押してもダメなら引けば?駆動の方針転換

モーターやエンジンからの出力は減速を経ていよいよ車軸へ、そしてタイヤを回します。進化の順番から言えばエンジンを前に置きプロペラシャフトで後輪を駆動するFRが構造も簡単で一般的。大型トラックや軽トラ、ジープ等は1世紀近く続く、最も古典的なレイアウトです。

逆に小型車では当たり前な前輪駆動の様にエンジンのすぐ下の前輪タイヤを回すFFには一つの難関がありました。ステアリングを切ったとおりに左右に首を振る前輪タイヤを車軸の先とどうやって繋ぐのか?

実はトラックの太く大きなプロペラシャフトだって後輪が上下するのに合わせて微妙に上下に動いています。だから変速機を出た後で、自由に向きを変えられるユニバーサル・ジョイントという自由な繋ぎ目が必要です。構造は違いますが掃除機の先がいつも床と平行に向きを変えているのと似ています。タテヨコ2組のピンをクロスさせたつなぎ手を包むようにして二本のシャフトが向かい合っています。相対するシャフトが一直線上になくても、この十字型のつなぎ手を介して向きが変えられるというわけです。

ただし、このジョイントでは30度や40度といった大きな角度が付いてしまうと回転ムラが出来たりと、前輪駆動には荷が重いものでした。そこで登場したのが等速ジョイントです。ボールベアリングにも似た形のジョイントはベアリングと違って円周方向にはボールが転がらないようになっています。逆に横方向には幅を持って溝が刻まれており、ボールはこの溝の間を舟の横揺れ同様に移動できます。ボールの外側、内側のリングはそれぞれ二本のシャフトに繋がっており、シャフトが角度を持って交わっていても速度は保たれるのが等速ジョイントの命名由来です。これでステアリングを切る前輪を駆動することが出来ました。

フランスのシトロエンは1930年代の早い段階から前輪駆動を実用化。フランス語で前に引っ張る=トラクシオン・アヴァンはプロペラ・シャフトがないのでフロアを低くフラットに配置でき、車高も下げられ、軽量化できる、と良いこと尽くめです。日本車ではホンダN360夜スバル1000が普及して以降5ナンバー小型車にも広がりを見せます。80年代には続々とFF化が進み、後輪駆動のまま残ったのは1984年までの三菱ミニかや一部の大きなセダン、ワン・ボックスに限られました。シトロエンはもちろん、1950年代生まれの英国車ミニが与えた影響も計り知れないものがあったようです。

ただ、前輪駆動の難しさは、例えばコーナリングでブレーキを掛けた時など後輪の荷重が減った時に安定性が損なわれる点で、スポーツ・ドライビングには不向きと考えられていました。N360もこの問題では苦杯を舐めています。カローラが80系にフル・モデルチェンジした時にも、レビン・トレノといった85/86スポーツ系は後輪駆動のFRを継承し、それが今に至る人気の元となっています。

他方で、前輪駆動のエンジンと車軸ごと後ろに引っ越してきたミッドシップもいくつか実用化され、トヨタMR2やポンティアック・フィエロ、フィアットX19、ルノー・サンクターボとして具現化しました。流石に広く普及したとは言いがたいレイアウトでしたが、各メーカーが理想の駆動方式と量産効果を模索した過程で生まれたユニークな存在です。

後輪駆動に拘ったカローラ・レビン/スプリンター・トレノでしたが、一世代後のモデルではFFに統一されます。他方で日産シルビアは兄弟車たちがFF化してゆく中、後輪駆動を守り通し排ガス規制強化を前に、後輪駆動のままで生産を終えています。

近年ではトヨタ86やスバルBRZ、スープラ90系が後輪駆動の新型車として脚光を浴びたほか,EVの新顔の中にもミライやHONDAーeといった後輪駆動のクルマが登場しており、前輪駆動一辺倒だった時代が少しづつ、昔に戻りつつあるのかもしれません・・・・

ドリフト選手権に挑戦を考えているクルマ好きには朗報かも

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?