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ボカロ嫌いな人にこそ届けたい2023年おすすめ曲10選

2023年に投稿された膨大なボカロ曲。私もボカロリスナーの端くれとして年間数万曲を視聴し、その中から普段ボカロを聴かない人やボカロに苦手意識がある人にもおすすめできそうな10作品を厳選させていただいた。なお、ここでの「ボカロ曲」にはVOCALOID以外の歌声合成ソフトが歌唱する楽曲も含めている。

何を以てボカロ嫌いな人にもおすすめできそうか、この10選では、歌詞がしっかり聞き取れることと人間のようにリアルな歌声または機械っぽくても聴きやすい歌声であることを最も重視している。その他にも1作者につき1作品のみ、できるだけ様々な音楽ジャンル・歌唱ソフトを含めることなどを条件に、10作品を1つのアルバムのように楽しめることも意識した。

今年で4年目になりますこのシリーズ。毎年言ってることですが、完全に私の独断と偏見で決めているのでどう思われるかは分からないけれど、せめて世界中の誰か一人にでも共感してもらえたら嬉しいです。

プレイリストはこちら👇


1. Anone kiite Oshiete / おくみゅう&てぃあら feat.???&???

もしも願いが叶うなら
一つだけだよ、ねぇどうする?
守りたいものがあるから
あのね 私「笑いたいの」

★おすすめポイント★
2人の優しく可愛い歌声と壮大なコーラスの響き合い

さわやかPOPを得意とするおくみゅうさんと、壮大なサウンドや高い調声技術が人気のてぃあらさんによる共作。

バラード風ワルツに乗せたあたたかい歌詞や歌声がとても素敵なこの曲、ボーカルはとある2人のAI歌声合成ソフトなのだが、タイトルやクレジットでは名前が明かされていない。これによって普段ボカロ音楽を聴く人も聴かない人も、あらゆる先入観を取っ払って歌詞や歌声に没入できることも魅力の一つだと思う。ちなみにボーカルの正体は動画内にヒントあり。

2. スターダストメドレー / きさら feat.初音ミク

まだ終われない
終わりたくない まだここにいたいんだよ
飛び込んで道連れだって もう離れらんないよ
どうかずっと止まないで

★おすすめポイント★
"ボカロっぽいけどイキイキしてる"オンリーワンの初音ミク

かわいさ全開の作風で人気を誇るきさらさんの作品。吹奏楽の課題曲マーチを意識しているというメルヘンな世界観、昭和・平成アニメをモチーフにしたハイクオリティーなMVが話題となり、『ボカコレ2023春』ではTOP100の3位にランクイン。さらにリズムゲーム『プロジェクトセカイ』の収録曲にも採用され、2023年の注目作の一つとなった。

きさらさんはこちらの記事で自身のボカロ調声法について「明らかに人間じゃないけどイキイキとした"キャラクター"の歌声を目指している」と語っている。この曲もまさに、きさらさんちのPCにいるミクが一生懸命楽しそうに歌っている姿が思い浮かぶようだ。人間さながらのリアルなAIシンガーが台頭する現在、こういうオリジナルのキャラクター性を歌声に乗せやすいメリットは旧来のボカロを生き残らせる道になっていくのかも。

3. 青の名前 / 紙崎ねい feat.Mai

奏で出す雨が
無くても君は
いつまでも唄う
風を待つ、朝焼けを背にして

★おすすめポイント★
ザ・透明感というべき爽やかなEDMサウンドと歌唱力

こちらも『ボカコレ2023春』投稿作品より、2022年11月に「Synthesizer V」のAI歌唱データベースとしてリリースされた「Mai」が歌唱する紙崎ねいさんの作品。

最近はもう把握しきれないぐらい増えたAIシンガーの中でもMaiはトップクラスのリアリティーだと思っている。ハリがあって尚且つ透き通った声質は、特にこの曲のような爽快さ弾けるダンスミュージックにピッタリだ。自然と体がリズムをとってしまう導入部から、一気に音圧がやってくるドロップへの展開が気持ちいい。

