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水の方がクール?なつかしの空冷時代

シリンダー内で爆発することにより、時には1000馬力を発揮するガソリンのパワーですが、熱効率からすると実はかなりの部分が熱エネルギーに変わってしまい、動力に変換される割合はせいぜい3分の1程度。大半は熱エネルギーとしてシリンダーやピストンなどを熱くして、時にはオーバー・ヒートを起こします。なので、いつでも適温にエンジンを冷ます必要があります。この主役がラジエーター(放熱器=一種の熱交換器)。


エンジンを冷やすには空冷と水冷の二通り(+オイルだけを冷やす油冷も)があり、VWビートルや初期の軽自動車はこぞって空冷を採用していました。大型バイクも同様、シリンダーに直接、走行風を当ててやれば良く、水も温度センサーも不要。(今やスクーターには水冷が多く採用されていますが)


ホンダの創始者、本田宗一郎も空冷の信奉者でした。水冷といったって、ラジエーターを冷やすのは結局空気じゃないか!とばかりに渾身の1300ccの前輪駆動・小型乗用車、ホンダ1300(1969~)を空冷エンジンで仕上げていました。
水を巡らせる冷却装置は不要な代わりに空気の通り道を重い鋳物で作る必要があり、結局重くて高価なエンジンになってしまいました。そのことが若手の発奮を促し、社長の意に背く水冷エンジン搭載の新型軽自動車・ライフ発売(1971~)に結実。本田社長の引退を早めたかどうかは定かではありませんが・・・・・

1970年代を迎えると軽自動車も豪華さ、快適さを競うようになり、水冷化に踏み切るメーカーがほとんどでした。ラジエーターを持つことで、高速走行性能も安定し、暖かい温水式ヒーターを使えたことも一因です。なぜ水冷だと良く効くヒーターが使えるのか?

水冷エンジンには空冷バイク・エンジンのようなギザギザのひだが見られません。原付スクーターも今やほぼ水冷です。シリンダーの大きな鋳物には外見からはわかりませんが内部に地下水脈のような水路が仕込まれていて、ここを冷却水が流れるようになっています。シリンダーから熱を奪った冷却水はポンプの力でラジエーター上端に送られます。クラシックカーの車両の先端には様々な形のラジエーター装飾が施されていて、もっとも有名なものはロールスロイスのパルテノン神殿ふうだったり、アルファロメオの盾の形だったりしますが。BMWの草鞋型・キドニーグリルもルーツはこうした古い装飾です。

現代のラジエーターは表に出ることもなく四角い素っ気の無いもので、上下には冷却水の通る細い通路が、左右幅一杯には通過する空気によって冷やされる放熱フィンが多数並んでいます。これが空冷バイク・エンジンのフィンに相当。フロント・グリルはここに空気を取り入れるために開いているもので、一見グリルが無いように見える水冷の新型かぶと虫やポルシェでも、実はバンパー下にちゃあんと開口部が空いています。グリル・レスにするメリットは空気抵抗の低減や見栄えの問題です。

ラジエーターに空気を当てすぎると冷やし過ぎになってしまい、これもエンジンには不都合。そこで、水温を70度~90度とされる適温に保つためのサーモスタットがラジエーター・キャップに内臓されています。冷えていると水路を閉じ、冷却水が循環せず温まりやすくなる。ほかに前輪駆動の横置きエンジンでは電動の冷却ファンも温度によってオンオフされ、適温を保ちます。縦置きエンジンの大半はエンジン回転で回るプロペラのような回転ファンがついていて常に回りっぱなし。エンジン始動のとき大きなノイズを出すのが旧時代的です。

エンジンの発熱量は低速、高速、上り坂と場面ごとにまちまち、これに適応するのがサーモスタットの役目ですが、スバルの最初の5ナンバー小型車・スバル1000(1966)は二つのラジエーターを持って対応していました。負荷に応じてセカンダリー・ラジエーターにも水路を開き、オーバーヒートしないことが売り文句でした。この第二のラジエーター、室内に置いて背後から風を噴出してやると、ラジエーターのこちら側では温風になる。これが温水式ヒーターの原理です。高名なラリー・ドライバーは灼熱のアフリカで冷却能力不足を解決するために窓を全開にしたうえでヒーターも全開、セカンダリー・ラジエーターの役割を担わせたという昔話も・・・・

では、空冷エンジンの暖房はどうしていたのか?ポルシェやビートルのエンジンルームはシュラウドという覆いで囲まれていて、ここに冷却ファンの風を送ると温風が得られます。それを後ろから室内に送り込み、暖房や窓の曇り止めに使っていました。水冷エンジンのようにウォーミング・アップして水温上昇を待つ間もなく、温風が吹き出します。が、如何せん温水式ヒーターほど温まらず、温度管理も困難でした。今の水冷ポルシェからは想像もつかない悩み、でしょうか?

電気自動車の暖房にはエンジンの余熱が使えず、実は電力を貪る難問でもあります。電気で熱を起こすには大電流を要します。エアコン用のヒートポンプを逆転させる方法もありますが、発熱するリチウムイオン電池の冷却のための水冷ラジエーターを持っている車種もあり、その対処法は様々です。が、エンジンの余熱というオマケがないだけに電気自動車は冬が苦手。電池の性能も温度と共に低下するので雪国でのEV生活は、今暫く辛抱が必要かもしれません・・・・

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