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『傷物語 -こよみヴァンプ-』 感想

※この記事は映画『傷物語 -こよみヴァンプ-』のネタバレを含みます。一応、未視聴の方にも楽しんでいただける読み物を目指してはいますが、これから観に行く予定のある方や、ネタバレを踏みたくないよーという方はブラウザバックすることをオススメします。





           余 白





01

 体にも、心にも、傷のない人間はいない。もしもいるとしたら、そいつはきっと「化物」なんだろう。


 僕がまだ中学生だった頃、親が図書館から借りてきてくれた「化物語」は驚くほど赤かった。それこそ血と見紛うほどに。装丁も何もないこの本の見た目(後にカバー下であることを知ったが)にも、見たことのない二段作りの内装にも怯えながら恐る恐るページをめくった。
 それからはあっという間だった。
 傷物語を読み、偽物語を見て、歌物語を聴いた。セカンドシーズンを、ファイナルシーズンを、オフシーズンを、何度も何度も借りて読んだ。主題歌を覚えたくて破いたノートに歌詞を書き写し、登下校中はずっとそいつとにらめっこしていた。モンスターシーズンからは自分で買うためにわざわざ雨の中、本屋まで自転車を走らせたことも今となってはいい思い出だ。

 振り返ればそれなりに恥ずかしいこともやってきた。よりにもよって忍野扇に憧れてしまい、学生服の袖を過剰に余らせたり飄々とした変な後輩になろうと努めていたこともある。わざと難しい言い回しを使いたくて今か今かと機会を伺っていたし、その割に間違った場面で使って場を凍らせたこともある。のらりくらりとした表現の使いすぎで何も伝わらず喧嘩になったこともある。
 まさしく、僕の青春。
 赤く膿んだ傷。黒く乾いた傷。
 そう呼ぶのがふさわしいだろう。
 そんな僕の中高時代を支えた、物語シリーズの原点ともいうべき「鉄血にして熱血にして冷血の物語」が再び劇場に甦るともあれば、これは一ファンとして観に行かない選択肢はないだろう!……ということで行ってきました。


02

 高校生最後の春休み、阿良々木暦が出遭ったのは瀕死の"吸血鬼"であった。彼女を助けた阿良々木は吸血鬼から人間へ戻るため、三人のヴァンパイアハンターと戦うことになる。地獄のような春休みが今、幕を開ける!

 『傷物語 -こよみヴァンプ-』あらすじ


 今回観たのは西尾維新原作小説「物語シリーズ」の第二弾「傷物語」を再映画化した『傷物語 -こよみヴァンプ-』。二〇一六年に公開された「傷物語 鉄血篇Ⅰ」「熱血篇Ⅱ」「冷血篇Ⅲ」の三部作に加え新たに収録、撮影、編集して一篇にまとめたもの。三本の映画を合体させたものなので、当たり前のように上映時間が二時間三十分以上ある。クリストファー・ノーランかよ。さすがにお尻が痛くなるだろ…。十三,四年前に始まったこのシリーズを追いかけ続けているファンの方々のお尻の無事を願うばかりである。もちろんご新規さんのお尻もだぜ!


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03

 今回最寄りの映画館では上映しないとのことだったので致し方なく市内の劇場まで足を運ぶことに。移動賃だけでも学生身分にはかなり手痛い出費なので、誰か助けてほしい。もっとも、人は勝手に助かるだけなのだが。

 映画を観ているときの僕はこんな記事を書くことになるとは微塵も思ってなかったので当然写真はないですが、バカデカいポップコーンとバカデカいコーラを買って入場してます。こいつ、数年ぶりの映像作品に思ったよりウキウキだな……。
 公開初日でしたが、平日の昼ということも相まってか座席はちらほらとしか埋まっておらず、これから長時間拘束される訳だし、寿司詰めは避けたいなぁと思っていたので、むしろ居心地はよかったです。翌日に声優を呼んでの特別上映?みたいなものをやる予定だったそうで、大方そっちに吸われたというところでしょうか。僕としてはありがたい限りです。

 ところでポップコーンって、今でこそ映画を観るときの食べ物の代表格みたいな顔してるし、それなりに市民権も得ているけれども、だからこそ言わせてほしいのだが、そこまで映画用の食べ物でもないと思いませんか?
 僕は塩かキャラメルかと言われればキャラメル派だけれど、当然いずれにせよ噛めばザクザクと音は鳴るし、つまむときでさえ騒がしい部類にカテゴライズされるであろうこの食べ物が、とても映画鑑賞において優れた食品であるとは思えないんだよな。ましてや映画館の横で売るなんてどうかしてるだろ。爆発シーンや殺陣なんかの大きな音が鳴る場面に合わせて急いで食べている人も多いだろうし。そう考えると皆々様の苦労、お心遣い、痛み入ります。僕が快適に映画を楽しめているのも、そういった配慮があってのことです。道徳の授業は決して無駄ではなかったんだ!
 しかしこれ、映画館側の怠慢とも言えるのではないか?チュロスやポップコーンにかまけて、よりよいものを追求し続ける姿勢を捨ててしまっていないかな?
 そこでこの僕から提案させてほしい。何をって、そりゃあグミだよ。
 考えてもみてほしい、顎を動かすことによる集中力の向上、ポップコーンよりも手は汚れにくく、味のバリエーションだって豊富。咀嚼音も気にならないし、歯と歯の隙間に挟まってモヤモヤすることもない!完全勝利とまではいかないにしても、なかなかいいところまでいけそうじゃないか?
 おお、また一つ偉大な発明をしてしまった…。そろそろ真剣に特許について勉強した方がいいな。東京特許許可局東京特許許可局東京特許許可局、っと……。

