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バットマンにならなかったブルース・ウェイン『21ブリッジ』

昨年亡くなったチャドウィックボーズマンの主演・プロデュース作であり、『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』や『アベンジャーズ/エンドゲーム』を手掛けたルッソ兄弟が監督を務めるということで鑑賞。

主人公はニューヨーク市警(NYPD)のアンドレ。13歳の時に警察官の父が殉職し、正しい道を行くこと、他人に善悪の判断を左右されないことを決意します。警察官になったアンドレは父に近づくために容赦ない操作を行います。過去に犯人を射殺し、内務調査で発砲の必要性や後悔はないか問われますが「正義の代価だ」と言い切ります。

そんな中深夜のレストランで大量のコカインが盗まれ、それを発見した警察官7人が殺害される事件が発生。憤りをあらわにするNYPDの刑事たちにアンドレはマンハッタン島につながる21の橋を封鎖するという大胆な作戦を提案します。

陰謀に巻き込まれたアンドレが真実にたどり着けるのか、どんな決断を下すのかが本作の見どころです。

現実とリンクするシーン

現在のアメリカが抱える人種や格差問題の一面を切り取り、持たざる者が予定外の犯行に及んでしまうという流れは『ブルータル・ジャスティス』(2018)を彷彿とさせました。

部屋に押し入った警官が容疑者を拘束し、頭を足で押さえつけるというBLMを連想させるシーンもありました。「殺すな。質問ができない」とアンドレが止めに入るのも冗談には聞こえません。ただでさえ汚職警官の事件が過去に合ったNYPDでもありますが、警部が地域住民のことを「証言をしないクズども」と称する様子で警察官と住民との距離を感じさせました。

追い込まれていく犯人と切迫する状況

場所と時間に制約をかけ、状況の変化と共に緊迫感を感じさせる手法は見事でした。場所をマンハッタンに制限すると同時に、封鎖しておける時刻の朝5時をタイムリミットとしています。しかし物語が進むにつれ真実を知るためにはその作戦がアンドレを追い込む結果になることがわかります。物語が二転三転する間もずっとハラハラさせられ続けました。

また事件中に回想シーンなどをはさまず、常に現場の状況が映されます。最後までシリアスなストーリーで減速することなくラストシーンまで駆け抜けていくので息つく暇もありませんでした。

まとめ

伝統のノワール映画を現代にアップデートしつつ、マンハッタン島を封鎖することで場所と時間に制約をかけるというのが面白かったです。演技については、どんなタイミングでバッジを見せたり銃を抜き、どのように構えるのかなど、細かい指導を受けながらの撮影だったそうです。

長期間夜の撮影が続いたことに関してチャドウィック・ボーズマンは「刑事が身を置く世界に近づけたと思う」と語ったそうですが、このとき病気と闘いながらだったと思うと胸が痛みます。これほどの意識で臨む俳優が若くして去ったというのが残念でなりません。


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