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世界が少し低くなる。



 爪にうす紫を塗る。透けるようなうす紫。こういう色の、こういう透け方の、花びらをどこがで見たような気がするけれど、思い出せない。

 夏の終わりの明け方の、もやもやとした空を鳥が飛んでいく。あちらからこちらへ。昼間になると、蝶が道を這うようにして飛ぶ。焼けたアスファルトに触れそうで触れない。

 ゆっくりと生まれて、ゆっくりと死んでいく。さまざまなものが。破れて、欠けて、機能を失って、壊れていく。まぶしくて、真っ白になる。

 軋む椅子に座る。世界が少し低くなる。まぶたを閉じる。かすかな羽音。夕方の台所は、とても死に近い。青紫の朝顔でつくった色水のように。道端で朽ちていく黄色い蝶のように。


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