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散文

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とりとめのないことを繰り返す
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記事一覧

球根

 旅に出たいと思った。ここには帰ってこない旅。それはもう旅ではないような気がした。  チ…

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3か月前
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静かで、うつくしい音を残して。

 何も食べたくない、と思う。  からだの中を空にしたいのかもしれない。  私の、内臓。  …

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4か月前
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愚かで澄んだ祈り

 豆腐のマフィンを焼く。六つ。寒くなると、菓子を焼きたくなる。つめたい生地が、あたたかく…

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5か月前
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掌編|まぶたの裏側でしか踊れない

 寒い、と、かなしい。それから、眠い、はよく似ている。お腹が空いた、も似ている。けれどあ…

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9か月前
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本と生活

 本を三冊買った。買ったと言っても通販なので、まだ手元には届いていない。  三冊とも、料…

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1年前
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しなびたライムをデッサンしたいと思う。

 十月に読んだ本は、再読ばかりだった。本棚にもう何年もある本、何度も読み返した本、そうい…

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1年前
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私の、私たちのすべてだったあの家。

 朝、化粧水を肌に押し込みながら、これを今まで何本買ってきただろうか、と考えた。そのくらい長く使い続けている。ナチュリエのハトムギ化粧水。定番の品なのでわざわざ私が書くこともないのだけれど、刺激がなく、たっぷりと使える。たっぷりと使えるから、うるおう。しっとりもっちりといううるおい方ではなく、ひたひた、という感じ。水分を補って、蓄えている、という感じ。美白になるとか、毛穴がなくなる、なんてことはないけれど、ひんやりとした静かなみずうみにひたっているような感覚になる。  若い頃

一つの花びん、一輪の花

 過去にも、花とのことは何度か書いているのだけれど、花のある生活とは程遠い家庭で育った私…

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1年前
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母の字

先日ポストを開けると葉書が一枚入っていた。無地の葉書に、前略で始まり、草々で締められた文…

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3年前
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四月生まれの大きな妹

何事も、白と黒だけではない、ということはわかっているけれど、極端な思考はこびりついている…

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3年前
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祖母の裁縫箱

私の裁縫箱は、黄色い半透明で、柄はピングーだった。 姉は、白地に、三丁目のタマだった。 祖…

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3年前

甘くてぬるいコーヒー

毎年、今年は編み物をはじめたいと思うのに、気がつくと冬は終わりに近づいているし、球根を育…

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3年前
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絵と、孤独と。

最近は毎日絵を描いている。甘いものの絵ばかりを描いている。 自分の絵は、ぱっと見ほのぼの…

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3年前
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姉妹

車で二、三十分のところにあるジャスコが、休日家族ででかける定番だった。ゲームコーナーで一人千円ずつ渡され(姉と私、それから父と母も平等に)両替機で百円玉に交換する。あとはその十枚がなくなるまでは自由。私は主にお菓子や、キラキラした宝石のようなものをすくいとる機械で遊んだ(そのキラキラは、おままごとの時に食材として使われる)。たまに姉と落ち合ってエアホッケーとか、ワニ叩きもした。母は百円玉をさらにコインに変え、スロットなどのコインゲーム。これが千円で一番長く遊べる方法だと思う。