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実話怪談の周辺#2 実話怪談を取材する話

初めましての方は初めまして。どこかでお会いした方はいつもお世話になっております。実話怪談作家の神沼三平太です。この記事は、実話怪談の執筆をめぐるエッセイ風の内容になっています。実話怪談そのものではありませんが、一部の内容には神沼がどのように実話怪談を書いているかというような舞台裏のような内容も含まれています。100円ですが全部読めます。面白かったら投げ銭してください。

それでは今回もそろそろ始めましょうか。

実話怪談を取材する話

実話怪談という文芸は、取材をしないと始まらないのです。なぜなら、「実話」ってある通り、「実際に怪異を体験をした本人」、または「実際に怪異を体験をした人の話を聞いた人」からの取材に基づいて書かれるのが実話怪談だからです。

だから、基本的に沢山の話を持っている人は、取材を沢山している人だと考えられます。なお、ここでは完全に頭の中で作られた創作の怪談(小説)についても扱いませんし、実際に起きたことをヒントとしていても、登場人物や、他のストーリーラインに組み込むために事実を大きく変更している小説などについても扱いません。このあたり、実話怪談の定義、みたいな話をし始めると、それだけで一回分になってしまうので、迂闊に足は踏み入れません。その辺りお察しください。

話を元に戻します。取材に関してです。このあたりのノウハウは作家ごとに全然違っていて(たぶん)、神沼の手法が全て通じるわけではないでしょう。同じようにやって効果的な人と効果的でない人もいるはずです。なので、神沼はそんな感じでやってんのね、と。そう思っていただければよろしいかと。

神沼の取材は、大きく3種類に分けることができます。

1. 怪談愛好家の知り合いから体験談を提供していただく

2. 初対面の方から体験談を提供していただく

3. 怪談愛好家ではない知り合いから体験談を提供していただく

この3種類です。それぞれどんな感じか見ていきましょうか。

怪談愛好家の知り合いから提供を受ける

怪談を愛好する方の中には、怪異体験をした、または怪異体験を耳にするという方がいます。そのような方々から体験談の提供を受けて、実話怪談として執筆するという手段は、実話怪談執筆において一つの代表的なルートでしょう。このルートのメリットは、お互いに怪談愛好家のため、色々と社会的に疑われたり、胡散臭がられたりといったことを避けられる点です。場合によっては、怪談や体験談を語り慣れている人からの提供の場合、もうほとんど手を入れることもない程度に話が固まっている場合もあります。体験の生々しさ、という部分が失われているかもしれませんが、内容は精錬されているため、怪談として書く場合に迷う点も少ないでしょう。ただこの点は人によっては一長一短かもしれません。体験者の語りの生々しさに魅力を感じる方は、少々物足りなく感じることもあるかもしれません。

それでは体験談を提供してくださる怪談愛好家の方と知り合うにはどうしたら良いのでしょう。その一つは怪談会などのイベントに出かけることです。そこで親しくなるという方法が最も簡単な方法でしょう。怪談関係のイベントに出かける人は、怪談好きに決まっていますからね。ただ、初対面では難しいかも知れません。神沼は十年ほど書籍を出したりしてきたこともあり、怪談作家として自己紹介をすれば、ありがたいことに、「あぁ、あの酷い話を書く神沼さんでしたか。どんな怖い人かと思っていました」とよく言っていただけます。いや、僕自身は全く怖くない人なんですけども。提供を受けた話をコンスタントに表舞台に出せるルートを持っている人であれば、怪談愛好家の方から話の提供を受けることは、有効だと考えられます。

そこで神沼は全国を巡って怪談会を開催するという手段を選びました。全国の怪談愛好家とぜひお友達になって、ぜひ体験談を教えていただきたいと考えています(もちろん怪談会では、僕も聞き集めた話を沢山語ります)。どうぞよろしくお願いします。(この段落はただの宣伝です)

初対面の方から体験談を提供を受ける

もう一つのルートは、初対面の方から体験談を提供していただくパターンです。よくあるのは街中のバーや飲食店、タクシーなどを利用した際に、マスターや店員、運転手の方に、何か怖い話を持っていないかを尋ねるというものでしょう。特にタクシーの運転手に体験談を聞くというのは、怪談好きなら一度は試したいと考えているのではないでしょうか。タクシー怪談というものもありますし、タクシーで不思議な話を聞くというのはある意味は定番かもしれません。事実、神沼もタクシーを利用する際には、必ず「何か不思議な話とか、怖い話とかありませんか」と尋ねるようにしています。運転手さんには面倒くさい客って思われているかもしれませんが、何か聞けたら嬉しいですしね。

