押し入れの中のジャズ喫茶
以下の文章は去年の春、高校時代からの親友、喫茶茶会記(現、茶会記クリフサイド)のオーナー福地さんへ向けた寄稿文です。
大京町茶会記最後の残り香… すでに3分の2の荷物が運び出された、旧茶会記の喫茶室にお邪魔させてもらった。
カウンターはじめ、主要な設備はなく、音源も小さなスピーカーが一つ。まるで倉庫のような
空間で、店主福地さんにジャズを聴かせてもらう…。
そんな中、ふと20年以上も前の出来事が心に蘇ってきた。
茶会記誕生のはるか前の話しである。当時、福地さんはキャノンソフトウエアに勤務していた。
なんでも、会社の近くに引っ越したという。
福地さん曰く、通常の会社員はオンオフを分けるため、会社から離れたところに部屋を設ける。しかし、敢えて攻めの姿勢を貫くため会社の近くにアパートを借りたという。
そのアパートに上がらせてもらった。まるで下町の下宿的なアパートの一室である。
いくら、攻めの姿勢といっても、やはり息苦しくなる。そこで福地さんは部屋の中に特別な空間を設けたという。
そして、おもむろに押し入れの扉を開けた…。
そこには、通常押し入れに入れる荷物の代わりに、白熱灯のオレンジ色の灯り、一台のラジカセ、ジャズのCDたちが鎮座してあった。
アルバートアイラーのスピリチュアルユニティのポスターも貼ってあったっけ。
その狭いながらもまるでミニジャズ喫茶のような空間に入り、そして押し入れのドアを閉めると、まさにそこは異空間である。
そこでジャズを聴きながら没頭することが出来るのだ。
あの日、押し入れの中でジャズを聴きながら過ごした時間はかけがえのないものであった。
そして、たとえどんな場所であってもどんな空間であっても感動する場を作ることは出来るのだと教えてもらったような気がした。
やがて大京町喫茶茶会記が誕生し時を重ねながら素晴らしい空間を創造していったのは、周知のことである。
その大京町茶会記も終焉を迎えて、元の形は失われたが、本質を掴んでいれば、たとえ四畳半のような空間であろうが、立派な建物で設備の整った空間であろうが、感動を提供する場を創造することが出来るのだと思う。
まもなく新生茶会記が長野で誕生すると思うが
福地さんはまた、あの時の押し入れの中のジャズ喫茶を創造したように、どこであっても感動を生み出す場を創造してくれるのだと確信している。
…現在、新生茶会記は長野県で茶会記クリフサイドというカフェ併用のスタジオとしてリスタートし、新たな芸術を生み出す拠点になっています。
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