 なんてことを考えていると、映画が始まった。


05

 弐時間参拾分、早~~~~い……………………。
 失礼、感動しすぎて思わずシャフトのように。

 感想。
 分かりやすく、ざっくばらんに、恐れず、堂々と、端的に、簡潔に、単刀直入に言うと。
 百点。
 完全無欠であり、天衣無縫。
 なんなら百二十点。
 原作の流れはもちろん起承転結、キャラクター同士の掛け合いの始まりから終わりまで覚えているのにいつの間にか前のめりで見てる自分がいた。知っていてなお、ハラハラドキドキの連続。ここまで手に汗握らされるとは思ってなかったので本当に観に行ってよかった。

 好きなシーンの話をしよう。
 「人間強度が下がるから」という理由で親しい友人を作ってこなかった主人公・阿良々木暦。映画の冒頭、ひょんなことから学年一の秀才・羽川翼と連絡先を交換し友達になる。本人の前では嫌がる素振りを見せてたものの、やはりどこか嬉しくて、家路につく足取りは徐々に軽くなっていく。意味もなく学生鞄を投げてみたり、鼻歌を口ずさんでみたり。阿良々木暦の「人間臭さ」が存分に表れたすごく好きなシーンだ。この描写によって直後の化物の特異性がより一層際立ってると思う。
 もう一つ。暦やメメの活躍の甲斐あって無事四肢を取り戻すことができたキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード。そんな暦を高く評価し吸血鬼として自身と共に生き続けることを提案するキスショットと、人間に戻りたい暦。対立した二人が互いの命をかけた戦いを始める直前の掛け合い。

 「死んでくれ、我が主人!」
 「死ぬがよい、我が従僕!」

 いや〜〜カッコいい……。カッコよすぎるだろ…………。
 このシーンは声優さんの鬼気迫る演技も相まって作中でもトップクラスに印象深いシーンに仕上がっていて、ここが一番好き!って人も少なくないと思う。かくいう僕も大好きです。


 そもそも今回、三部作にも渡る膨大なスケールと尺の前作を再編集で二時間半にまとめる、ということで一体どうするのか不思議でならなかった。が、なに、分かってしまえばそんなこと、キャラクター同士の漫才の大半をカットすればよかったのだ。
 「西尾維新」の名前を聞いて、言葉遊びを思い浮かべる方も少なくないだろう。まさしくその分野こそが彼の持つ最大出力であり、最も活き活きできる場所だと僕なんかは勝手に思っている。思わず感心してしまうものから、よく出版できたなと呆れてしまうものまで、日本語の、いや、もはや言語の宝庫。西尾維新に雑談をやらせれば右に出るものはいない。そんな完成度の高い言葉遊びを本作は大胆にも削ったのだ。
 正気か!?と思うだろう。正直僕も思った。言ってしまえばこれは持ち味を殺す行為になりかねない。吸血鬼が太陽の下へ踊り出るような、トラックの行き交う赤信号へ身を投げるような、そんな自殺行為と言える。だが結果的に、僕はこれを英断と認めざるを得ない。なぜならこの映画は「傷物語」である前に、「阿良々木暦が人間に戻る物語」であるからだ。


06

 小説版や三部作版では前述したようなファン垂涎の軽快で軽薄な掛け合いが120%楽しめる。
 しかし、僕のような慣れ親しんできた生粋のファンは楽しめても、初めて西尾維新に触れる方には不要であったり、冗長と捉えられるかもしれない。確かに本作、やたらと「始まりの物語」だの「すべての原点」だの、シリーズに初めて触れる人に向けてそうなPRも多く見受けられた気がするし、例えば僕が友達から「物語シリーズを見てみようと思うんだけど」と持ちかけられたら傷物語から見ることを勧めるかもしれない。そういう意味では今回の『傷物語 -こよみヴァンプ-』は西尾維新初心者向け作品と言えるだろう。

 また、再編集するにあたって作品のゴールを明確にしたことも高評価だ。結局やりたいこと、書きたいことは「阿良々木暦が吸血鬼から人間に戻る」なのであって、羽川のおっぱいを揉んだり(揉みませんが…)、忍野メメが実はキスショットの心臓を抜き取っていたり、羽川と愉快な言葉遊びをしたり、羽川のおっぱいを揉んだり(揉んだのは肩だけれども……)、羽川にスカートをたくし上げさせたり、羽川の目の前でメアドを消したり、体育倉庫で羽川のノーブラおっぱいをモミモミする(なけなしの僕の沽券のために言っておくと、原文抜粋だ!)シーンなど、人間に戻る物語においては不必要なのだ。
 そういうのは青春でやればいいのだから。


07

 劇場で物語シリーズの熱に当てられ、すっかり浮かれてしまった僕は明らかに余計なものまで買ってしまった。ので、ここではその供養をさせていただく。これで仮に一生使うことがなかったとしても「あのときnoteに書くネタになったしな……」と思えるからな!


