【不思議な実話】私の夢供養❽
新しい物語
根来寺の参拝を終えて、母と私はまたバスに揺られて家に向かう。
バスの中、夢を見た。三十代半ばの女性が幼い二人の子供との再会を喜んでいる映像が見えた。母親が私の方に顔をあげて満足げに言った。
「これでようやく長かった四十九日が明けました。」
女性は挨拶するようにそう言ってから、親子ともども上っていった。
(そういえば朝、家のベランダから誰かがついてきたな?)
生前、生き別れになった子供たちへの思いが残って、ずっとこの世をさまよっていた母親のようだ。それがどういうわけか、私が根来寺に行ったことがきっかけで親子は霊界で再会を果たした。
私が前世の記憶を元に動くことで誰かの魂が浄化されてる。守護霊の働きだろうか?
こうして初めての根来寺参りは幕を閉じた。
さて、ここから別の物語への分岐が出来た。根来衆と紀州の豪族たちとの物語だ。
だが、この記事はあくまで“いそのかみの一族”について書くものだ。このさきの話は2020年から一年数ヶ月先へと飛ぶこととなる。
終わらぬ試練
私はまた不貞腐れて寝ていた。2022年正月のことである。
これより一年数ヶ月前の2020年初秋、根来寺に行ったことで勇気づけられた私は、歩く速度は遅いが杖がなくとも歩けるようになった。冬にはようやく次の仕事にも就いた。
しかしそこはブラックな職場で、たった数ヶ月間でスタッフが次々と辞める中、ついに私も疲労の限界が来てしまった。
こうして再び無職になった私は正月を呆然と家で過ごしていた。仕事が見つからない。
いじけて毎日スマホをいじる日々。小さな画面を見過ぎて目がチカチカしてくる。ブラック職場で勤務していたときも、パソコン画面の見過ぎで毎日肩凝りが酷かった。
(なんだかもう疲れたなあ…)
しかもこのところ、引っ越したばかりの我が家では嫌なことが続いていた。
実は母と私は去年、わけあって現在の集合住宅に引っ越した。新居を探すにあたっては母と意見が合わずに色々と苦労もあった。しかしようやく良さそうな物件に出会えた。
現在の住居を初めて内見したときのことだ。そこは高層の集合住宅で、室内は明るく風通しもよく住みやすそうに思えた。ただ、一室だけ陰気な部屋があることを除けば。
なによりクローゼットの前に幽霊がいる。
(うーん…、正体は見えないが、たしかにいる。)
しかし交通の便が良いし、スーパーも病院も公共施設も近い。ひとつくらいの欠点は目をつぶっても良さそうだ。
ここに引っ越すことに決めた。幽霊がいる部屋は私が使えばいい。あとで守護霊たちに成仏させるよう頼もう。
──と、思ったが甘かった。
引っ越し後、どういうわけかいつもなら助けてくれる守護霊たちが全く動いてくれない。どうなっているんだ?
