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名曲怪説03『黄金の歳月』

こんにちは。2016年も残すところあと数時間となりました。いかがお過ごしでしょうか。僕は先ほど横浜で年越し蕎麦を食べ、正月用の買い出しをして帰って来ました。部屋の大掃除を諦めたらほとんどやることがなくなったので、久しぶりにこのコーナー、いってみましょうか。

(ジングル。アカペラ風に)めーいーきょーくかいせつ〜♪

ラジオ番組を文字起こししたかのように書き出してみましたが、もちろんジングルなんて存在しません(笑)
シリーズ化を念頭に、はりきって番号など付けてしまいましたが、やはり道のりは険しく、ようやく3回め。前回がいつだか思い出せません。曲が『サーフボード』だったので夏でしたかね。今回は12月にちなんでこんな曲を取り上げてみます。

このnote、というか僕の投稿ではすっかりおなじみのジョビン先生と、同じくブラジルの偉大な詩人であり歌手であり作曲家であり劇作家であり小説家であるシコ・ブアルキ(1944〜 )の共作『Anos Dourados』です。邦題は「黄金の歳月」、英語タイトルは「Looks Like December」。もともとはテレビドラマのために書かれた曲だそうで、《わたしの目が潤む/狂おしい12月/けれど覚えている/それは黄金の歳月》という歌詞の一節から英訳がこうなったのでしょう。

はじめに個人的なことを言えば、僕は初めてこの曲を聴いたのはブラジルの女性ピアニスト・シンガーのイリアーヌ・イリアスによるバージョンでした。

これを聴いたとき、イントロのリズムがどうなっているのかしばらくよく分からなかったです。というのも、先に貼ったYouTube=ジョビンによるバージョンでは、楽曲はアウフタクト(弱起)で始まるけれども、拍のアタマが音符で埋まっている三連符(譜例2を参照)なので拍を捉えやすい、一方でイリアーヌは拍のアタマが休符の三連符で始めている(譜例1を参照)から、結果、カウントを取りにくい。

【譜例1】

こういう現象(?)はブラジル音楽には多く見られるように思います。踊り好きのブラジル人にはごく普通のリズム感覚なのかもしれないけれど。たとえば。

これはMPBの旗手のひとり、ジャヴァンの『Sina』という曲ですが、初めて聴く人にはどこが裏拍(または表拍)なのか、ちょっと惑わされるのではないでしょうか。

さて、イントロはこのくらいにして本題に入ります。

今回『黄金の歳月』のちょっとした分析を通じて僕が言いたいのは、名曲には無駄がない、ということ。つまり、限られた素材をいかに独創的に展開させていくかということが作曲家にとっての腕の見せどころ、ということができるのではないか。そんなふうに思ったりします。その意味において、たぶん一番有名な例がこれ。

ご存知、ベートーヴェンの「運命」です。正確には『交響曲第5番ハ短調作品67』。(「運命」という名称は作曲者本人が付けたものではないので、最近ではコンサートのプログラム等で「運命」という表示を見かけることも少なくなってきました。)この曲は「運命の動機」とも呼ばれる「だだだだーん」という音型が曲を形作る上での基礎になっています。いわば「だだだだーん」なる建材による巨大な建築です。

基本的には楽譜という設計図を作品成立の前提とするクラシック音楽ではこうした例はたくさんありますが、もちろんジャズ・ポピュラー音楽においてもまた動機(モチーフと言ったりします)をうまく発展させて作られた曲というのはあります。

そこで『黄金の歳月』です。曲全体は次のような構成です。

♪イントロ → 1番 → 間奏 → 2番 → アウトロ

ここでは1番の旋律に注目してみます。1番は34小節あって、A(8小節)-B(8小節)-A(8小節)-B'(10小節)ですが、ここに二つの動機を抽出することができます。

【譜例2】

a: 2度+3度+3度で下行(音楽の分析では「下降」ではなく「下行」と書きます)する4音。コードで考えると、G△7すなわちメイジャー・セブンスの構成音です。

b: 2度で上行する2音。

aについては、各フレーズの出だしがこれで統一されています。楽譜で見なくても聴いてわかる特徴的なモチーフだと思います。歌い方の「ゆれ」はありますが、基本的に同じリズムと考えてよいでしょう。16小節目では構成音がBm△7すなわちマイナー・メイジャー・セブンスに変化している(譜例2のa2)ことで、このラブソングに陰影を与えることになっています。

bはaほど特徴的ではありません。連続する2音なんてありふれたもので、これをモチーフというのは強引かもしれないですが、しかし、この曲ではやはり重要な素材ではないか。それはAの部分(譜例2の5〜12小節目)において繰り返し現れることに加え、1番の終わりの部分で次のような音型があります。

【譜例3】

34および36小節目、「ラシソラ」です(これをxとします)。ご推察の通り、「ラシ」と「ソラ」はモチーフbが二つ結合したものです。そしてこの結合は実はすでにAの部分に現れているし、Bの部分(譜例2の13〜20小節目)においてもその骨格をなしていると捉えることができそうです(譜例2の赤玉音符を結んでみてください)。

もう少し大きな視点で見ると、Aの部分は全体的に上昇感のあるフレーズでできていますが、Bの部分は逆に下降感のあるフレーズとなっていて、対照的です。メロディーとしての均整が保たれています。さらにBの部分ででてくる半音で下行する音型は、Aの部分において伴奏パート(ピアノ)で使われていたりして、旋律と伴奏との関係においても有機性がみられます。

すごいと思うのは、こうした有機性が自然に成り立っているということ。そんな音楽に、僕は憧れます。

(エンディングテーマが流れ始める。曲は「第九」)

そろそろお別れの時間のようです。次回はいつになるかわかりませんが、それではまた。みなさま、良いお年をお迎えくださいませ。

(第九、バリトンソロのあとの合唱あたりでF.O.)

- text by ryotaro -

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