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「その」薬はやめてもいいのか

薬は自己判断でやめてもいいとかいう記事が出回っているみたいで、ものすごく驚きました。自己判断でやめてもいい薬もたしかにありますけれども、やめてはいけない薬も間違いなくあります。


対症療法の薬

やめてもいい薬の筆頭は、対症療法の薬です。

たとえば痛み止め。痛くない人は痛み止めはのまなくていいです。

とはいっても、痛み止めをのめばリハビリに励める、というケースにおいては、「いま」痛くなくてものんでおいたほうがリハビリがはかどり、早く治るかもしれません。なので、痛み止めであればいつやめてもいいとも限らず、「なんのための」痛み止めなのかがとても重要になってきます。

痛み止めで骨折が治る人は(たぶん)いません。痛み止めは症状を消すので、痛み止めこそが骨折を治すような気がするかもしれません。しかしそれは気のせいです。

痛み止めほどわかりやすければ、勘違いする人はあまり多くはないのですけれど、対症療法の薬こそが「病気を治す薬」であり「重要・必須な薬」であるという誤解は非常に一般的なので、どれが対症療法の薬で、どれが病気を治す薬なのか、処方目的を主治医に確認するのがよいと思います。

病気を治す薬

病気を治しているまっただなかの人は、薬をやめてはいけません。まさかやめる人はいないと信じたいです。

たとえば結核の薬。結核が治っていないのにやめてはいけません。治らなくなります。治らないだけでなく、半端な治療は耐性菌につながるので、指示された期間はぜったいにのまないといけません。

とはいっても、結核の薬と一緒に解熱剤が出されたとして、解熱剤は熱がなければのまなくていいかもしれません。どれが「絶対のまねばならない薬」で、どれが「症状があるときだけの薬」なのかを、主治医に確認する必要があるということですね。

予防の薬

これがいちばん、問題になります。

たとえば統合失調症の薬(抗精神病薬といいます)。やめると、高い確率で統合失調症が再燃します。また悪くなるわけです。統合失調症の特徴として、病気が悪くなるとなぜか、「自分は病気などではない」と確信する、というものがあるため、やめてみる→悪くなる→悪くなっているのに薬を再開しようとしない→さらに悪くなる という経過が予想されます。ということは、そもそも、薬をやめてはいけません。

とはいっても、です。治療の成果で統合失調症の症状が全部消えている場合、症状がないのに薬をのみつづけることが、わずらわしくなってくるのも当然だと思います。当然ではあるのですけれど、でも、予防は必要です。症状が消えているなら、その順調な生活を維持するためにこそ、薬は続けてほしいわけです。

上記の結核の例と同様に、「統合失調症の悪化を防ぐ薬」と「症状があってつらい時だけの薬」が両方処方されているケースも多いので、どれが必須の薬で、どれが症状がなければやめてもいい薬なのかを、主治医に確認するのは有用だと思います。

処方目的の確認

薬の処方には、目的があります。同じ薬でも、処方の目的が違うことがあったりします。たとえば一部の抗精神病薬(統合失調症の薬)は、睡眠薬の補助として非常に優秀だったりします。睡眠薬の補助としての抗精神病薬は、ひょっとしたらやめてもいいかもしれません。でも、統合失調症の症状悪化の予防としての抗精神病薬は、やめてはいけない。

それぞれの薬の効果や副作用だけでなく、処方の目的を主治医に確認してもらえたらと思います。現在の処方に特に不満がないとしても、薬をのむのは自分なのですから、できれば、それぞれの薬の役割を理解しておいてもらえると、医師としてはありがたいです。


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