4. 追憶ポエジー / 雪乃イト feat.小春六花

私の知った涙は
ずっと傍にいたあなたの優しさも声も
溢れるほど覚えてくれる
どうして今になって
言葉に表せるだろう

★おすすめポイント★
人間らしく&大人っぽい圧巻の歌声が美しすぎる

ギター演奏や作曲・編曲家など多方面で活躍する雪乃イトさんが手がけた「SynthesizerV AI 小春六花」の公式デモソング。

バンド編成の可愛い系作品が多い雪乃イトさんとしては異色のバラードソングで、ボーカルの小春六花も明るく元気なイメージとは真逆の大人びてしっとりした歌声を披露している。そのひだまりのような温かさに初めて聞いた瞬間から鳥肌が止まらなかったし、動画のコメント欄にも「こはるり凄い」「人間かと思った」といった声が散見される。

5. アンドロイドメモリーズ / Wis... feat.重音テト

この温もりさえもきっと
プログラムされてるものなんだ
たとえそうだとしても
輻輳するfeeling
忘れたくはないなまだ

★おすすめポイント★
AIシンガーに生まれ変わった重音テトの表現力がすごい

3月にボカロPデビューしたWis...さんの3作目で、4月にリリースされた「Synthesizer V AI 重音テト」が歌唱する。重音テトは2008年にフリーの歌声合成ソフト「UTAU」のライブラリーとして登場し、それから15年もの歳月を経て商用ソフトのAIシンガーとして再登場したことは界隈の大きなニュースとなった。

個人的にUTAUテトの機械感の強い歌声は苦手だったのだが、SVテトはUTAUテトの力強い声質そのままに人間らしい歌声へと大進化を遂げている。その凄さを特に感じたのがこの曲。アンドロイドに芽生えた感情というテーマはテトのキャラクター性とすごくマッチしているし、心の底から想いを叫ぶような歌声がSVテトの本気を感じさせる。

6. バック・グラウンド・メモリー / かかこ feat.初音ミク

★おすすめポイント★
8bitサウンド×初音ミクは電子音の魅力をさらに引き立て合う

このキオクのオクの オクでうたう魔法みたいなウタ
あるく とぶ はしる フシギなボタン押して

かかこさんによる自作のゲームと連動した楽曲「遊べるMV」の第二弾。その独創性が注目を浴び『ボカコレ2023夏』ではルーキー17位にランクインした。ゲームはこちらのリンクからプレイできる。

横スクロールアクションゲームの世界と楽曲がリンクしており、ステージ2の分岐によって2番の内容が変わる(Youtubeとニコニコ動画で内容が異なる)など、曲としてもゲームとしてもすごく完成度が高い。電子音寄りにチューニングされたミクの歌声は、懐かしい8bitの電子音をベースとしたサウンドと抜群に馴染んでいて、歌声も含めて一つの音楽といった感じがする。

ここまで人間寄りな歌声を推してきたが、電子的な歌声だからこその魅力もあるということを一応ここで強調しておきたい。

7. 複製された、 / ichica feat.符色

巨大な庭にかけたカーテン 君には見せたい
向こうではみんな戦争に夢中さ
ノイズ 、掻き消して!

