神さまだけが知っている話

行き交う人々の目線から逸れたある場所にそれはある。街かどに朱を添えるちいさな鳥居だ。


サラリーマンのおじさんが手を合わせていた。珍しいな、と気になり、ちらりと見やった。

指先は伸びておらず、軽く握られていた。大きな手であった。

敬虔、だった。


人は手を合わせ、神さまに言葉を渡す。願い、訊ね、泣き叫び、押しつける。

さしずめ、荷物を半分預けるかのように。きっと、ひとりで抱えるには重過ぎるから。

誰にも言えなかった全てを神さまだけに打ち明ける。


神さまだけが知っている。

神さまと自分だけが知っている。

それなら神さまは誰だ。自分の秘密を知る人が神さまだ。

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