 其ノ壹

パンフレット
映画二次会みたいなとこある

 鑑賞した映画が気に入った場合、パンフレットを買います。特に変わったところはない。
 それ自体は至極一般的で、とても普遍的なことだ。
 内容に触れようかとも思いましたが、結構ちゃんとネタバレなのでやめました。君の目でたしかみてくれ!



 其ノ貳

 オタクこういうグッズ買いがち
かなしき生き物

 扇風機やエアコンなんて便利なものが台頭してきた現代において、扇子を使うことなんてまぁないじゃないですか。でもこれ買っちゃったんですよ、3000円で。
 僕の場合、使う機会が少ないアイテムとそれなりにおっきなお金を天秤にかけたとき、何としても使う機会を見出してちまちま使っていく方向性が勝ちやすい傾向にあります。しかし執筆時点での季節は冬、今のところ4回しか拡げていません。ハチャメチャに大損である。
 扇子を買ってしまったことによって僕の生活が破壊されつつあります。せめて今年の夏、扇子が使える程度に暑くあってほしいな……。



 其ノ參

歌物語 2
マジで映画とは関係ない

 これは本当に映画とは関係ないんですが、上映後にふらっと立ち寄ったCDショップに売ってあって、気がついたら買ってました(三部作版 傷物語のOPムービーが収録されているので、完全に関係がないとは言い切れないですが…)。
 これも3000円くらいです。こっちは扇子と違って季節問わず使えるグッズなのであんま気にならないですね。扇子より先に買うべきグッズがあったような気がしてきましたが気づかないふりをしていこうと思います。 
 余談ですが歌物語 2の中だと「夕立方程式」が一番好きです。老倉のこと嫌いな人とかいるんですかね?その答え、僕は知りませんけど。あなたが知ってるんです。


08

 後日談というか、今回のオチ。
 あの後、もったいないと言わんばかりにCDを聴き返したり、久しい供給を噛み締めながら余韻に浸ったり、阿良々木くんに憧れて人生で何度目かの筋トレに挑んでみたり、意味もなく扇をパタパタとさせていたら、物語シリーズの続編のアニメ化が決まってひっくり返ったりしていた。オフシーズンとか特にアニメ化できないと思ってた……。愚物語と撫物語が特に好きなので今から楽しみです。ひとまず、おめでとう。どうやらこのコンテンツ、まだまだ応援させてくれるらしい。ファン冥利に尽きるってものです。

 肉体的にも精神的にも、傷のない人間はいないだろう。多かれ少なかれ、老いていようが若かろうが、事情だとか状況だとか、そんなことはお構いなしに日々は斬りかかってくる。擦りむいたり、ぶつかったりしながらも、生きていく。生きていくしかない。
 傷が減ることはない、増える一方だ。だが、癒えることはある。触っても痛くなくなる日は、きっと来る。思い出に痛覚があるのは苦い記憶を反芻するためなんだと思う。

 阿良々木暦の「傷物語」があるように、今日を生きる全ての人にも「傷物語」がある。それがいつか笑いながら、誰かに語って聞かせられるような「古傷物語」になることを、僕は心から祈っている。



あとがき

 背中の傷は剣士の恥、なんて言葉がありますけども、剣士でなくたってそんなものは恥ずかしいだろうし、というか剣士でなければどこの傷だって恥ずかしく感じそうなものでして、20年と少し生きているだけですでに体中が傷まみれの僕なんかは、もういっそ剣士になることでせめて背中以外の傷を名誉で覆い隠すしかないのかなー、なんて思うわけです。
 本稿はかの西尾維新先生に強い影響を受けた人間が執筆したものです。ちっとも面白くないこの記事を少しだけ面白くするスパイスがこの世にあるとすれば、それはきっと先生の著書のみでしょう。ノブのない不親切で不格好な軋んだドアではありますが、この記事が物語シリーズ、ひいては西尾維新世界へ興味を持たれた皆様にとっての架け橋になれれば、それ以上に嬉しいことはありません。何百、何千と言葉を並べて伝えたかったことなんて、実はたったそれだけかもしれません。国語のテストなら抜き出すところはおそらくここでしょう。
 また、このような稚拙な記事に仕上がってしまったこと、この場をお借りして先生本人、並びに多くのファンの方々にお詫び申し上げます。
 いささか厚かましいですが、最後の最後まで先生になぞらえるとするなら「100%ファンに書かれた記事」ってところですかね?ではまた次回の記事でお会いしましょう。

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