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リングと言っても怖くないピストンの話

高速で往復運動するピストンとシリンダーは毎秒10mもの速さで擦れあっています。エンジンオイルで常時潤滑してやらないとあっと言う間に両者は焼き付きを起こし、エンジンは大破しかねません。ピストンのみならず、コネクティング・ロッドやクランク軸との接続部、カムシャフトを支える部分も潤滑無しには回せません。

小型車だとシリンダー一本あたり1リットルのオイルが循環しています。4気筒ならほぼ4リッター。一部を除いてエンジン下にはオイルが溜まっている油槽(オイルパン)がありクランクシャフトが油面を叩くとオイルが飛散してシリンダー下からピストンを濡らします。

ピストンの周囲にはピストンリングという輪が3本あって、1番下のオイルリングがシリンダー内側のオイルを掻き落とす役です。上二本はピストンの圧縮を支えてシリンダーとの隙間を埋める役割です。つまり長年で磨耗するのはピストンリングとシリンダーと言う訳。リングは交換すれば良く、シリンダーは削り直しますが、近年はクルマもろとも交換する人の方が多いようです。

なぜシリンダーもピストンも丸いのか?熱伝導からすれば丸い形が一番ロスがなく効率的、との説明も出来ますが、ピストンリングが少しずつ回転して満遍なくすり減るようになっているのも事実。だから、というわけではありませんが・・・・・・・実は丸くないピストンも実在していました。まあるいシリンダーの頂点に穿つことが出来るバルブ穴はせいぜい5つまで、それ以上に面積辺りのバルブを増やしたいと考えたホンダが、ピストンを二つ横に並べ、秋田名産・曲げ輪っぱの弁当箱みたいな横長ピストンとシリンダーに仕上げました。1気筒当たり8バルブ、計32バルブという、長円形のエンジンを搭載したマシン「NR」です。コンロッドも二本でクランクシャフトに繋がれます。ピストンリングも真円ではなく、陸上競技場のような長円形です。一台限りの超レア物件でした。

さてクランクの潤滑は出来たとしてカムシャフトの潤滑オイルはどうやって運ぶのか?コレはエンジン自身が回すオイルポンプで圧送されます。実は複雑な形のクランクシャフトにもありの巣のようにオイル孔が開いていてやはりポンプからオイルが圧送されています。

エンジンからは他にも冷却水のウォーターポンプや発電機、カムシャフトの駆動にエアコンの圧縮機などが寄ってたかって出力を食い物にしていきます。エアコンだけで4馬力は消費するというから昔の軽乗用車には稀な装備でした。ほかにも発電機がないと車載の12ボルトバッテリーに充電が出来ません。ファンベルトが緩んだり切れたりすると、発電機が回らずにいずれバッテリーが切れて始動困難になります。満充電のバッテリーでも途中充電なしには100kmともちません。それまでに工場を探して飛び込まないと・・・・。この発電機やウォーターポンプも消耗品で10万kmを越えたクルマは交換を検討した方が良さそうです。

エンジンを縦横無尽に走り回るオイルなので温度上昇もそれなり。高性能車やトルクコンバータを使うAT車ではラジエターの他にもオイルクーラーという小さなラジエターが備わり、場合によっては冷却水の役割を果たす液冷エンジンなども存在します。


エンジンオイルを買うとき、悩むのがグレードという品質表示です。まあ夏の東京なら15w-30や-40あたりで間に合うでしょう。高速性能を重視したければ-50といった右側の数字の高いものが適しています。これは粘度という、オイルの柔らかさ、油膜の耐久力を示す数字で高性能エンジンに低い数字を与えると負荷に負けて油膜が保てなくなってしまいます。

左半分のWの数字は冷寒時の柔らかさを示します。東京の冬なら10Wで充分でしょうが、山間地や東北などは7.5W、北海道なら5Wというように数字を下げていくと、朝などの始動時にエンジンが軽く回って始動しやすくなります。(話は逸れますがディーゼルの経由には寒冷地によって五段階のグレードがあり、凍結防止剤が含まれます。温暖地の燃料のままスキー場などに到着、翌朝に軽油が凍結して始動困難に、というトラブルが稀に起きますが、寒冷地に到着したらなるべく現地のスタンドで早めに軽油を補給しておくのが安心です)

クルマにとってオイルはガソリン同様不可欠なもので、トランスミッションにも、トルクコンバーターにも、デフギアという車軸の真ん中にある差動ギアにもオイルが必要で、其々漏れないようにパッキングされています。トルコンオイルなら10万km毎の交換、それ以外にも交換時期が指定されており車検時などにチェックが必要です。


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