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#005 ただそこに居たバンアパ

はじめてthe band apartを聴いたのは「higher」だったか、「Eric.W」だったか、はたまたディズニーのコンピレーションアルバム『DIVE INTO DISNEY』収録の「WHEN YOU WISH UPON A STAR」だったか。とにかく2003~4年頃で、当時中学1~2年生頃だったのは覚えている。

当時の邦ロック勢とも誰とも似つかわしくなく(よくACIDMANと比べられていた気もするが、ACIDMANほどロキノン系な感じで言われてもいなかったのであんまり似てる印象でもなかった)、オシャレなコード感で変拍子も織り交ぜながら英語で歌われる楽曲。匿名性のあるMV。そしてなにより歌声が澄んでいるのに、その歌っている人含めバンドメンバーが全員ガタイが良い。匿名性あるMVなのに、そこから漏れちゃうくらい記名性のあるガタイの良さ。当時ネットの掲示板で「アジカンとバンアパを並べると、いじめっ子といじめられっ子みたいだ」という旨の文章を読んでケラケラ笑った覚えがある。

お金がない中学生が音楽を聴く手段はレンタルCDだったが、当時インディーズミュージシャンはレンタルが解禁されていなかった。そのためバンアパを聴く手段がなくて、高校生になってバイトをするようにならないとバンアパのアルバムを聴くことができなかった。近所のゲオで「HY解禁!」ってポスターがあったのも懐かしいな。

CDは買えなかったけど、CD屋に行ってジャケットを眺めたり、フリーペーパーを入手することはできたので、近所の新星堂やタワーレコードにはよく行っていた(侘しい遊びだな!)。そのときにちょっと不思議に思っていたのは、バンアパがなぜか「パンク・ラウド」コーナーのCD棚に置かれていたことだった。たしかに英語で歌ってはいたが、それがメロコアとかパンクにつながる音楽性とは全然思えなかったので多少違和感が残っていた。「まぁ、そんなもんか」程度には流していたが、引っ掛かっていたことは確かだった。

そして僕も音楽をやるようになって、その世界の大先輩と上記の話をした覚えがある。そうしたら、結局CD屋の棚に区分された邦楽のジャンルなんて、たかが「J-POP」「ロック」「ヒップホップ」「パンク・ラウド」くらいで、「なんとなくこのジャンルの人たちだろう」ということで置かれているということだった。その「なんとなくこのジャンルだろう」の指標になるのが「誰と仲が良いか」ということであった。"耳で聴く娯楽"の区分の仕方が"目で見える関係性"とは、なんとも皮肉な話だなって思った。でもこれも仕方がないのは、バンアパを聴いて「これはロックだ!」と断言するのも難しいし、当時はバンプ・アジカン以降の日本語ロック全盛時代のなかで、英語で歌うバンアパをそこに区分するのも難しかっただろうから、泣く泣く「パンク・ラウド」コーナーに置かれたのだと思う。

今音楽をやっていて、「誰と仲良くなるか」が政治になりがちの風潮がどんどん強まっているように思える。誰とfeat.して、誰とコラボして、誰の楽曲に参加して、誰に作詞作曲を提供して、誰と対バンツアーをやって、誰と飯食ったことをSNSにアップして…。SNSのせいで「誰と仲が良いのか」「誰とつながっているのか」の可視化が"良いように"見られる風潮が蔓延ってしまった。

そんな時代のなかで思い出すのが、オシャレな音像なのに変拍子がたんまり入り込んで、メンバー全員があんまり顔を出さないMVで、英語で歌っているから当時の邦ロック特有のメッセージ性の有無もわからず、すごく清らかな声なのにみんな喧嘩が強そうなガタイで、ベースの人の顔がすごいことだけはわかるthe band apartの「何だこれ?」という異質な存在感だった。今思うと「オシャレな音像」の真反対をいろいろやってるんだよな。「オシャレな音像⇔変拍子」「オシャレな音像⇔ガタイが良い」「オシャレな音像⇔ベースの人の顔がすごい」。そしてメッセージ性がわからない、顔がわからないという匿名性。また当時から一貫して自主レーベルのため、メジャーでありがちなタイアップ等の目に見えた「売れるために」という手段も取っていない。ただただちゃんと定期的にアルバムがリリースされて、ツアーやフェスに出る人たち。

なんか最近、”ただそこに居る人たち”というミュージシャンがいないなって思ったんですよね。誰と仲が良いとか、誰とつるんでいるとか、どの界隈とか。そういうものが全然見えてこないのに、定期的にライブやリリースは行っているから存在していることはわかる。そんな"ただそこに居る人たち"が最近は居ない。皆がみんな、それぞれのかたちで悪い言い方をすると"政治"や"人事"を行っている。そんな時代に"ただ居る"ことこそが価値として重きを置かれるようになったら良いなと思いました。

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