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校長先生の話(シロクマ文芸部)

「紅葉鳥というのは、シカの別称で…」

全校集会では、いつものように校長先生の長い話が続く。

私は校長先生の話が好きで、いつも聞いている。珍しいかもしれないけど。

校長先生は理科の教師出身というのもあって、私が知らない知識を朝礼で話してくれる。

でも校長先生の話を、みんなは聞いていない。

でも、しょうがないよね。

この学校には、バカしかいないのだから。

まぁ確かに朝礼で話す内容にしては渋すぎるけど。

「てか、マジで話長くね?怠いわ」

男子がコソコソ話を始めた。

「すごい!リサのネイル、かわいい!」

女子も関係ない話を始めた。

「ナイスシュート」

バスケットボールが弾む音が聞こえてきた。

「♪♪♪♪♪」

吹奏楽部の練習の音も聞こえ始めた。

「あれ?声が?遅れて?聞こえてくるよ?」

腹話術師も実演を始めた。

「今朝採れたジャガイモ食うかい?」

私のおばあちゃんが校庭に野菜を持ってきた。それは本当にやめてほしい。

「最近ガソリン高いよなぁ」

世論の声も聞こえてきた。


校長先生、今どんな気持ちなのかな。

私は校長先生の顔を見れなくなって、足元を見た。

「え」

思わず声が漏れた。

校長先生がくるぶしソックスを履いていた。

くるぶしソックスは、足が速い男子が履くものだと思っていた。

それからはくるぶしソックスに集中してしまい、校長先生の話は私の外を通り過ぎた。

結局私も周りと同じだ。

(565文字)


以下企画に参加させていただきました。

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