見出し画像

映画「007/ロシアより愛をこめて」とポケモンのロケット団

「ロシアより愛をこめて」って、どんな映画?

今、何かと話題のロシアだが(この国名のせいで無意味な表示が出るかも・・)、昔、ロシアがソ連(ソビエト社会主義共和国連邦)という国だった頃、米ソ対立といって世界が米国を代表する西側諸国(NATO:北大西洋条約機構同盟国)とソ連を代表とする東側諸国(ワルシャワ条約機構加盟国)という東西に分裂していた時代があった。その頃の世界観を背景にして製作されたイギリスのスパイ映画「007シリーズ」の初期代表作が「ロシアより愛をこめて」である。

年代:1963年
分野:スパイ、アクション
撮影:カラー
時間:1時間55分

物語をひとことで言うと
ロシアの諜報部員が亡命希望、というスペクターの計略を007が見破るスパイアクション。

ドクター・ノオ(第1作の悪役)の計画失敗後、悪の組織スペクターは作戦を妨害した007に敵意を燃やす。ロシアの美人諜報部員の亡命という囮作戦を計画、007を誘導し殺害しようとする。007は亡命拠点のイスタンブールで諜報部員と出会い計画を進める。007は現地組織と協力しながら準備を進める中で度々妨害されるが何者かに命を救われる。その後、亡命作戦が無事実施され順調に進むと思われた時に重要な仲間が殺害される。007は諜報部員の罠を疑いつつ、新たに合流した仲間と作戦を進めていくのだが。。

007=ショーン・コネリー

当時購入したサントラ(サウンドトラック版)レコード(EP版)が手元にある。007を演じるショーン・コネリーと、ロシアの諜報部員を演じるダニエラ・ビアンキが写っている。

「ロシアより愛をこめて」サントラレコード盤

007シリーズ数ある中で好きなのはやはりこれだった。もっとも私は、ショーン・コネリーとロジャー・ムーアの主演作以外はほぼ見ていない。近作も見たはずだが、ほとんど内容をおぼえていない。

現代に蘇る過去の時代背景

ロシアより愛をこめて(※)」は米ソ冷戦時代(1945年から始まった)を背景とした作品だが、1991年にソ連が崩壊して東西を隔てた壁(本当に壁があった)がなくなり現在の「ロシア」が誕生した。それが、また突然、まるで図ったように時計が爆速で逆転し始めているのは驚きというしかない。

ソ連は共産主義発祥の地である。対し、米国は自由主義陣営の代表国である。米国は英国の分家であり、本家英国の諜報員が007という立ち位置となる。米ソ冷戦を背景に英国が東西二大国を手玉に取って、漁夫の利を得ようとする流れは現代にも通じそうである。

英国人のイアン・フレミングが原作を世に出したのは1957年。1959年にはキューバで革命が起こり共産主義陣営に入る。その後、1962年には米ソ核戦争寸前まで進みそうになった事件がキューバで起きたという大変な時代。その時代観の中で制作され妙にリアリティがあった。

映画の舞台はロシアではない

「ロシアより愛をこめて」という題だが、ロシア本土ではなく、ロシア国境に近いトルコのイスタンブールが映画の舞台になっている。英国の映画人たちがロシアでロケするなど当然無理なはずで、代わりに登場するのがトルコのロシア領事館という事になる。米ソではなく、英ソが異国の地で互いに駆け引きをするのだが、その後ろにスペクターという、国家組織とは関係ない謎の組織がいるのである。

007には一作目からスペクターが登場し「ロシアより愛をこめて」は映画としては二作目。その後、ずっとシリーズが続くのだが、シリーズの中で最も「それらしいスパイ作品」と思う。

この作品を除くと、007映画には現実感から遊離した荒唐無稽なシチュエーションが目立つ。「ロシアより愛をこめて」には変な科学兵器が出てこないし無謀な前提が無い。第二次世界大戦時の謀略戦の流れを引きずっていて生身の人間同士の対決が軸となっているし、両者の争点(暗号装置の奪取)に現実感があり迫力があるのだ。

なぜか、おじさんキャラが人気だった時代

米ソ対立を世界情勢として理解していた者としては入り込みやすい物語であったし、当時はスパイものの代表映画(これ以外にはほとんど無かった)で私の身近の男子には007が人気だった。007、ジェームズ・ボンドを演じるショーン・コネリーは、いわゆるイケメンではなく、どちらかというとおじさん的なキャラクターだが、この時代に人気があった俳優は、こういう「おじさんタイプ」が多かった。

例えばチャールズ・ブロンソン(※)、スティーブ・マックイーン(※)などであり、同時代にはイケメンのアラン・ドロン(※)という俳優もいたが、男子的には前者の方が人気だった。チャールズ・ブロンソンは、なぜ日本で自分に人気があるのか分からないと言ったという話も伝わっている。彼は日本の化粧品のCMに出演していたのだ。

