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みんな違ってみんな良い

先生、おはよう!」
「おはよう」

そこは他の学校とは少し違う、ほんのちょっとだけ特別な学校。
時刻はもう朝の8時30分。続々と生徒がやってくる。

「おはようございます、先生」
「はい、おはよう」
「おはよ!先生!」
「おはよー」

自分に声をかけてくる生徒たち一人一人に笑顔を返す。下を向いたり上を向いた大忙しだ。、特に小さい子なんて声も聞こえないからたまに足を叩かれる時もある。そんな時はびっくりしつつ、しゃがんで挨拶をするのがいつも通り。

え?いくら声が小さいからって、聞こえないなんてことがあるのかって?
そりゃああるに決まってるよ。だってここは、どんな人でもどんな動物でも通える学校なんだから。
ちょっと気を抜いちゃったら、ネズミの声なんて聞こえないんだ。キリンやゾウなんて、とっても分かりやすいんだけどね。でも彼らは逆に大きすぎるから、学校の備品を壊してしまうのがたまに傷。

さて、もうそろそろ朝の会が始まる時間かな。時計を見てみると、時刻は8時50分。ちょうど校門を閉める時間になっていた。この門を閉めたら、もう生徒は入れない。これより後に来る子は遅刻扱いなので、職員室に寄ってから行く決まりになっている。

どんな大きさの子にも対応できるように普通の学校より大きめに作られている門は、一人で閉めるのは大変だ。全力で門を押して、それが全部閉まる頃には大きな汗の粒が額に浮かんでいた。

さて、これでよし。教室に向かおう。
常に携帯しているハンカチで汗を拭って、玄関にむかおうとしたところで地面に大きな影ができた。びっくりして上を向いたら、、あ!うちの生徒じゃないか!

「こら、校内で飛ぶのは禁止だろ!」
「ゲ、バレた!」

声をかけると素直にこちらに着地したのは、自分のクラスのオオワシの子。
事情を聞けば、朝寝坊をしてしまったらしい。遅刻で職員室に行くのが嫌だから、門を飛び抜けていこうとしたんだとか。

「仕方がないから今回は見逃すけど、次からはダメだよ。君がそれをやってしまうと、他の飛べない子がずるいと思ってしまうから」
「ごめんなさい」

しっかりと謝ったその子の背を押して、玄関に入れてやる。
その子はカチカチと爪の音を鳴らしながら、教室に駆けていった。

朝の会が終わって1時間目。今日の最初の授業は算数だった。
足し算引き算の項目をみんなに教えるために、果物をいくつか教卓の上に出す。
こういうのは実際に物を使って覚えていくのが早いからね。
そんなことを考えているうちに、女子が手を挙げた。

「先生、リンゴ食べられてるよ?」
「え!?」
「ほら、その下のところ」

指さされたところを見てみると、一口だけかじられたあと。
ああもう、いつも教材には手を出しちゃダメって言ってるのに!
心当たりの生徒を見てみると、申し訳なさそうに眉を下げていたので仕方が無いと諦めることにする。
1年生の頃はこんなことがよくあるんだ。それに、ウサギはリンゴが大好物だからね。

「次からは家のリンゴを食べなさいよ」

そう伝えると、「ごめんなさい」と謝られた。
他の生徒たちは楽しそうに笑っていた。


2時間目は国語の授業。
一つの物語をみんなで音読しながら、その物語を読み込んでいく。だけど今はとてもとても眠い。先生のぼくだって眠いんだから、他の子はもっと眠いだろう。すっと生徒たちの方を見てみると、船を漕いでいる子が何人かいた。
それもそのはず。今はナマケモノくんが読んでいるから。
いつもマイペースな彼は、もちろん音読するのもとてもゆっくり。だから他の子より読む行は少ないけど、それでもやっぱり長く感じる。だけどここはいろんな子がいる学校だから、それでも良いんだと思う。これがこの子なんだから、何かを変える必要なんて一つもない。
次に読み始めたのはインコの子で、その子の声は普通より高い声。そのおかげでみんなも起きたし、それで良い。


3時間目は自由時間。
1年生は少し前まで野生で過ごしていた子達ばっかりだから、中々集中力が続かない。だからここで休憩を入れる。
外に出て駆け回ってる子もいれば、大空を羽ばたいている子もいる。中庭にある池に行って、水遊びをしている子もいた。今日は晴れているから、きっと気持ちいいんだろうな。
さて、何も問題はなさそうだから、ぼくは職員室で授業の準備でも進めよう。
あれ、ちょっと待って。問題発生!

