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【不思議な夢】武士のお返し

今から十数年前、まだ私が三十代の頃だったか、こんな夢を見た。

いつものごとく、戦国時代の夢である。

若い信長公と家臣たちが屋敷の一室の板の間に集まっている。

夢を見ている私には詳しいことはわからないが、この日どうやら絶好のチャンス到来といった情報がもたらされた。

名古屋から見て山手方面のどこかの地域。

方角的に、岐阜県の恵那市や中津川市のように思えるが、ハッキリした場所はわからない。そんな山の向こうで小競り合い?があったようだ。

その混乱した状況で、一時的に力の空白地帯が出来ている。そんなイメージが見えた。

『チャンスだ!取れるぞ』

『しかし漁夫の利を狙っているのは、俺たちだけではない。これは先に行ったものの勝ちだ!』

筆で描かれたザックリした地図を指して、信長公が部下に指示を出す。

「通常、ここに行くにはこの道を通ることになるが、ことは一刻を争う。三河の領内にあるこの道を通ればもっと早く現地に到着できる。三河とは同盟を結んでいる、緊急事態だ、通らせてもらえ!」

「じゃあオレ、オレが先頭で出るわ!」

一人の若者が元気よくそう言って、信長公の許可を待たず勝手に外に駆け出す。これは前田…、かな?

信長公が勝利を確信したようにニヤっと笑ってうなずく。その場にいたみんながざっと動き出した。

と、ここで映像は終わった。まだ私は寝ている。そう、これは夢の中の映像である。まぶたの裏のスクリーンに、まもなく別の場面が広がってきた。

先程の映像からしばらくが経ったある日。

この日の信長公は普段着で屋敷にいた。前の映像では戦装束を着ていたので、どうやらあの戦はひと段落ついたのだろう。

そんな信長公のもとに、部下が駆け込んできた。

「三河の者たちが突然やってきて、我が領内を馬で駆け回っております!」

「え?」

「止めようとしたのですが、『織田とは同盟関係なので、通っても良いことになっている、通してもらおう』と言うばかりでどうにもならず、いかが致しましょうか?」

「はあ!?」

信長公はクールな細い目を丸くして、変顔になった。

「そ うか…」

「うん、わかった。通ってもらいなさい」

「はっ、許可すると?」

「あ、ああ〜?もちろん…、三河とは同 盟 関係なので…、どうぞ 通ってもらって…」

信長公は変な顔をして、目をぱちくりしながら思った。

『あいつ、怒ってるなあ…』

あいつというのは、徳川家康公のことらしい。(この時の家康公は、まだこの名前ではなさそうだが。。。)

漁夫の利を狙って近道するために、強引に三河の領内を走った織田軍に、三河者たちがずいぶん怒ってるようだ。

『やられたことはきちんとお返ししましょう』ということだろう。

映像が外に切り替わった。よく晴れて気持ちがいい日だ。

織田の領内を走り回る数騎の三河の騎馬武者。甲冑をまとい槍を持って、ものものしい戦の格好だが一応走ってるだけで誰にも危害は加えない。

(ああ…、ほんとだ。走ってる、走ってる…!アハハハハ!!)

これには、夢を見ている側の私もさすがに笑ってしまって目が覚めた。

それ以来、三河武士と聞くと、いつもこの夢を思い出して笑ってしまう。

青空の下、三河武士が走っている。やけに爽やかな風が吹き抜けていく。

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