ショーン・コネリーは前者系である。そして、前者系の007がなぜ、こんなに美女を易々と手に入れるのか、もてるのか、一定の男子に夢を与えたのが人気の背景だったかもしれない。ショーン・コネリーが007から卒業してから演じたブライアン・デ・パルマ監督(※)の「アンタッチャブル」は、彼の魅力が最大限活かされていたと思う。確かに素敵なおじさんであった。

007とペアになる女優は当時「ボンド・ガール」と呼ばれていたのだが、「ロシアより愛をこめて」のダニエラ・ビアンキが最も良いと個人的には思っている。英米系ではなくロシア系女性に見える雰囲気があるし、鉄のカーテンの向こうの女性という神秘さを演じたためかもしれない。実は当人はイタリア人で、英語が話せず声は吹き替えでは?という噂がある。

007のスペクターとポケモンの類似性

007を再度見ている内に、ポケットモンスター(テレビのアニメである)の<ダイヤモンドパール>というシリーズに、悪の組織「ロケット団」というものが登場する事を思い出した。007に出てくるスペクターは一作目の「ドクター・ノオ」から登場。「ロシアより愛をこめて」、「サンダーボール作戦」、「ダイヤモンドは永遠に」は全て007とスペクターとの対決が軸になっているのだが、ロケット団とどこか似ていると思ってしまったのだ。

ロケット団はスペクターのような悪の組織で、ポケットモンスターには一部のチームが常連的に登場する。そのチームは構成員の下っ端である。予算も人材も限られておりチームにはメンバーが3人(ムサシ、コジロウ、にゃーす)しかいない。時々大きな予算がつくのか、妙な科学?兵器を登場させてくる。作戦当初はうまく行くのだが最後は必ず失敗する。

このあたりがスペクターと似ている。 「ドクター・ノオ」 、「ダイヤモンドは永遠に」は特に似ている(この二作も面白いが、私は「ロシアより愛をこめて」、「サンダーボール作戦」の方が好きである)。似たのがポケモンの方だとは思うが両組織には共通課題があり、それは経営者の資質と組織運営力と思うのだ。

スペクター、ロケット団と企業経営との関連性

スペクターはなぜか莫大な予算を持っており作戦も派手。機材・設備だけでなく人材も豊富で凶悪だが優秀な人間が揃っている。計画力は高い。トップは常に愛猫(ペルシャ)と戯れながら部下に無茶振りをし、失敗すれば粛清する。数限りない失敗をしながらも膨大な予算は続く。スペクターには想像を超えたリッチさが何かあるのかもしれない。仕組みで戦うんだと言いながら自分は実務に疎く、出来そうな個人に作戦を丸投げし失敗したら取り換える。そんな無責任経営者を見るようで面白い。

ロケット団は予算が渋く活動単位が小さい。上部組織の指示はほぼ無く、チームがボトムアップ提案を上げる。提案が認められるだけで成功を空想して小躍りする。予算がほぼ無いので組織戦が出来ず白兵戦ばかり展開する。計画というより思いつき。スペクターは外資的でありロケット団は内資的。そうやって比較して見ると面白いかもしれない。

この2つの組織に共通する大きな謎は、彼らは一体どこから活動資金を得ているのか?という点。ポケモンで、この謎が説明されている作品があると面白いのだが、どうなんだろう?

魅力的な悪役も登場

「ロシアより愛をこめて」で印象的なのは悪役を演じるロバート・ショー(※)である。いかにも気味の悪い存在で目の光がとても怪しい。目の前で見たら怖いと思う。ロバート・ショーはそんな役柄に合っている俳優で、私が見ただけでも「わが命つきるとも」で演じたヘンリー八世、「スティング」で演じたギャング、「サブウェイパニック」の犯人、「ジョーズ」の漁師など、いずれも怖い存在だ。どの作品でも目の光が怖い。私は好きである。

ただ「ロシアより愛をこめて」の悪役としては、列車内での場面についてであるが、台詞がやや不自然で、いかにもバレバレのくどい言葉使いをするのが残念。抑えた台詞にした方がもっとリアリティが出たのではないかと思う。

アナログ処理が良い味を出す

物語そのものではないが、007シリーズ初期のタイトルバックも印象的。女性のシルエット上に光で文字を投影していく。このアナログ感が何とも言えない。これをCGで表現したら、きっと雑になる。フォーカスが(意図して)ずれているのが良いし、主題曲ともベストマッチ。こういう情感的な演出って、昔のテレビ番組(例えば「シャボン玉ホリデイ」)の手作り感、ライブ感に近くとても良いと思う。デジタルって、やっぱり空虚。

キャスト、監督、スタッフ、制作会社など

出演:ショーン・コネリー、ダニエラ・ビアンキ、ロバート・ショー
監督:テレンス・ヤング
撮影:テッド・ムーア
音楽:ジョン・バリー
原作:イアン・フレミング

制作会社、配給会社
制作:MGM

※IMDbで詳しく知る Find out more on IMDb.