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【ss】ラヴレター

導入『メゾンドフルーミ』より

パーティーは終わりに近づき、市長からのサプライズの打ち上げ花火も、残響ごと消えた。
パーティーに参加した住人それぞれが、独りだったり複数人だったりで、余韻を楽しんでいる。

主催である私は、会場の持ち主の司教ヴァルと蝋燭片手に夜風に当たっていた。
ふと、後ろに気配を感じて振り返る。
「ヴァル、あなたにお客」
蝋燭売のロゥリーがいた。
かぼちゃのようなボリューミーなドレスと垢抜けない丸メガネは場には合わないが、そこが彼女らしい。
メガネを触る癖は学生時代と変わらない。
「さ、ひ、さしぶり...」
「やぁ...来てたんだロゥリー」

おじゃまかと思い、私は蝋燭をロゥリーに預けて会場に戻る。
ヴァル司教に目配せすると、バツが悪そうに俯いていた。


「オーナー、お疲れ様でした!」
「元気だね、お疲れ様」
「実はギーさんとニックさんが起きれなくなっちゃって...」
「足を痛めたのよ。それとお酒もね」
「まぁ、年寄りにはジュース...」
「そんなこと言って!面白半分に飲ませたのは」
「いいじゃない、老後にお酒が飲めないのは辛いわよ」
「あ!ニックおじさんがなんか言ってる!」

口々に意見を言っている。あまり会話になっていない。
みんなまだまだ踊りたいないのかな?

「ところでオーナー、あの二人はもしかして」
この子は学生。
学生はもちろんお酒を飲んでいない。
いつもの制服姿を知ってる分、今日用に仕立てた肌にピッタリなドレスを見てドキッとする。
私が外に置いてきた、2人の男女を指さして不思議そうに私に確認した。
「ん?あー司教様と蝋燭売ね。気になる?」

目をランランと輝かせている。
この街に来た当時の彼女からは考えられないほど、ちゃんと作家の目をしている。
学業にもその意欲が少しでも...いや、学業は二の次よね。この街では。

「いいよ、2人の話は8年前に遡るんだけど...」


8年前、司教のヴァルも、蝋燭売のロゥリーも、そして私も学生だった。

8年前は...そうか、君たちはまだ街にはいなかったよね。
【創作抗争】という、大きな革命がね。
この街であったんだよ。

死人が沢山でた。
ころしたのは学生集団、殺されたのは教授たち。
そして、ロゥリーの兄はその手自ら、ヴァルの親族である教授を殺して、自分も業火に死んだのだった。

今でこそ、その殺人は自分の創作を守るための名誉となっている。

当時はまだこの街にも「創作に命を燃やすのは間違ってる」っていう考えの大人がいたんだ。
だから【創作抗争】の後、ロゥリーは加害者、ヴァルは被害者として扱われた。

2人は恋人だったの。
当然、2人は引き剥がされたわ。

「それじゃああの二人はまた...」

「どうなるんでしょうね。でもロゥリーはもうすぐ結婚するそうよ」

「そんな!」

「いいの。ロゥリーはヴァルの作るものに惚れていたんだって。ずっと預かってた創作を返すって言ってたわ。これで、ヴァルがまた創作をかけるようになれば、私は嬉しいけど」

「オーナーもしかして、その為だけにこのパーティーを?」

「ドレスは女をあげるよの?」


「ごめんなさい」と「許さない」...あの時は何度も酷い言葉をあびせた、たくさんのメディアに囲まれて、私もあなたもたくさん嘘を重ねた。
でも、あなたからのこのラブレターだけは、本当なんだ。

結んだ指に絡んだ言葉
今朝思いついた 君に薔薇を贈ろう
そしたら私たちは永遠に

この言葉から始まる、私たちの秘密。


業火の中、この手紙を最後に私たちは会えなくなった。


そして今、目の前にいる君は、君はもう抜け殻だね。
たぶん、私が取っちゃったんだよね。
君の中から私を。

8年が経って私達も大人になった。

この蝋燭が消えたら暗闇で、私は元の世界に帰るの。
その前に、本当のことを言うよ。

「愛してる」


許されぬ恋に引きちぎられた男女のお話でした。

メディアによって、当然のように憎み合うよう演出されてしまったのです。
その中でヴァルもロゥリーもお互い疲れ果ててしまいます。

しかし、ラヴレター(創作)は常に彼らの中で変わらずにあり続けてくれるのです。

あの時のままの愛情で。

このあと2人がどうなったのか、まだ知らないです。
でもいつか、笑ってわたしのところへ話してくれるんでしょう。
それが一番幸せですから。
そうするでしょうね。

End.

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