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【朗読用詩】ふと、よぎる記憶に

忙しない日々の中で
ふと、自分の体験にはない
ワンシーンが脳裏をよぎる

窓から見える店内
家族連れでごった返す入り口を横目に
こんな店で、あの人たちは働いているのかな

あの2人が飲んでいた結果たどり着いた
思わぬ告白は、こんな居酒屋の個室だったろうか

ビジネス街のビルの角
レトロな雰囲気のある
落ち着いた喫茶店
あの人がオムライスを前に
待ち人の悔しいような笑顔を
思い浮かべていたのは……

このきらびやかな街並みを、
石畳の古風な路地を、酔った2人は寄り添って
歩いたんだろうか
橋の欄干から、川と山の先に見える夜景
この星空を見上げたろうか

国内線が行き交う空港のロビー
あの人もきっと、ここを走ったんだろうな
間に合えって、願いながら
そんな余裕の無さを見せないように
息を整えて、笑顔で、
彼女を驚かせるいたずら心を抱きしめながら


高架沿いの 暗い四つ辻に差す街灯の点滅に
思わず後ろを振り返ってみる
そこにもう一人自分がいたら
彼女のように笑えるだろうか


思い出すのは 自分の体験にはない記憶

お借りしてきた役の記憶

これまで聴いてきた 声劇の記憶

その世界を思い描いた人

それに声と共に寄り添って
時に同化して演じた人

共に ほんの一時
笑い、泣き、怒り、叫び……

素性もよく知らない人たちとの
それでも、きらめくような記憶が

今日も どこかで……また


この
ふと、よぎる記憶と共に

──明日もどうか、良い一日を

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