しかしこの手段は、なかなか勝率が低いようにも思います。バーであれば、お酒が入って話が盛り上がり、一晩で何話も聞かせてもらえることもあります(もちろんマスターが乗ってくれれば、他のお客さんに話を降ってくれる場合もあります)が、それ以外はなかなか難しい。特にチェーンの飲食店はほとんど聞かせてもらえないでしょう(店員さんも忙しいですからね)。ただ、個人経営の定食屋さんなどでは、大将が話好きの場合、色々と面白い話を聞かせてもらえることも多いです。レッツチャレンジ。基本的に怪談は数打たない限り当たりません。

これはとっておきの取材方法なんですが、神沼は心霊スポットに足を運んで、その場で取材をすることもあります。つまり取材される側にとっては、心霊スポットに肝試しに行って、もっとこわい心霊おじさんにカツアゲされるということになる訳ですね。そもそも怖がりに来ているところに、得体の知れない「怖い話置いてけおじさん」が現れて、お前ら何か怖い話はないのか。他にはないのか。もっとないのか。ほらそこで跳んでみぃ。まだ持っとるやないか――という、我ながらタチが悪い方法なのですが、もちろんその心霊スポットに関する体験談を持っており、その場で惜しげもなく語れることが前提です。情報はギブアンドテイクですからね!

怪談愛好家ではない知り合いから体験談の提供を受ける

こちらはそんなに変な話ではありません。むしろ一般的にはここから始める人が多いと思います。つまり、家族や親戚、友人、学校やバイト先の先輩などの、怪談好きであるかは別として、とにかくすでに社会的関係のある人たちに、何か話はないかと尋ねて歩くという方法です。

きっと友達の中には本人ではなくとも、知り合いの体験を知っているという人もいるでしょう。

「俺のバイト先の先輩の体験談なんだけど、それでもいい?」

もちろんです。ありがとうございます! 神沼もこうやって取材先を増やしていくことは多いです。仕事で知り合った人にはだいたい聞くようにしています。稀にお化けが見えるという方がいて、とんでもない体験談をお持ちだったりするので、とにかく知り合った方には積極的に声をかけていきます。特に、あの人は怖い話を集めているということが知られてくると、相手から「こんな話を聞いたよ」と教えてもらえることもあります。一方で、特に親戚や家族からは怖い話を集めているということを気持ち悪がられることもあります。なかなか難しいところです。

神沼は、学校で教える機会があるので、学生に対してアンケートという形で怪異体験を書いてもらうことを続けています。ほとんど「怪異体験なんてありません」という結果になるのですが、中にはアンケート用紙にびっちり体験を書いてくださる方もいます。その場合は改めて取材させてもらえないか連絡を取ったりします。これはできる人は少ないかと思いますが、なるべく多くの人にあたってみる、という基本的な姿勢は重要かと思います。

近所で起きた不思議な噂を教えてもらう

これもとっておきの方法なんですけれど、本人や直接の知り合いの体験談でなくてもいいから、とにかく怪異体験や奇妙な話について教えて欲しいという場合には神沼はこうやって取材を試みます。

「この辺りで不思議な噂とか、変なことが起きた話とか、何か聞いたことありませんか」

この上でさらに、「最近のものでなくてもいいんです」と付け加えることもあります。

人間というものは割と噂好きで、場所に関する変な話については割と覚えていたりします。たとえば

「デマだと思うけど、あの踏み切りに小学生のお化けが出て、事故を起こすって噂があったよ」

こんな話が出てきたらしめたものです。別の人に「あの踏切には小学生のお化けが出るって話があったんですか?」こう尋ねてみましょう。いつ頃の話なのか、本当にその踏切なのか(別の場所のことはよくあります)、噂の根拠は何だったのか。もっと詳しい話はないか。色々な角度から切り込むことができます。

具体的な場所について聞くことで、怪異体験につながる情報を得ることができる。そんなノウハウも活用してみてください。

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