くの場合はサイドカードとしての採用になるだろうが、汎用的な性能を兼ね備えているのであればメインボードに採用して有利マッチアップを作りに行くのも一つのアプローチであろう。

⑦ゲームプラン・レンジを可変にする
⑥は必要なカードが少なければ偏ったカードを使わなくても勝てる、というものだが、偏ったなら偏ったなりに、偏ったカードを使ってプランを成立させられるのならそれでも良い。言い換えれば、成立条件の緩いプランや成立条件が異なる複数のプランを持っていれば良いのである。
こうしたサブプランとしてよく選択されるようなゲームの運びは、プランB・モードチェンジと言われることが多く、自分のドローの質や相手の行動に合わせてある程度主体的にプラン移行できるデッキは一般的に強いデッキだと言われる。

ゲームプランとは簡単に言えば「どんなアクション(種類/重み)」を「いつ(タイミング/回数)」するかのパターンで表現ができる。よって、別のプランに移行するためには、引いたカードが状況によって役割(アクションの質)/パフォーマンス(アクションの重み)/マナ消費量(アクション可能なタイミングと回数)を変えられる柔軟性を持っている必要がある。

・役割:クロック/除去/アドバンテージ源など、1枚のカードで複数の役割・使い道を持つことで、その状況に応じたプランの選択が可能。例:《探索するドルイド》→通常時はクリーチャーとしてプレイして早くライフにプレッシャーをかけるが、消耗戦になるマッチアップ・ゲーム展開では終盤まで温存してアドバンテージ差で勝つためのリソース源としてプレイする。
・パフォーマンス:ゲームに与えるインパクト。通常はコストと相関がある。1枚のカードのパフォーマンスが可変であれば、ターン進行や状況に応じてゲームレンジを調整しやすい。但し、ここでは量的な変化(ダメージ量が2点→4点 等)を指し、質的な変化(2点ダメージ→2枚ドロー 等)は"役割"項に含む。例:《搭載歩行機械》→序盤はX=1でプレイして育てるが、終盤でもX=3~4で盤面に十分なインパクトを与えられるので、相手の展開や自分のドロー次第で温存を選択できる。
・マナ消費量:マナコストと類似の概念だが起動・誘発型能力などによるマナ消費も含む。マナの使い道と言い換えても良い。テンポが求められる状況では軽くプレイでき、マナが浮く展開ではうまくマナを使えるか、を指す。基本的にマジックのカードはマナを消費することでその量に応じて何らかの付加価値を生み出すようにできている。モード呪文のように支払うマナコストを選択して異なる効果(役割)を発揮させたり、X呪文のようにマナの支払い量に応じてパフォーマンスを増減させることができれば、可処分マナの消費配分パターンが増えるので、プレイ・アクションの選択肢が生まれて取れるゲームプランも広がる。基本的には上述の"役割""パフォーマンス"の裏写しの概念だが、「アクションを埋める」という観点でゲームレンジのコントロールに大きく影響する。例:《血に飢えた敵対者》→序盤は2/2/2速攻として早く攻めるプランに貢献するが、マナフラッド時や終盤戦では浮きマナを追加のアクションに変換できる(5マナのアクションとしてカウントできる)。

