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手動変速機、運転方法マニュアル

運転を自動化しよう、という工夫は電子制御に頼るまでも無く百年以上前から連綿と続けられてきました。自動変速機もそうだし、エンジン始動のセルモーターだってある意味、自動化です。
昔々はハンドルの中心にアクセルがあって、対になった点火時期レバーと一緒に操作しないとエンジン回転を上げるのは無理でした。クラッチ操作だってAT免許の人には昔話かもしれません。点火時期も今、これを操作しながら走る人は自動車博物館の学芸員や一部のクラッシックカーレース出場者位でしょう。

点火時期はその後、遠心力の力で重りが外側に開き、中心軸の角度を変えるものに進化して人々の視野から消えてゆきました。トランスミッションにしてもシンクロメッシュという同期機構が無い頃は皆、ダブル・クラッチを踏んでギアの回転を合わせながら加速したものです。70年代にはまだ、路線バスの運転手は大抵ダブルクラッチを難なく操作し、スムーズに大型のバスを走らせていたものでした。
1速ギアは止まっているギア同志を噛み合わせるので、シフトレバー操作だけで足ります。これが走り出してから2速へシフトアップするとなると、大変です。

シフトアップの前に1速でエンジン回転が充分上がったら、クラッチを切ってアクセルを放します。エンジン回転は落ちますが、ミッションの中では(クラッチ側)プライマリーシャフトの2速ギアが高い回転数のまま回転し続けています。これを(プロペラシャフト側)セカンダリー・シャフトの2速ギアに嚙合わせるには回転数が違い過ぎてうまく噛み合いません。
シンクロメッシュ、という機構はこれを同一にするためのもので、円錐形のお皿をギアが包み込むようにして両者の回転数の違いを無くそうとするものです。シフトレバーの動きで一緒に操作されるのでドライバーが気づかぬうちに仕事をこなしてくれています。

いっぽう、クラッチをっ切って惰行中の大型バスのドライバー、エンジン回転が落ちたところで、いったんシフトレバーをニュートラルに戻して一旦クラッチをつなぎます。するとプライマリーシャフトの回転数がエンジン回転と同じくらいまで低くなり、セカンダリーシャフトの2速ギアとの回転差が少なくなります。
そこでドライバーはもう一度クラッチを切ってシフトレバーを2速に入れます。(平坦地では通常2速で発進し、3速へシフト)これでギアどうしが噛み合い、変速の作業ができました。あとはクラッチ・ペダルを離して、エンジンの回転が再び後輪に繋がります。

整理してみましょう。発進、アクセルで加速、クラッチを踏む、シフトをニュートラルに、いったんクラッチ・ペダルを離す(接続)、再びクラッチを踏む、シフトを2速へ、クラッチ・ペダルを離してアクセルを踏み加速を再開。
まあAT免許の方には端から関係のない話ですが・・・・・

半クラッチ操作も長らく自動化のターゲットでした。80年代にいすゞがマイコン制御を使ったナビ5で電子回路に半クラッチを学習させるまでは色々なクラッチの自動化が工夫されています。
オートバイでは遠心力を使い、重りが外側に開くと外側のドラムと擦れあって回転が伝わる遠心クラッチがスーパーカブの誕生からポピュラーな存在です。でも自動車のような重量物は遠心クラッチの手には負えません。

初期の自動クラッチには電磁石の力を使ったものがあり、シフトレバーに仕込まれたスイッチで断続ができるものがありました。通電すると電磁パウダーがある方向に引き寄せられて固まり、それが回転を伝えるというものです。
今、大半の自動変速機に使われているのは流体継ぎ手と言って、液体をぐるぐる回し、それを反対側で受け止める仕組みのトルク・コンバーターが主流です。ハイブリッドカー以外の乗用車は大概これだと言っても過言ではありません。

クラッチ・ペダルが無くなることで踏み間違えによる悲劇も顕著になってきました。日本では30年位前から時には大事故に至る踏み間違えのニュースが後を絶たず、シフトレバーの解除に制限を設けたり、誤操作を防ぐ仕掛けも生まれました。が根本から間違いを解決するには至っていません。

が、マニュアル操作のクルマではクラッチとアクセルペダルを同時操作しないと発進できず、急発進は迂闊に出来ない仕組みでした。踏み間違えを即刻止めるには、疑わしき人物にマニュアル車の運転を義務付けるのが手っ取り早い方法かもしれませんが・・・(現在の高齢者はほぼ皆、昔はマニュアル車で免許を取得しているはず)

そんな目で市場を見ると改めてクラッチ・ペダル付きのマニュアル車の少ないことに驚かされます。クラッチ板は走行と共にすり減るのでいずれは交換が必要な部品です。整備工場でミッションを降ろし、クラッチを交換してくれるメカニック達がこの先何年生き残ってくれるのか?
場合によってはマニュアル車の価格が暴落し、或いは交換工賃が高騰!なんて時代が来るかもしれませんが、ここ10年位がマニュアル車の運転を堪能できる最後のチャンスになってもおかしくは無いでしょう・・・・・英国の人気番組Topgearも将来は新タイトルでリニューアルされているかもしれません・・・・・

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