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現代恐怖映画の源流的な作品「遊星からの物体X」

最近、恐怖映画を見てしまった。ずっと避けていたジョン・カーペンターの作品。ジョン・カーペンターといえば「ハロウィン」で、イメージ的に私が最も避けたいジャンル。なぜ見てしまったのだろうか。。

「遊星からの物体X」って、どんな映画?

年代:1982年
分野:SF系恐怖映画
撮影:カラー
時間:1時間49分

物語をひとことで言うと
南極に現れた地球外生命体が人類全てを飲み込む勢いで増殖していく話。

南極の観測基地に異変が起こる。ノルウェーの隊員が発狂したように犬を追いかけアメリカ隊の基地に侵入。いったん騒動は収まり、原因を突き止めるべく訪れたノルウェイ隊の基地から謎の映像が発見される。やがて通信が途切れ孤立したアメリカ隊の基地に、それ「The Thing」(※)が徐々に浸透し始める。

映研的プレッシャーに追い詰められる

映画研究会という組織は、どこでもそうなのかは分からないが、少なくとも私が所属していた会では、自分の推薦作を押しつける場であった。

「君はこれを見なさい」「なぜ見ないのか?」「見方が偏っている」
「視野が狭い」「これすごいよ」「まだ見てないのね。どうして?」
「いつ見るの?」「**座でやってるよ」・・

先輩や同輩、後輩からの同調圧力は現在のマスク圧力を超えていた。
そんな映研的世界から離れ平和な日常を謳歌していたのだが、最近久々に先輩と会う機会があり偶然この作品の話題となった。

当然私は見ていない。先輩ともう一人が、この映画の話題で盛り上がる中、気配を消していた私に追求の手が伸びた。

同じ映研で過ごした仲とはいえ、いまや全く異なる立場にいる間柄。圧力を受けてもかわすことは可能なはず。しかし、気持ち良く語る先輩が「見てないの?」と軽く突いただけで私のバリアは簡単に崩壊。「次回までに見ておきます」と約束してしまった。

先輩がほめている作品を見ないのは映研的には決して許されない。

鑑賞への短い道のりと結果

いつ今度会うか分からない。自粛の影響で2年以上ぶりにお会いしたのが今回。約束したからと言って守る義務もない。しかし、先輩は妙に記憶が良い。次回、絶対に確認してくるはず。

それ(原題が:The Thing;その物体)はコアでニッチだから見つからないだろう。見つかっても自分が契約しているサービスにはきっとないはず。と試しに検索したら簡単に出た。しかも無料対象。何のハードルも無かった。

嫌々(など無く積極的に)見た結果だが、さすが私が最も頼りにしていた先輩が言うだけのことはあって予想外の収穫だった。これは、現代恐怖映画の源流的な作品と確信した。すべての要素が詰まっている。でも、やっぱり怖いし気持ち悪い。私は恐怖映画は嫌いなのだ。

後に知ったのだが、この作品は1951年に制作された映画のリメークだそうで、恐怖の源流はオリジナル作(※)にありそう。これも見なくてはいけないのだろうか。ああ、恐怖のデフレスパイラルが。。

恐怖映画の要素と共通プロット

この作品は、地球外生命体や悪魔的なものが登場する恐怖映画の基本要素をいくつも持っている。共通的なプロットを含めると次となる。

1)一般人の生活空間と遠く離れた場所に謎が隠されている
2)科学者や特殊な立場の人の不用意な行動が寝た子を起こす
3)2)によって世に出た何かが人に寄生したり増殖する
4)何かが人間へ及ぼす害のレベルが短期間に拡大する
5)人類破滅につながりそうな恐怖感が膨らむ
6)真の正体が分からない

1982年の作品なのだが、1951年のオリジナル作と、それが影響を与えたかもしれない現代の恐怖系フラッグシップ作品からも強く影響を受けた作品と思われる。つまり恐怖要素が相互作用で膨らんでいる。

例えば「エクソシスト」は1)から4)と6)に該当し、「エイリアン」は1)から5)に該当する。これらの要素は最近の感染症とも類似性がある。人が何に恐怖をおぼえるのかという心理的な攻撃性が隠れている。正体が分からないというのが一番怖い。

一般社会では決して見ない気味の悪い造形や人に与える害の深刻さも怖い。作り事だとは思っても、リアルな演出で脳味噌の真ん中に心理学的な楔(くさび)を打たれる気がする。

正体不明、解決策が見えない恐怖

こういう映画をエンターテインメントとして気楽に見られるほど私の脳は耐性が強くない。悲劇的な進行はあるにしても、救いは、最後に解決策が待っているはずという淡い期待感。

そこに至るまでの道のりを、短く感じるか、長く感じるかは、きっと人それぞれだと思う。解決しても恐怖の記憶は残る。上映時間が2時間程度というのが私には限界。3時間も続いたら。。

そして、この「遊星からの物体X」には解決らしき落ちがない。これで終わっちゃうの?という心細さだけが残る。また出てきそうな感じ満々なのだ。南極だけではなく私の心の中にも。。

今後の展望について

次回、先輩にお会いするとき、「いや、良かったです」と報告すると、もっと怖い作品を推薦されるかも知れない。どう報告すれば新たな恐怖から逃れられるかが検討すべき課題だ。

恐怖の定義を拡大し、即物的ではなく、実体的ではなく、心理的な恐怖感を扱った作品に話を振るのが良いかもしれない。例えば「サイコ」(※)。
でも、こんな作品は映研では誰でも見ている。もっと別の何かが。。

いっその事、日本人の原点的恐怖感を総合したような、きっと誰も見ていなさそうな古い邦画の話題を持ち出してみるか。たとえば「東海道お化け道中」。下はオフィシャルトレーラー(大元は大映、現在は角川大映)。

本当に怖いのは悪魔、妖怪、幽霊、魔物、感染ではなく悪いことを考える人間で、こういう恐怖映画や異常現象の流行はガス抜きとか逸らしなんです。というような無理な筋立てで。

キャスト、監督、スタッフ、制作会社など

キャスト
出演:カート・ラッセル(※)、ウイルフォード・ブリムリー(※)、キース・デイヴィッド(※)

監督、スタッフ
監督:ジョン・カーペンター(※)
音楽:エンニオ・モリコーネ(※)(「ゴッドファーザー」の)
配給:ユニバーサル

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