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名曲怪説05 - New

2015年4月27日、東京ドームにてポール・マッカートニーをこの目で見た。
それからちょうど二年後。
2017年4月27日、東京ドームにてポール・マッカートニーに再会した。
すばらしい夜だった。

***

さて、今回はポールの一番新しいアルバム『NEW』(2013年)より表題曲「New」について、その旋律を追ってみます。


まずはクラヴィネットの音色が印象的なイントロです。

「ソ」から始まって、5度上行→3度下行→5度上行→3度下行……を繰り返して「ミ」にたどり着きます。
これらの音を垂直に積んで(すなわちコードの形にして)みると、3度の蓄積になります。そして並び替えれば、Gミクソリディアン(Mixolydian:メジャースケールの第7音がフラットしている)というスケールになっていることがわかります。

この曲のキーはCメジャー(ハ長調)ですが、歌のメロディーには派生音(シャープやフラットが付く音)が一切登場しません。ということはイントロの2小節で曲に使われるすべての音が提示されているとも言えます。

ところで、スケールに含まれるすべての音を使ったメロディーとして最も有名なのは、たぶんこの曲です。

ブラームスの『交響曲第4番』。僕はクラシック音楽でいうところのロマン派の音楽って苦手なんですが、この曲は例外的に好きです。初めて聴いたのは中学生の時、当時NHK教育テレビで放送していた「N響アワー」でネルロ・サンティという巨漢の指揮者の演奏でした。中学生の頃聴いた曲って、結構その後の人生に影響を及ぼすと思うのだけど、みなさんはいかがでしょうか?

で、交響曲第4番の冒頭にヴァイオリンで弾かれるメロディーは楽譜にすると次のようになっています。

これも先ほどの例と同じようにコードに置き換えたり、並べ替えてスケールのかたちにしてみたりすると、ホ短調の音階(和声的短音階)の5番目の音から始まる音階(ジャズ理論では「ハーモニック・マイナーパーフェクト・フィフス・ビロウ」という長い名前で呼ばれます)から構成されていることがわかります。

これは当時としては先進的なメロディーだったようです。なぜなら、この手法をさらに押し進めた先に、「現代音楽」と呼ばれる20世紀の音楽に多大な影響をもたらすことになる「十二音技法」があるとも言えるからです。十二音技法とは、簡単に言ってしまえば1オクターブに含まれる12の音を等しく使って作られる音楽で、たとえばこんな曲があります。


曲もととなるのは12の音=半音音階を並べ替えて作られる「音列」です。上に紹介した曲は次のような音列をもとにして作られています。


再びポールに戻ります。
イントロに続いて歌われるメロディーを見てみましょう。

「ソドレミ」で始まるフレーズです。
この「ソドレミ」というのは、昔からいろいろな曲で使われています。ネットで検索すると「ソドレミの法則」とか、「ソドレミ・シリーズ」といったサイトが出てくるので、興味のある人は調べてみてください。

1オクターヴ内の幹音(シャープやフラットが付かない音)しか使っていなくても、メロディーの可能性はまだまだ無限にあるのだということに改めて気付かされ、驚きます。

このメロディー(Aメロ)が終わって新たなメロディー(Bメロ)が出てきますが、こちらもやはり幹音だけでできています。Aメロが1オクターヴ内を上に行ったり下に行ったりと動きがあったのに対し、Bメロは「ラ・ド・レ」の3音しか使っていなくて(レは1回だけでほとんどがラとド)、内省的な感じがします。
《僕らは何だってできる 選んだ道を生きられる なんの保証もないけど 失うものなど何もない》という歌詞とメロディーとが自然に合致しています。

名曲の名曲たる所以の一つにはメロディーの対比ということが挙げられそうです。
これに関して言うなら、ジョビンの『ワン・ノート・サンバ』なんかその最たる例ではないでしょうか。

そんなわけで今回はポール・マッカートニー「New」について、特徴的な部分を考察しました。では、また次回。

text by ryotaro

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