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かきごおり

去年、とある史跡に行ってきた。戦国時代、多くの人の命がそこで散ったらしい。

『私の前世と関わりがあった人たちもいただろうか?』

妙なことを思ってしまう。そんな妄想を振り払い、「皆さん、はじめまして」と挨拶した。初めてお参りする場所での挨拶はいつもこれにしている。

お茶を供え、冥福を祈って手を合わせた。

暑い日だった。そのあと茶店に寄って抹茶かき氷を食べた。

帰宅して眠っていると、夢に少年が現れた。

「こおりが食べたい…!」と少年はひどくかすれた声で言った。熱いのか、とても苦しそうだ…

小姓姿の可愛い顔が悲しみと死の苦痛に歪んでいる。

幽霊というのは生きてる者から見えないことをいいことに、悪さをすることがある。たとえば誰かが美味しそうに食べていることに腹を立てて、意地悪をすることもある。

でもこの少年は良い子のようだ。

「私が茶店で食べている間、あなたはじっと我慢していたんだねぇ…」

茶店で私が食べている時に横から、『ボクにもちょうだいよ!』と言うことも出来たろうに、この子は食べ終わるのを大人しく待っていたんだ。

小姓として礼儀作法をしつけられた子なのだろう。辛い死に方をしただろうに、そんな目に遭っても心歪まず礼儀を守るとは…

夢から目が覚めて、すぐにかき氷を作って仏間にお供えした。私が作った特製濃厚抹茶シロップをたんまり掛けた。

「味はどうだ!?茶店のやつより濃い抹茶だぞ?」自慢げに声を掛けると、見えてしまった。

手と口を抹茶シロップでベタベタにした少年が、あどけない瞳でこちらを見ている。

「あ゛、ごめん!!スプーン添えるの忘れてたね?」

私は慌ててスプーンを取りに台所に戻った。


     ***

※二月某日、加筆修正しました。修正箇所の説明は以下で。


↓かき氷のサイドストーリー

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