具体例を示そう。

これらの観点で、赤系のアグロデッキの大きなアドバンテージとして本体火力の存在が挙げられる。

上表で本体火力に該当する各カードが"役割"欄に○が付いているが、これは、本体火力が「プレイヤーのライフを直接削る」「盤面のクリーチャーやPWを除去する(火力が除去として機能する相手に対しては)」という2面の機能を持っているからである。もっと言うと、「盤面のクリーチャーやPWを除去する」機能には「ブロッカーを排除してクロックを通す」「相手の脅威を対処してゲームを継続させる」という攻守両面の使い道がある。
従って、赤いデッキは本体火力を1~2スロット程度無理なく採用できる点で、クロックで詰める/火力で詰める/盤面を捌いて別の手段で勝つ という3つのプランをある程度自由に選択できるという特権があると言える。当然本体火力だけでそれらのプランを完遂することは難しいが、サイドを含めた他のカード採択次第で現実的に十分狙える範囲であり、これが他の色のアグロデッキに無い強みの一つである。
実際、ここまで明確に意識はしていなくとも、「4ターン目まではクロックでできるだけライフを詰めて、そのあと盤面取られても火力2枚で焼き切ろう」(アグロ→バーンへのモードチェンジ)とか、「サイドに追加の除去と触りにくい勝ち手段を投入して相手の除去プランを透かして勝とう」(アグロ→除去ミッドレンジへのモードチェンジ)等は赤単プレイヤーならある程度は意識していることだろう。

マナ消費量に関連するトピックとして切り離せないのはマナスクリュー・マナフラッドだろう。他のアーキタイプでもそうだが、特に序盤のアクション数が命のアグロデッキにとっては事故といえばまずこの二つの類型になる。
それぞれについて、カード性能の可変性の観点でそのようなカードが対策として有効かを考えよう。

【定義】"マナスクリュー"(土地過少)
[土地枚数が過剰に少なく必要なアクションの要求マナを払えないため、各ターンごとのアクション回数が制限されること]

まず、マナスクリューについては、"土地枚数<規定ターンのマナ消費量要求"な状態と言い換えられる。したがって、求められるのは、
(1)軽いマナでプレイしても十分なパフォーマンスを発揮するカード
(2)マナ消費量(コスト)が軽い側に可変なカード
(3)役割を土地/追加アクセスに可変なスペル(非土地カード)
と言えよう(これらは重複する)。
(1)(2)について、確かにそのようなカードは存在するが、アグロデッキはそもそも軽く寄せているデッキであり、そこからさらに軽く動けるカードというと選択肢が非常に限られる。中~低速のデッキであれば、《冥途灯りの行進》や《怒りの大天使》など、別のコストの支払いや最大効率よりも効果を落とす代わりに軽くプレイできるカードはそれなりにあるのだが、元が軽いカードはコストの軽減代がほとんどないのである。

(3)については、どちらかというと別項の「偏らない構造を取る」「偏りを解消できるカードを採用する」に分類されるので詳細は割愛する。基本的には両面カード(片面土地)や諜報ランド、その他追加アクセス効果を持つカードを採用することになるだろう。

【定義】"マナフラッド"(スペル過少)[スペル枚数が過剰に少なく想定するゲームプランよりも早いタイミング/少ない回数でアクションが尽きてしまうため、適切なターンに必要なアクションが取れないこと]

一方で、マナフラッドについては
(1)マナを浮かせない使い道
(2)序盤のアクション不足を取り返せる高パフォーマンス呪文
の採用により緩和できる。
(1)については俗にいう"マナフラ受け"カード群である。バリューランドやマナを要求する起動型・誘発型能力が該当する。メインボードにはあまり取られないが、毎ターンアドバンテージを供給する置物系カードもこれに含まれる。
(2)についてはX呪文や《血に飢えた敵対者》など、注ぎ込んだマナの分だけパフォーマンスが向上するカードである。繰り返し起動できる起動型能力でも良い。

マナフラッド耐性の高いアグロデッキの具体例としては旧スタンダードのラムナプレッドがある。"強いアグロ"の代表格としてしばしば名前の挙がるこのデッキだが、その要因の一つが正にマナフラッド耐性である。

基本的に1~3マナクロックでの高速アグロがメインプランで、4マナまで伸びれば十分に機能する構造でありながら、《ボーマットの急使》《地揺すりのケンラ》《熱烈の神ハゾレト》、そして何より《ラムナプの遺跡》の効果によって5ターン目以降でもアクションが途切れない。

