あの日以前を描いた映画「フラガール」
「フラガール」って、どんな映画?
映画「フラガール(※)」の舞台は「常磐ハワイアンセンター」。だから登場人物のモデルは現在の「スパリゾート・ハワイアンズ」のフラガールたちよりずっと上の世代、前の施設名の世代になる。
映画は「常磐ハワイアンセンター」開業当時の様子を描くが、コマーシャルムービー的ではなく、経済的に追い詰められた企業が起死回生を狙って町おこしを進める人間ドラマとなっている。実在企業と施設を背景にしたフィクションドラマだ。
年代:2006年
分野:地域おこし系人間ドラマ
撮影:カラー
時間:2時間
物語をひとことで言うと
閉鎖を控えた炭鉱会社が温泉施設開業で起死回生を狙う。売り物としてフラダンスのショーを計画。ダンサー志望の地元女子は夢を追うが、住民との軋轢が深まっていく。
今から約60年前の1960年代、エネルギーの主役が石炭から石油に変わり、石炭を産出する炭鉱は経営危機を迎えていた。
常磐炭鉱は従業員の解雇など整理を進めるが同時に起死回生策も進めていた。炭鉱開発で出た温泉を活用したハワイアンセンターの開業を計画したのである。
センターの呼び物としてフラダンスのダンサーを地元で募集。東京からダンスの指導者を呼ぶ。ダンサー志望者の親たちは、炭鉱を潰す施設として一斉に反発。親の反対を押し切って応募した女子たちだが舞踏経験が無く、指導者も音を上げ両者は対立。
1966年の施設オープンが迫るが地域住民の協力は進まない。そんな中で炭鉱事故の発生なども起こり先行きに暗雲が漂う。会社とダンサー候補生たちはどうやって危機を乗り越え開業の日を迎えるのだろうか?
フラガールの聖地訪問と映画との出会い
本物のフラガールのパフォーマンスを「スパリゾート・ハワイアンズ」で観る機会があった。今となっては遥か前、311以前の2006年。
私は映画「フラガール」というものの存在というか企画が進んでいる事を知らなかったのだが、偶然にも映画制作中と思われる2006年2月に現地を訪れていた。「フラガール」は2006年9月公開なので、この頃に現地撮影もしていたかもしれない。
訪問後も、そんな映画がある事すら暫く気付かなかった。後にハワイアンズのダンサーを描いた映画があるという噂を聞いた程度。311発生から遥かに時を経たごく最近、自粛生活で見る機会が増えたアマプラで目にとまった。
次々に襲う悲劇を乗り越えるハワイアンズ
311をやっと乗り越えた、いや、とても昔のようには行っていない状態で頑張っていたのではないかと思える中、またもや世界的災難の影響を受ける。
今のフラガールたちはどんな思いで暮らしているのだろうか。映画「フラガール」では施設オープン前にバスキャラバンを行う様子が描かれているのだが、自粛期間中や最近では、県民割での集客、昨年は「全国きずなキャラバン2021」というのを実施し頑張っていた。今度こそ、という状況と思う。
昨年末にはこんなアニメも。
「フラガール」に見る女子パワー
映画では夢を追う女子たちの活躍と苦悩が描かれている。どんな変化の中でも、どんな苦しみがあっても、夢を持ち続けている女は理屈抜きに強いなあと思う。炭鉱が無くなるとか、親が反対しているとか、周囲の目がどうかとか、そんな事は女子たちの夢の前には全く意味をなさない。苦しくても夢だけを見てまっすぐ歩いて行く。
現実が夢を破壊したとしても、夢があった時期の記憶で生きていく。その記憶が形になって主人公に送られてくる。この場面が印象的。町を去る女子もいるのだが、行き先での困難が想像できるため気になる。
母としてではなく、女としての強さも
主人公(高校生)の母親はシングルマザー、子供(男)と二人で炭鉱で働き家族を支える。主人公にちゃんとした教育を受けさせ、確かな職について欲しいという希望を持っている。そんな子供が敵の立場に行ってしまうばかりか、「ちゃんとした職業ではない」と思うダンサーを目指す事に徹底的に抵抗する。
しかし、主人公の生き様を見る内に、自分が遥か昔に捨てた、ふつうの女の子の考え方に共感を始める。周囲の炭鉱夫たちは母親の変化を理解できないのだが、いったん目覚めたら突き進む女の強さが描かれている。男たちが理屈とプライド、過去の経験に縛られている姿と好対照である。
構造改革の黒歴史に思うこと
冒頭、常磐炭鉱の会社側と従業員側の団体交渉の場面。構造改革という薄っぺらな掛け声によって消える企業、そこで今までの日本を支えてきた従業員の最後のあがきが描かれる。改革は常に庶民を踏み台にし、権力者が新たな利権に乗り移る道具という現実が透ける。
そして今、埋蔵量が豊富な石油も、石炭と同じように主役の座から降りようとしている。もし世界が再び一斉に構造的に変わるのなら、昔の従業員とは違って今の社員はきっと黙って消える。三密回避は団結力と意見交換の場を弱体化。構造改革を繰り返す中、資源を持たない国、そこに住む人はどんどんひ弱になる。歴史は同じ経緯を繰り返していく。
次は、どんな夢を次代につないで行けるだろうか?
キャスト、監督、スタッフ、制作会社など
キャスト
出演:松雪泰子、蒼井優、徳永えり、岸部一徳、豊川悦司、山崎静代、富司純子
監督、スタッフ
監督:李相日
制作会社、配給会社
制作:シネカノン
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