最初のお客様②
ザザァァァァ
勢いよく流れてきたのは大量の水
「あぁ〜これはこれはまた盛大な」軀に持ち上げてもらっていなければ恐らく飲み込まれていただろうその波を素早くカバンから取り出したビンに入れていく。いっこうにいっぱいにならないビンを見て我ながら流石、なんて感嘆しながら顔を上げると見覚えのある顔と目が合った。
「あ、しょほーしさん!」
「やぁ、アリス来てそうそうすまないね」軽く挨拶すれば声の主は至って何事も無かったかのような顔で応えた「んーん、アリスもごめんなさい、せっかく来てくれたのに…その…」そういう彼女の視線の先にはビシャビシャの部屋。「仕方ないさ、今日はそういう日だったんだろう?」とお茶会から借りた(あそこに話の通じる奴はいないので無断で取ってきたが正しいが)イスを置いて座るように促す。
そう、ここはかの有名な“不思議の国のアリス”の家。
「来てくれるんだったら言ってくれたら良かったのに」「言ったところでこの家はあんたの思う通りにはならないだろう?」「それは…そうだけど…」
ほんと、困ったものよね なんて言ってため息を着く彼女に少し同情してしまう。それもそうだ、さっきも言ったがこの家は思う通りにならないのだから。
日によってどの部屋になるかはバラバラだし、普通のサイズの体でいられるとも限らない、時には狭い部屋で小さくなれる小ビンを探し、時にはとても巨大な部屋で大きくなれるクッキーを探す。そんなハードな日々を彼女と愛猫のダイナは繰り返していた。
ん?ダイナ?「ところでダイナは何処だい?」
「あぁ、ダイナなら今日はいないの」
「いない?」
「えぇ、暫くはアッチにいるみたい」
「…はぁ、なるほどねぇ」
アッチと言いながら指さす方を見れば、部屋の奥に少し小さな四足歩行の彼女の為のドアがあった。
おそらく彼女はあそこからどこかへ行っているのだろう。なんともやはり、猫というのは自由気ままであるものだ。
「ところでしょほーしさん」
「んー?」
「何か御用だったんじゃないの??」
「あぁ、薬のための材料を取りに来たんだよ。
軀、今朝取ってきたのをくれないかい?」
クルルル
「わぁ!綺麗な桃ね!これ、もしかしてしょほーしさんのお家の桃?」
「ご名答、よくわかったね今回はそれをお代にしようと思ったんだけれど…」
「当然よ!コッチの世界で植物が綺麗に育つのはしょほーしさんの所だけだもの!もちろん契約成立よ!欲しい物はなぁに?」
良かったどうやら正解だったようだ と少々押し気味に話す彼女を見て安堵する。
「今日欲しいのは“夢霧”なんだけど…」
「“夢霧”ね、おいくつ要るの?」
「うーん、瓶で3つってところかな」
「ちょっとお待ちになっててね!部屋から取ってくるから!」
そう言いながら奥の部屋に消えていく彼女を見送りながら、ぼーっとあの四足歩行の彼女のドアが消えてるのに気づく。あぁ、どうやらここは家ですら自由気ままらしいと口の端から笑いが漏れた。