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SWARRRM - 『ゆめをみたの』 インタビューとその考察(text by 冬のしじま)

前書き

SWARRRMの2021年アルバム『ゆめをみたの』がリリースされ、リリース後すぐに手にとって聴いてくれた方からの感想が続々届いていて嬉しく思います。僕自身、このアルバムは多面性を持っていて、1つの軸だけでは語り切れるものじゃない。受け取る人によってその感じ方は違うはず、と思っていました。まさにアルバム1曲目「答えが」の歌詞「誰かの決めた答えが欲しいか」という言葉が表すとおり、ネットで検索してひっかかる情報だけで何か答えを導き出すようなもんじゃない。アートっていうのはそういうもので、視点を変えれば別の何かが見えてくる。このアルバムにはそんな要素がめちゃくちゃ詰まっている。というわけで、リリース元の僕がインタビューして何か"答え"のようなものを出してしまうより、別の誰かが考察してくれた面白いのではないかと思って、life-4というブログを書いている冬のしじま君にインタビューとテキストをお願いしてみました。

そうです。今回のインタビューは3LAの水谷ではなく、冬のしじま氏によるインタビューと、SWARRRM、そして『ゆめをみたの』というアルバムに対しての考察。さらに言うと、このテキストはバンド側と答えあわせするようなことはしていません。最後の答えはそれぞれがひねり出すものだと。僕はそこにこそ意味があると思っています。それではどうぞお楽しみください。
... 前書き by Akihito Mizutani (3LA -LongLegsLongArms Records- )

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序文

2021年2月26日に3年弱ぶりに新作アルバム「ゆめをみたの」をリリースするSWARRRM。ありがたいことに今回インタビューの機会を頂き、バンドの声を直接聞くことができました。このような状況なのでメールでのインタビューになり、即時の応答というのができないため、新作を聴いて思ったことを私が書き、合間合間に浮かんだ疑問にバンド側に答えてもらう。そのうえで回答を筆者が読み込んだ上で追加の考察をする、という形になりました。
寡黙で、また音源ごとに印象がガラリと変わるバンドなので、このインタビューが新作を聴く上でリスナーのさらなる楽しみになれば幸いです。

エクストリーム・ミュージックの追求

今作を聞いてまずそのメロディと歌がさらにその力を増しているなと感じた。ボーカルが哀愁のある明快なメロディを歌い上げるやり方だ。今回は歌唱法のバリエーションが増えていることもあって、どうしてもそこに引っ張られてしまう。ところが過去作を何回か聞いた上で、今作を聞き直してみるとまた印象が異なることに驚く。今作、演奏が非常に力強い。歌、ボーカルに全く負けていない。

近作、特に前作からの揺り戻しがある。前作ではギターの音から歪が徹底的に排除されて軽くなっていた。演奏面でも音を活かすためにコード感を生かしたシンプルかつ軽いものへ。ところが今作では、あら仕様のようなブラストビートに乗ったギターにはハードコアらしい重たさが復帰しており、また演奏も複雑になっている。

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方向性は、「良い曲を作る」の一点

Q:
『FLOWER』は難産、『こわれはじめる』はそこからそれでも4年経っています。前作のあと2018年末ごろには大阪のassembrageとのスプリットが発売され、そこには今作を象徴する冒頭の曲「見えない場所であろうと」が収録されていますね。
今作は前作から3年とスパンは更に短くなりました。曲作りに命をかけているバンドだと思っていますが、今作に関しては割と早い段階で方向性が決まっていたのでしょうか?

KAPO:
今作の方向性は、「良い曲を作る」の一点です。
激しいとか軽いとか新しいとか一切かまわず、良い曲をつくりたいという思いで作りました。このバンドの残りの時間はこの一点のみに集中していくことになるはずです。

TSUKASA:
毎回になりますが、アルバムのレコーディングが終わる時点で、新しい曲が4、5曲あります。カポさんとのやり取りがスムーズになってきたのもありますし、『こわれはじめる』まではレコーディング時に作り上げていくことも多々ありましたが、今回は曲をレコーディング前にある程度練り上げることが出来てきたと思います。今回も、すでにある新しい曲は良い出来だと思いますし、次が楽しみでなりません。

Q:
今作ではアルバム全体、各曲で緩急が付きました。ギターの音を軽くし、歌を全面に押し出すことが前作までのカオスなら、今作ではこのカオスの段階をまた一つ上げたのかと思っています。ギターの音の重たさ、それからTSUKASAさんのウィスパーなどを取り入れた多彩な歌唱法、これらを使い分けることで単に曲展開以上の緩急がついている、それが今作に対する印象です。
もともと「曲中に必ずブラストビートを用いる」というポリシーはそもそもブラスト一辺倒のバンドではないと自らステートメントしている。その上でバンドの初期の音源からその楽曲はとても凝っていました。だから今作、前述の表現方法の幅を手に入れてさらにこの曲のクオリティを緩急によってあげてきています。
その上で、、、前作発売後、SNSなどで歌を強めることで「歌謡」というワードでの形容が生まれていました。名付けやすい、というのはキャッチーなことだと思います。前作、前々作はを前面にそして中心に据える中でわかりやすいアルバムになったのかなと思いました。一方で今作は複雑です。この変化は意図的だと思いますが、そもそもどういう意図で生まれたのでしょうか?例えばキャッチーさに対する反動のようなもの、揺り戻しのようなものはあったのでしょうか?

