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概念と表現の区別

僕が先生になって5年目くらい頃だろうか。
研究会の先輩に連れられてある勉強会に参加させてもらいました。
そこには、ここに書けないほど(書いてはいけないほど)の立場の先生がいらっしゃいました。
最近、娘(小1)の発した言葉と、その先生が話題にしてくださったお話が結びついたので、今日はそのことについて書いていきます。

3分の3個のお餅

娘は最近、朝ごはんにお餅の上にケチャップとチーズを乗せて焼く「餅チーズピザ」を好んで食べています。
作り方は、市販されている切り餅を3等分に薄く切って、その上に材料を乗せてオーブントースターで焼くだけです。
ある日、娘が、3等分されたお餅を見て、「3分の3個」とつぶやきました。

僕は、その発言に感心してしまって、「すごい言葉を知っているね!3分の3個ということは、1個ということだね」と返しました。

すると、娘は、目を丸くして「ん?どういうこと?」と言ったのでした。

概念か 表現か

娘とのやりとりを通して、僕が思い出したのは、冒頭で書いたある先生のお話でした。
その先生は、次のようにおっしゃいました。
「これは、概念に関わるもの?表現に関わるもの?」
当時の僕は、何を問われているのかさっぱりでした。
たとえば、「自然数」。これは、数概念に関わるものなので、概念に峻別します。
「有理数」や「無理数」も同じように概念に関わるものです。
では、「小数」「分数」はどうでしょうか。
「小数」「分数」は、概念ではなく、表現に関わるものだそうです。
なぜなら、どちらも有理数を表すのに使われる表現だからです。

この概念と表現についてのお話は、「初等科数学科教育学序説 杉山吉茂教授講義筆記」(杉山吉茂著)に詳しく載っています。

杉山先生は、次のように書いています。

特に言いたいことは、算数は、すぐ計算、計算と言い、計算ができることに力が入れられますが、計算は、今言ったように表現上の処理の手続きにすぎませんから、それを一生懸命教えて、できるようにしたからと言って、数概念が豊かになるというわけではないということを頭に置いてほしいと思います。計算だけでは表現にかかわる仕事をしているだけです。大切なのは、数概念を豊かにすることです。

「初等科数学科教育学序説 杉山吉茂教授講義筆記」杉山吉茂著 東洋館出版社

つまり、子どもに算数を教える大人が概念と表現を区別しておく必要があるのです。

さて、僕の娘は、「3分の3個」という表現をしました。
どこで知ったのかは分かりませんが、3等分したお餅が3つ並んでいるのを見て、「3分の3個」と言っているので、表現としては正しいでしょう。
そのあとで、僕から「3分の3個ということは、1個」と聞いても、その意味は分からなかったようです。
つまり、分数の概念はまだまだだということです。

概念と表現を行ったり来たり

子どもに数を教えるとき、親は、お風呂の中で「1、2、3、4、…」と唱えたり、絵本に出てくる数字を読み聞かせたりして、表現のシャワーを浴びせます。
この働きかけは、表現を教えているのですね。
一方で、2本の鉛筆を指して、「鉛筆が2本あるね」と言ったり、台所にあるジャガイモを指して、「カレーにはジャガイモを2個使うよ」と言ったりして、「2」という概念を教えているのです。
概念も表現もどちらも大切で、両者の間を行ったり来たりしながら、概念が確かなものとなり、表現も身に付いてくると考えます。

ちなみに、概念と表現の話題がよくあがるのが、分数の指導です。
また、SNSで賑わっている「かけ算の順序指導の是非」についても、概念と表現の扱い方で立場が異なるため、対立構造が生まれているのではないかと感じています。
これらについては、また別の機会で書いてみようと思います。

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