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クラフトビールを...汲みにいこう #ビール工房 新宿

西新宿の摩天楼の地下2階、ビール工房 新宿でビールを汲みました、という話。

昨年来のビールを店で飲めない/飲みづらい状況を受けて、ブルワリー、ブリューパブ、ビアバーといった各業態で、ビールの持ち帰りサービスが広まった。瓶・缶での持ち帰りは勿論、樽からビールを容器に注いで持ち帰ることができる、そんなお店が増えた。

ご存知の方も多いかもしれないが、ビール好きのスラングで、持ち帰りの樽詰ビールを調達しにいくことを「汲みにいく」と言う。元来酒に使われる「酌む」ではなく飲料全般の「汲む」。なんとなく自分は、ポリバケツで名水の湧き水を貰いにいくイメージを想起する。詩的な表現だと思う。サウナ後の心身の充足感を「ととのう」と表現するのに、どこか近いものを感じる。

樽詰の持ち帰りは、①お店が用意した容器ごと提供してくれる ②客が用意した容器に量り売りの形で注いでくれる パターンに大別される。

①については、炭酸用ペットボトルで提供する場合もあれば、瓶や缶などお馴染みのビール容器に充填してくれる店もある。まぁ、樽ごとの場合もあるだろう。ペットボトルの場合は酸素を透過し品質劣化の原因になるので、早めに飲んだほうが良い。

②の場合は、当然ながら水筒等ビールを詰めれれば何でも(炭酸用ペットボトルの使い回しでも)良いわけだが、昨今よく耳にするのが「グラウラー」だ。ビール持ち帰り用の容器として理解されるが、材質・形状等に定義はない。ステンレス、陶器、ガラス、色々...正直フリースタイル。当然使い回しての利用になるので、エコロジー的な側面も長所だ。

元々は容器から炭酸の漏れる音を、動物の唸り声に準えて「growl」の語が使われたようだ。最近の広まりを受けて、オリジナルのロゴ入りグラウラーを販売するブルワリー、店舗もある。例えばいわて蔵ビールは味のある(比喩)陶器製の「蔵ウラー」を販売した後、水筒タイプの第二段ではホップペレットを後から追加できる「味変」(比喩でない)機能まで搭載した

グラウラーとして販売されている商品を選ぶ際には、容量、保冷性能、内部の洗いやすさ、気密性(炭酸の抜けにくさ)あたりが選定のポイントになる。自分が使っているのはRevoMax 2 の 20oz(592ml)。少々値は貼るが、上述の点で優れている上、開閉も簡単だ。結構人気商品で偽物も出回っているようなので、直営サイトからの購入を推奨する。自宅(神奈川東部)には2日で届きました。

先日、「ビール工房 新宿」でビールを汲んできた。同店は西新宿の高層ビルエリアに位置する、新宿野村ビルの地下2階でビールを醸造しているブリューパブだ。人と付近を通ったとき「ここの地下でビール造ってるんですよ」と言うと、たいてい驚かれる。商業施設の中のブリューパブは増えてきたが、コテコテのオフィスビルの、さらに地下フロアというのは珍しいだろう。宣言前にも伺ったが、料理も大変美味しかった。開放的な...といっても目の前はエスカレーターの地下階だが、開放的な雰囲気のテラス席も楽しい。

「ビール工房」は '10年に高円寺でオープンした店舗を元とし、”街のビール屋さん“ を標榜するブリューパブ・チェーンだ。系列店の一覧を見ると、流石カルチャーの息づく中央線沿線の立地が多く、本邦には未だ少ないブリューパブのチェーン業態がこのように形成されていくのかと、頷けるモノがある。まだ行ったことがないが、阿佐ヶ谷のビアバー 20TAPS では、各店舗で作ったビールが集まっている模様。

さて、新宿店スタッフの方に持ち帰りの旨を告げると、さっそく慣れた手付きで量り売りに取りかかってくれた。ビール工房オリジナルのグラウラーも発売されていて、そちらの場合は中身が安くなるキャンペーンもあるようだ(記事作成時点)。カウンター横のガラス越しに覗く醸造設備を眺めながら、約600mlが充足されるのを待つ。

Rich Malt IPA / ビール工房 新宿

名前のとおり、モルティな個性が際立つIPA. ビール工房 新宿における人気銘柄のようだ。光に透かすと鮮やかな赤銅色が美しい。

草花のようなアロマとともに、飲む前からモルト由来の豊かなカラメル感が漂う。エステル香も感じた。飲むと、ホップの草っぽい個性、ニゴっとした苦味が舌と喉に広がり、やがて消える。甘味は輪郭がくっきりして、明確。しかし、苦味とのバランス、そして鮮度もあろうか、後味は非常にスッキリしていると感じた。ボディも相応に強いが、重すぎるようには感じず、飲み口のまろやかさを形成している。

言うなれば、ゴクゴクもチビチビもイケる。西海岸系の鮮烈ホップ系とは明確に違うが、ブリティッシュな枯淡、あるいは重厚 IPAとも距離がある。贅沢な造りの中にも、優しい素材感。鮮度よいビールならではの栄養感、元気を飲んでいる感じも楽しめた。味負けはしないが甘味・苦味のバランスがよく、食べ合わせならシチューやグラタン、そこまで味の強くないタイプのチーズ等に、かなりマッチしそうだと思った。

Abv. 8.6%

アロマ :★★★☆☆
→ 草、花、カラメル、エステル
フレーバー :★★★☆☆
→ 草、カラメル
テイスト
→ 苦味 :★★★★☆
→ 甘味 :★★★★☆
→ 他 :-
炭酸 :★★☆☆☆
ボディ :★★★★☆

6月に入り、通常どおりの時間帯・店内酒類提供での営業を再開する店も出始めた。人気店の再開の報が、ビールファンの歓喜を以て迎えられ、実際に繁盛している様子も見える。現在の状況において、酒類の提供を含む通常営業を再開する・しないは諸々の事情(立地、規模、取引先、etc.)を背景としたお店それぞれの判断であって、一利用者の立場から良し悪しを問えるものではないだろう。

一方で、再開した店からの発信に比べて、引き続き営業を控えてたり業態を縮小している店の発信のほうが、見えづらくなる構造があることは確かだと思う。なればこそ、個人的には...本当に個人的な規模においてだけれど、自分は後者を応援したい。色々な意味で「割りを食う」状況にあって、難しい判断をされている各店には敬意あるばかりだ。万全の状態で飲みに行ける日が待ち遠しい。

また汲みにいきます。

ところで東京都庁を含む西新宿の高層ビル群一帯は、昭和中期までは淀橋浄水場と呼ばれる東京都の浄水施設だった(浄水場というのは、摩天楼が何棟も立つほど広大な施設だ)。かつての東京を支えた水瓶、往時を忍ばせる遺構は殆ど見られないが、偶然にも「汲みにいく」という表現には縁がある立地だと気づいて、少しニマニマした。

いや、そんなこと言ったら「飲みにいく」もそうなんだけど。

あんまり関係ない話。

リモートワーク、今さらだがシンドくなってきた。気候だろうか。たぶん我々には「通勤時間がない」という贅沢もあれば「家の外に決まった仕事場がある」という贅沢もあるんだろう...。

以上





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