「ヤギくん、キリンちゃん。校内のものは食べちゃダメだよ」

慌てて駆け寄った先は、グラウンドにある人工芝と植えてある木を食べているその二人のところ。

「お腹すいちゃって、、」

そう言うヤギくんの傍の芝は少しだけハゲていた。
あの短時間でどれだけ食べたんだろう?

4時間目は体育。この時間だけはグループ別。なぜかと言うと、力の差がハッキリと出てしまうから。
だってほら、時速100kmで走るチーターと鬼ごっことか出来ないでしょう?
足の速い子は足の速い子、力の強い子は力の強い子。体の小さい子は小さい子で集めて。そんな感じでグループ分けしつつ、そのグループにあった遊びをする。
今日はサッカーとか、かくれんぼとか、ボール投げとか。
そうそう、かくれんぼはいつもカメレオンちゃんが圧勝するんだ。あの子が最後まで残ると、みんなで探すのに大忙し。ほんと、流石としか言えないよ。


午前中の授業が終われば、みんなでお昼ご飯。
こればっかりはみんな食べるものが違うから、お弁当を持ってきてもらう。一人一人に美味しい給食を用意したい気持ちもあるんだけど、いろんな子がいるから難しい。それに、肉食の子もいるし草食の子もいるから。食べる場所も自由にしてる。一つの部屋に集めちゃうと、お互い辛いからね。自分が食べられるなんて、思いたくもないだろうし。
ぼくは毎日おにぎり。普段は職員室で食べるんだけど、生徒から誘われたりしたらその子達と食べたりもする。たまーに、お弁当を作ってきてあげる!っていう生徒がいるんだけど、それはいつも丁重にお断り。生肉とか、木の葉っぱとか、ぼくには食べられないものが沢山あるからね。


そして本日最後の授業、5時間目。社会。
人間の社会を学ぶ時もあれば、それぞれの動物の社会を学ぶ時もある。
サルくんのところでは、群れを作って生活するんだとか。その中で一番カッコイイボスザルがいるんだとか。それとは逆で、ウシちゃんのところではみんなが平等、一日の半分くらいをのんびりしながら過ごすんだとか。1年生のうちに、皆がそれぞれで違うことを学んでいく。それはもちろん、これから先もずっとお互いを知っていくため。いろんな人がいる場所では、まずは知ることが重要だから。みんなのことを知って、それから仲良くできるかできないか、徐々に知っていければいいと思う。そんな風に、ゆっくり学んでいけるのがこの学校。
この学校に着任してからもう3年。人の子と過ごすのも楽しいんだけど、いろんな子がいるこの学校はもっと楽しい。自分が知らないこともたくさん知れるし、何より友達がいっぱい増える。それも不思議な友達が!

この学校に来る子の中には、自分の群れを追われてここにやってくる子もいる。普通の学校から、ここに転校してくる子もいる。でもみんな昔のことは気にしない。今が楽しいから。昔のことなんて気にしてる暇もないくらい、今が本当に楽しいから。
もし悩んでる子がいたらここにおいで。いろんな子がいるから、きっと君も仲良くなれる子がいるはずだ。たまには巣にこもってゆっくり過ごすのもいいかも知れない、外に出てみたくなったらここに来ればいい。これだけたくさんの子がいたら、小さいことなんて気にならなくなるからね!

ここは他の学校とは少し違う学校。
そして、誰かにとってはとっても特別な場所。

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