見出し画像

ステアリング・ハンドルに未来はない?

オート三輪と呼ばれたころの3輪トラック、(ダイハツ)ミゼットの初期モデルではハンドルはバイクと同様、横一文字のバーハンドルでした。売れ行きを伸ばすにつれて二人乗りが登場し、ハンドルも右側に寄せて丸ハンドルを採用するようになります。ハンドルと前輪は減速ギアを介して繋がっています。

バイクならハンドルの切れ角と前輪は同じ角度で向きを変えますが,ステアリングギアが介在すると,ハンドルの回転は3ないし4回転と増えます。が車輪の向きはせいぜい左右合わせて90度がいいところ。ギア比で言うと1:12から1:20といった辺りが平均です。大きな数字のレシオはハンドルが軽い代わりに沢山まわさなければならず、逆にクイックと評価される低レシオのギア比はハンドルの切れが良く感じられますが車庫入れは重く苦労させられます。

さて、最新の上海オートショー2021でトヨタが出展したコンセプトカーbz4xでは、ハンドルはただの入力スィッチに過ぎず,形もセスナ機のようなバタフライ型です。説明によれば車庫入れでも手を持ち替えることなく据え切りまで回せるようです。このようにステアリングが前輪と機械的に繋がっていない車は実はもう既に市販されています。日産スカイラインの全車種に現在、ハンドル操作を電気信号に変えて,モーターが車輪の向きを変えるシステムDAS(ダイレクトアダプティブステアリング)が採用されていて,緊急時にはシャフトが直結となるものの,通常作動時はハンドルとステアリングギアが電気的にしか繋がっていない状態になっています。

上記の例外を除けば全ての車は前輪の動きとハンドルは機械的に繋がっています。車重が増えればタイヤの抵抗も増え、ハンドルも重くなるので大型車のハンドルやベンツなどは大きめのハンドル径になっています。旧いベンツはパワーステアリングが付いていても、故障したときの担保として大きめにしてあるのだそう。

パワーステアリングが高級車だけの専売特許だった時代、前輪駆動のクルマを大型化しようとすると,後輪よりもはるかに重さが加わる前輪の向きを変えるには大きな入力が必要となります。そこでホンダが初代アコードを発売たとき、このクラスでは大盤振る舞いとも言えるパワーステアリング付きが登場しました。ハンドル軸の回転をアシストするのは油圧で、その発生源はエンジンで回されるオイル・ポンプです。若干のコスト高と馬力ロスを伴っても,ハンドルの重い乗用車では女性にはなかなか売れません。装着する顧客も9割近かったとか。

ホンダはさらに、速度に応じて油圧を制御できるようにした速度感応型として,高速走行では無闇に軽くなり過ぎないよう,バランスのとれた仕様として好評を博しました。この時代にはステアリングのダイレクト感を求めて,ラック&ピニオンという平らなギザギザの上をピニオンギアが転がるような形式のステアリングギアが普通車にも普及し始めました。

それまでのデファクトだったボールベアリングをらせん状に引き伸ばしたようなリサーキュレーティングボール型ステアリングだと、操作は軽いもののハンドルの遊びが大きくて,高速では直進を保つのも神経を使うからと、ラックピニオンのほうが好まれる傾向にありました。が、操作力の大きさに加えタイヤサイズも次第にワイド化が進んで操舵力は増える一方。しかも、直進性を良くするためにキャスター角を増やす傾向も加わって、ハンドル操舵力とパワステ装着率は増加の一途を辿りました。

軽自動車には加圧ポンプもオイル通路も高価で重すぎる、と開発されたのが電動パワーステアリング。制御は油圧よりも容易で、あとはモーターの小型化・高出力化次第。油圧から電動に置き換えるメーカーも続出します。電動でアシストできるなら,次は・・・・・ハンドルの自動操舵,つまり自動運転です。

パワーステアリングから出発した技術開発はついに腕力を少しも必要としなくなったばかりか運転者さえ不要にしようとしているのでしょうか。


電子技術の進歩がクルマより50年以上はやく進んでいたなら、ミゼットのハンドルも小型のバタフライ型をしたハンドルに代わっていたのかもしれません。となると、燃料噴射つきでデジタルメーターもUSB端子も付いていたでしょうか??

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?