(感想)嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん完全版-幸せの背景は不幸-


「みーまー」と呼ばれているこの作品の完全版が出たということで「今読まなければいつ読むのか…!?」と奮い立ち読みました。
この作品は中学生のときだったか?に一巻を読んでみた記憶があったのですが、殆ど覚えてなかったのでそれもラッキーでした。


まず書きたいのが、一冊全部読んだあとにもう一度タイトルを見ると言葉すべてが作品を素直に表しているんだなあ、ということです。


前半は全体的にミステリアスで何もかもが掴めない感じで、ただ「知りたいから読む」という姿勢になっていた。作者さんは上手ですね…。



みーくんの絶妙なキャラ設定がとても良かった。
飄々としていたり、気が抜けていたり、それ故に焦ったり、まあなんとかなるだろみたいな精神の「ゆるい」人物なんだなあと思いきや急にそのままの形・流れを保ちながら「殺すしかないか」みたいなことをさらっと頭に浮かべるあたりが「あ、やっぱり常人とは違う恐ろしい一面(感覚)が根付いてる人物なのか」と、読んでる方の背筋を急に凍らせて、正して、再確認させてくる感じ。多分「この塩梅」のこの人がいなければ物語の雰囲気とか流れ、ざらつき具合がまた変わるんだろうなあと思った。
随所随所で鋭くなる彼のアンテナが好きでした。これってアニメや漫画、絵でキャラクターとして「画」がついてるとちょっとなんというか「カリスマ性」的なものが薄れちゃう気がしました。(絵が既にあったら失礼ですよね、すみません。)たぶん文章でどんどん肉づけされていく「どんな人なんだこの人は?」と想像する彼がいちばん輝いてるんだろうなと個人的には感じます。


まーちゃんは、元々初めて一巻を買った理由が表紙のまーちゃんに惹かれたからでした。左さんのイラストが素敵で……。

後半では色んなことが明かされていった訳ですが、御園マユが「特に特別性のない普通の女性であり、ただ理不尽に傷つけられた結果今がある」という事実を知ったときはちょっと面食らってしまいました。
トラウマで深夜に叫び出すシーン。
私は、俗に言う「ヤンデレな彼女まーちゃんに振り回されるみーくんという彼氏、的な要素が基となっていつつ、その背景が実はちょっと後ろ暗いんだよ」というブラックジョーク入りのドタバタサスペンスラブコメ!物語なのかと思っていたんですが、そんなものではありませんでした。
ヤンデレとかそういうものではなくて、ただの「壊れてしまった」被害者だったんだ……と思うと切なくなってきて、彼女の言動の何もかもが許されるべきであるとさえ思いました。誰にも「周りの人間と同じように振る舞え、生活しろ、生きろ」とは言えないなと。


みーくんのお父さんの事はあまり詳しく書かれていませんでしたね。それが余計に解説したってしょうがない奴とでも言うような「干渉できない危険人物」感を出していたけど、みーくんと御園マユのことを思うと正直ムカつきました。


そして、クライマックスの犯人判明とみーくん二代目という存在。
両方で「え?誰!?」となり理解するのに少し時間がかかりました。急展開すぎて、自分の遊んでる遊具を止めてもらえないときの不安が過りました。と同時に、「これが帯に書いてあった"大どんでん返し"か〜……!!」と一瞬頭が冷静になったので帯に"どんでん返し"あるぜ!!と書くのは一回審議会議に通すべきではと真面目に思いましたすみません。
多分売り出し方や見どころ的には上記の展開が華を持っているのだと思います。


でも私が一番ショックを受けたのはそこではなくて、物語の中でもたびたび語られていた「生きている限り生きていかなくてはいけない」という現実です。それが通用する世界の物語であるということがショックでした。
それは、もともとなんの意味もない事ですが人によって違う形をしており、この2人にとっては、とてつもなく残酷な姿をしています。
初期の原作は全11巻+1巻ということらしく、比較的厚さのない完全版を一度読んだだけの私はその物語の持つエネルギーの端っこしか受け取れてないんだろうなとは思いますが、とてもやるせなくなりました。

生きていかなくてはいけないということは、「自分の存在を自分で無視することが出来ない」→「自分を意識せざるを得ない」→「上手く生きていくためには自分のことを知らなければならない」→「知る為に自分とは?と考え、好きなもの嫌いなものなど何をどう感じたかを明確にしていく」という作業の連続だと感じているのですが、異常な過程を逸れた道で踏まされて歳を重ねた2人が自分で自分を暴いて支えていかなきゃいけないなんて、そんなことありますか?
「他人は他人、自分は自分」が許されます?
急に正義を振りまわし始めたので一回切ります。

その裏では、自分が幸せを感じていられれば側からどう思われていても全く関係なくて、その幸福は確かにそこに存在するという安心感もありました。作中で言われていましたが、それがまーちゃんなんですね。


まーちゃんほど壊れなかった、中間に放られたみーくんは唯一無二の存在ですね。壊れた世界にも壊れてない世界にも片方ずつ足を突っ込んでいる様子が。
みーくんだけど、実はみーくんではなかったみーくんは、まーちゃんと社会を繋ぐ紐であり、読者とまーちゃんを繋ぐ紐でもあり、ある種の社会と読者を繋いでくれる紐でもあるのかも知れないなと感じました。


リアリティとファンタジーが紙一重になっている中で用意された綱を渡るような作品でした。
面白さや怖さというより、切なさが強く印象に残った作品でしたが、続きが気になってするする読んでしまいました!

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