そう思う間に、次第に家の中で心霊現象が起き始めた。最初は私の部屋だけだったのが、やがて母の部屋にも異変が及んだ。
たまたまうちに来た知り合いも、「なんだかこの家、男の気配がしない?」などと言う。男などいないのに…。
やがて死んだ母方の祖母の霊までもが、私達を心配して頻繁に出てくるようになった。祖母があの世で心配するほど、この家はおかしいということか。
弱り目に祟り目
やがて新居での初めての正月を迎えた一月一日、我が家のポストに最初に届いたのは、年賀状ではなく切手の貼られていない不気味な封筒だった。
不審に思って開いてみると不穏な文面の手紙が入っている。差出人は近所の人で、新参者の私達へのクレームが書かれていた。
クレームには全く身に覚えがなかったが、なるべく穏便に話そうと菓子折りを持って謝罪しに行った。
話してみると誤解はすぐに解けた。手紙の送り主は、「なんだか逆に申し訳ない」と、お返しにこちらもお菓子をいただいた。これで一件落着のはずだった。
ところが、高齢の母がこの件に強いショックを受け情緒不安定になってしまった。「近所の人が怖くてたまらない」と、興奮して泣き出したりもした。
次からつぎへと、弱り目に祟り目である。
悩む私を嘲笑うかのように心霊現象は続いた。深夜、70年代ファッションの若い男の霊が出て来てくるわ、子供の頃から私に憑いてる悪霊がここぞとばかりに活気づいて家の中を走り回る。心配した祖母の霊が危険を知らせに出て来る。あの世もこの世も大騒動だ。
(ああ、困ったなぁ…)
そうも言っていられない。このままでは高齢の母から先にダウンしてしまう。なんとか気分を上げるため、気晴らしに出かけることにした。
個性的な登場
その日、初めてJR浅香駅で降りた私達親子は、そこからバスでイオンモールに行きランチや買い物をする予定だった。
駅を出てバス停を目指し、少しこんもりした丘にある住宅街を上がる。あれ?どうやらバス停とは違う方向に来たかもしれない。そう思い始めた私の目の端に朱い鳥居が映った。
「あ、ここが浅香山稲荷なのか…」
以前、江戸時代の大和川の付け替え工事について調べたときに、郷土史の本に書いてあった神社だ。いくつかの不思議な伝説が残っているという。
「お母さん、ここお参りしてもいい?」
パワスポ嫌いの母も「いいよ」と言うので立ち寄ることになった。
(おお、これはまた個性的な感じのする神社だ!)
小さな無人のお社のようだが、独特な雰囲気の神様を感じる。(※午前中にはどなたかがおられるみたいです。)
「ここはなんかすごいね、お母さん!」嬉しくなって母を見ると、うんうんと母もうなずく。
拝殿に参拝し、境内を一通りめぐって、「じゃあ、そろそろバス停に行こうか!」と声を掛けると、母がさっきまでとは打って変わってとても怖い顔で立っている。
「あんた!いま憑いたでっ」
母が急に怒りだす。
「あはははっ、え?お母さんどうしたん?」
「いま本殿の方から神さんが飛んできて、あんたに憑いたのが見えた!」母がぷりぷり怒って言う。
「ええ〜?お母さん、なんで怒ってるん?あははははは」なんだか面白くて笑ってしまう。
神社を出てバス停に向かいながら、私は怒る母をニコニコとなだめた。
「お母さんたらもう、なにをそんなに心配して、あははははは…」
(うん?なんで私笑ってんだろ?)
なんだかすごく愉快で楽しい。
「ああ!ほんまや、お母さん、私いま誰かが憑いてるわ、あはははははっ」
「だからもう、あんたはなんで神さんまで連れてくるのっ!!」
「あははははは!大丈夫、大丈夫!!神様もたまには散歩したいのかもよ?」
私達はその後イオンモールに到着し、ごはんを食べて買い物を済ませ、来た時とは違う路線で家路についた。
「あはははははっ、お母さんもうすぐ家やね?」
「嫌やわぁ・・・あんた、まだ神さん憑いてるわ」
車中、奇妙な親子喧嘩をしながらやがて家に帰りついた。
玄関を開けた母はすこぶる機嫌が悪い。
「もう!やっぱり神さん、家までついてきたやんか」
「あははははは!まぁ、まぁ、そう怒らずに…、ふふふ…」
ニコニコ笑いながら私は自分の部屋のドアを開けた。その時だ。
『ふーん、問題の部屋はここですか。なるほどそういうことか…、ふふふ…』
頭上で誰かがつぶやいた。光の粒がフワッと部屋に広がり、キラキラと室内がきらめく。
私は慌てて母の部屋に飛び込んだ。
「お母さん!お、お酒っ、お酒かお茶か、ああ〜っ、とにかくなにかお供え物しないと、神様がこの家を清めるためにおいでくださった!!」
母は、さっきまでの怒った顔をゆるめ、拗ねたように口を尖らせてこう言った。
「神さんが家まで来るということは、そういうこと、やろね…?」
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