土地枚数は24枚と、4マナ域が1スロットあるデッキとしては標準的か1枚多く、一般的なアグロデッキとの比較でも数枚多いが、前述のマナが余らない構造のためにマナフラッドすることはほとんどない。
余談だが、ラムナプレッドというデッキは本記事で説明している事故ロバスト性という観点でお手本のようなデッキで、ここまでで述べてきたロバスト性改善アイテムが多数含まれている。

ここまでの内容からわかるように、「マナ消費を抑えられるオプション」を持つカードは、「マナをかけてパフォーマンスを向上させるオプション」を持つカードに対して圧倒的に選択肢が少ない。他項で触れた「偏らない構造を取る」「偏りを解消できるカードを採用する」手法についても、マナスクリューに対しては手放しで採用できる性能のカードは少なく、総合的に見てアグロデッキにとってはマナフラッドよりもマナスクリューの方が対策が難しいと言える。逆に言えば、マナフラッドは意識していればある程度カード採択でごまかせる、ということでもある。

詳しくは、下記の記事によくまとまっているので、そちら参照されたい。

"伸縮性"項を参照。

"期待値を置きたい場所"項を参照。

■まとめ

ここまでの内容をまとめよう。

■"事故"の定義と類型
・"事故"とは
[初手及びドロー内容の偏りによってプレイが制限され、期待したゲームプランを実行できないこと]
・"偏り"とは
[デッキの各要素の構成比に対して、特定の要素のドロー枚数が過剰に多い/少ない状況]
・事故は、特定の要素が偏ることで過少になることで生じる
■改善アイテムとその効果
偏りが発生しにくいデッキ構造にする
①デッキ構成要素の種類・要求枚数を減らす
 ・噛み合い要素を安易に増やさない
②採用カードを特定の枠に寄せる
 ・プランが硬直傾向になる、明確な弱点が生じる
③複数の枠を兼ねるカードを採用する
 →プレイモードを選べるカード
 →常在/軽い起動型/緩い誘発型能力を持つカード
 →特定の属性を併せ持つ/他属性の特徴を内蔵したカード
偏りを解消・緩和できるカード/構造を採択する
④メインプランと追加アクセスの役割を兼ねるカードを採用する
 ・戦闘誘発/ルーティングなど、リーズナブルな条件に着目する
⑤追加アクセスカードがメインプランに貢献する構造・ゲームプランをとる
 ・果敢アグロ等、特殊なギミックが必要
偏りによってパフォーマンスが低下しにくいカード・構造を取る
⑥ゲームプランの成立に必要なカードの枚数・要求マナを少なくする
 ・打点目当てに安易にシナジーパーツを増やさない
 ・ゲームチェンジャーとなるカードを採用する
⑦ゲームプラン・レンジを可変にする
 ・③複数の枠を兼ねるカードがプランチェンジに有効
 ・本体火力はプランチェンジを助ける潤滑剤になる
 ・マナスクリューはカード単位での対策が困難だが、
  マナフラッドは比較的容易

改めて書き出してしまえば当たり前のことだが、事故が発生する構造を体系的に理解して、小さなロバスト性改善アイテムを少しずつ積み上げていくことで、アグロデッキの構築に少しでも役立てられればと思う。
自分でデッキを組んだ時、またはデッキリストを見たときに、「このデッキは事故に強そうだな」「このカードは事故の要因になりそうだな」という気づきのフックになり、さらには「この枠を変えたらロバストになるのではないか?」という検討の一助になれば幸いである。

賢しらに長々と書いたが、あくまで私の考えを整理しただけなので、これが正解だということもない。私が思い至らないこと・知らないこともあると思うし、きっと誤りや理解が甘い部分もあるだろう。もしそのようなご意見や疑問等があれば、後学のためにもぜひご指摘賜りたい。

また、こんなことを書いておいて、私が愛用しているのはカルドーサレッドという不安定の塊のようなデッキである。だからこそ「好きなデッキを少しでも良くしたい」という気持ちで色々と考えた側面もあるので、この記事を読んでもし役に立ちそうだと感じてもらえたなら、是非自分のお気に入りのデッキをピカピカに磨いていただきたい。

以上

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