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月と視聴覚室とヘイ・ジュード(シロクマ文芸部)

「月めくりすぎて、太陽見えてきちゃったじゃないの」

母親が必要以上に大きい声を出す。

私がめくった月で、部屋が足の踏みどころがないほど散らかっていた。

私はただ月の裏側を知りたかっただけ。

月をめくればめくるほど視界が白くなり、気づいたら朝になった。

朝食はポケモンパンを食べた。

いちご味の蒸しパンがお気に入り。

別に昨日と同じ朝である。

でも、なんとなく学校には久々にマスクをして行った。

学校に着くと生徒が視聴覚室に集められた。

緊急集会とのことだ。

議題は月に悪さをした犯人探し。

緊急集会は学校中のトイレットペーパーが無くなったとき以来かな。

視聴覚室という職員室の次に優遇された空間は、私たち生徒の様子をおかしくさせる。

私たちが静かになるまで7分11秒かかった。

ヘイ・ジュードと同じ長さだ。

全員顔を伏せさせられ、該当者は手を挙げるように言われた。

でも、そんなことしても意味がない。

私は絶対手を挙げないし、何人かは薄目を開けているのを知っている。

私は視聴覚室だけに与えられたカーペットを指でなぞっていた。

犯人が見つからない苛立ちからか、学年主任の話は永遠に続いた。ヘイ・ジュードの最後の方みたいに。

今の議題と関係ない自転車のヘルメット着用についても注意していた。

私は空間の隅に置かれた、大きさの割に吸引力が弱い掃除機をじっと眺めていた。

学年主任のヘイ・ジュードはこのまま永遠に続いたが、夜が来ることはなかった。

めくった月は私のデコキャラシールのホルダーの中にある。

(624文字)

以下企画に参加させていただきました。

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