★おすすめポイント★
"本家ボカロ"の最新ライブラリが力強くもクールに歌い上げる

ここまで紹介した6曲のうちヤマハが開発した本家VOCALOIDを使用しているのは2曲しかないので、VOCALOIDもっと頑張れ!!!という気持ちも込めてこちらの楽曲を紹介する。AI技術に対応している「VOCALOID 6」の新ボイスバンクとして5月にリリースされた「符色」の公式デモソングで、手がけたのはichicaさん。

この曲で初めてちゃんと符色の歌声を聴いたが、静かに熱唱している感じ…とでも言うのだろうか、飾り気の無い真っすぐさがたまらなく好きになった。その歌声も相まって、情熱的なオルタナティブ・ギター・ロックが奏でるどこか不安定なメロディーは、夢と現実の狭間に誘われるような浮遊感を醸し出す。

8. サンディ / 烏鷺 feat.知声

サンディ
貴方がいつか居なくなったら
サンディ
私は何を歌うのだろう

★おすすめポイント★
儚い歌詞と珠玉の調声技術が織り成す言葉にできない美しさ

「知声」が歌唱する烏鷺さんの作品で、調声を担当しているのはハチナナさん。11月にニコニコ動画で開催された匿名でボカロ曲を投稿するイベント「無色透名祭Ⅱ」の投稿作品でもあり、上の動画はその後の本人投稿バージョン。

ピアノとバイオリンの優しい音色に乗せて大切な人への思いを馳せる、あどけなさが残る切ない歌声。なんでこんな美しいのですか、、、完全に虜になりました。2022年の年10選でもハチナナさんが調声した知声曲を選んでいるが、元々のポテンシャルが高い知声をさらにここまで美しく昇華させられる調声技術にただただ感服。特に裏声!歌声が好きです!!!!

なお無色透名祭バージョンは伴奏がピアノソロで、こちらもとてもおすすめなのでぜひ聴いてみて欲しい。

9. 拝啓、無彩色の君へ / 夜丹れにや feat.さとうささら

灰色の風景 ひとつひとつきみが触れるたび
色づいていく 足跡みたいに残ってる

★おすすめポイント★
小説のような情景描写が伝わる感情の込められた歌声

「さとうささら」が歌唱する、8月にボカロPデビューした夜丹れにやさんの作品で、こちらも「無色透名祭Ⅱ」の投稿作品。2024年1月に本人投稿バージョンが投稿されたので上の動画はそちらに差し替えている。

さとうささらはAIではない「CeVIO」版の時から歌唱力の高さに定評があったが、この曲はそれでもなお「歌うま…」と鳥肌が立ちまくった。Aメロの低音からサビの高音まで一貫して底力があり、細かい抑揚のひとつひとつで主人公の感情を言葉に反映している。哀しげに畳み掛けるコーラスは、冬のモノトーンな景色が思い浮かぶロックバラードにより深みを与えているようでとってもエモい。

10. CQ / kotori feat.京町セイカ

幾千の未来へと問いかけた
応答願う 聞こえていたら 教えて
"あなたは今 幸せに生きていますか"
なんて 分かっている
当然 応えなんて来ない

★おすすめポイント★
明るく伸びやかな歌声とオーケストラのシンフォニー

「Synthesizer V AI 京町セイカ」が歌唱するkotoriさん3年ぶりの投稿作品。京町セイカは学研都市として知られる京都府精華町の公式広報キャラクターでありながら、YouTuberやトークソフト、そして2022年にAIシンガー化するなど超多様に活躍の場を拡げている珍しい存在だ。

タイトルの「CQ」とは無線通信で通信可能な全ての無線局を一括して呼び出す略符号のことで、曲中にも幾つかモールス信号が含まれていたり、オーケストラとロックが融合した壮大かつ躍動感のあるサウンドが京町セイカのキャラクターともマッチしている。しなやかで天高くまで届きそうな歌声と、届くことのない一方通行の想いを送り続ける切ない歌詞の対比もまた良い。



結局「ボカロ曲」と言いながら7割はVOCALOID以外のソフトウェアになってしまったのはちょっと複雑な気持ちだが、AIシンガーがより一般的な存在になって、それでシーン全体の活気が続くのであればいちボカロオタクとして嬉しい限りだ。

最後に、2023年もたくさんの素敵な作品を生んでくれた全ての人々に最大級の敬意と感謝を申し上げる。

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