KAPO:
無いですね。ヘヴィなロックに対する憧れや思い入れは個人的にあまりありません。もちろん義務感も。一時期までの我々は究極で最新型のうるさくえげつないロックの創造に集中していました。ご存じのように少しづつ表現の幅を広げてきました。しかし過去に習得したアレンジ技術をすべて手放すつもりはありません。我々の能力を全開にして創作した結果です。

TSUKASA:
以前のものでも今作でも、どのような表現をしたとしても歌謡曲を歌おうとか、何か意図して作ろうと思っていません。反動や揺り戻しも感じでないです。

Q:
逆の視点で言えば、ヘヴィなギターを再投入することでメタル/ハードコアのダイナミクスを今一度手に入れたということもできます。
今作ではよくある勢いの衰えた大御所メタルバンドの「原点回帰」(個人的にインタビューなどでこのワードがあると危険と思っています。)とは全く違い、明らかに前作、全前作の流れの延長線上にあります。
なぜ、ヘヴィ一辺倒のサウンドにはしなかったのでしょうか?

KAPO:
趣味嗜好の問題ですね。

Q:
今作ではギターの音を重たくしたがゆえに表現の幅が広がっています。またヘヴィさを取り戻す選択に抵抗はありましたか?

KAPO:
ヘヴィにしたという意識も狙いもないです。良い曲を作るための必要なアレンジのひとつとしか考えてません。

Q:
ベーシストがfutoshiさんからhitotsuiさんに変更されていますね。メンバーが変わったことが今作の音作りに影響を与えているということはありますか?

KAPO:
聞いていただいた通りさほどの変化はありません。
メンバーだから気づく事ですが横ノリが得意な前任者から縦ノリが得意な現職者になった。グルーヴが薄くなった分正確さが増したというのが僕の感想です。

TSUKASA:
人が変われば、色々変わるよね。あたりまえだけど。今も昔もいいものはいいと感じて、前に進めていると思います。

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冒頭「答えが」で明らかに前作になれた耳と脳をぶっ壊しにかかってきている。よろしいか、これは前作の路線を誤りとして作戦を変えてきたのではない。むしろ前作を踏まえて、また一回全部バンドを解体、そこから改めて武器を選び戦略を変えたのだ。その証拠に歌の力強さは増している。

近年のパワーバイオレンスが強いのは速さを遅さで引き立てることができるからだ。つまり速度を落とすことで速くなれる。常に速ければそれは普通になってしまう。

Swarrmは過激なバンドだ。Garadamaとのスプリットあたりから歌に可能性を見出し、それを磨いてきた。「こわれはじめる」はそんな歌を中心に据え、楽曲があえて引いたイメージだ。これでこのバンドは完成したんだ!!!前作を聞いた私は拳を握って快哉した。

しかし、バンドはもちろんそんなふうには思わなかった。歌を極めた。そして今となってはそれを武器として道具として利用できる。どうしたら歌が更に映えるか?どうしたらもっとグラインドコアの表現に挑戦できるか?演奏にハードコアのパワーを再充填しようと。そうすれば速さだけではなく、ギターの音も緩急として利用できる。

「答えが」でもそうだし、他の曲でも前作から引き継いた音の軽いギターが曲中で何度も使用されている。これは前作がなかったらできない表現だ。
前作を焼き直すのではなく、職人が包丁を食材に合わせて持ち替えるようにその表現を適所で使い分けている。軽さを入れることで、重たくなれるのだ。

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Q:
選択肢が多いと全部のせで結果ごちゃごちゃしてわけがわからなくなってしまいますが、このアルバムは良い感じに引き算が働いて聞きやすいです。バランス感覚というか。意識したことはありますか?

KAPO:
バランス感覚ほ結成当初より特に注意してきました。
それはバランスの良さというよりあえて悪い箇所を意図的に作るということに。近作にも存在しますが少なくなってます。屈折したアレンジやアンバランスなアンサンブルに個人的にとても興奮します。これを強く意識するところが他のバンドとは違うところかもしれません。せっかくシンプルにいい曲ができた場合でも あえてゴチャゴチャにしないと気が済まない。

Q:
今作ではギターソロ(「見えない場所であろうと」)、口笛(「あの歌を)、コーラス(「みたされて」)など、ハードコアバンドとしては通常あまり採用しない、下手をすると奇をてらった飛び道具てきな技工が随所に埋め込まれていて、そしてそれがベストなかたちで曲にハマっています。
これにはそもそもヘヴィさのお手本から逸脱・脱却した曲構成(=カオス)がその離れ業を成立させているのだと思います。とはいえ、ともすると批判される可能性があるこれらの要素を入れることに抵抗はありませんでしたか?

KAPO:
自分たち的にはとっくにヘヴィなロック、ハードコアのルールに興味無くしてますので、特別な意識なくいい曲に仕上げる為の必要なアレンジとしか考えてません。

TSUKASA:
人はそれぞれ。批判もあるはず。曲が良くなるためであれば、使わない選択肢はない。SWARRRM自体が、ぶれなければいい。

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仏教では魔境という概念があって、これは誤った悟りのことだ。
坐禅中にブッダが現れたらそれは悟りではなく魔境なので、これを刺せという。前作を聞いて思った「軽くなるということがエクストリームなのだ」という概念を、これを魔境としてあっさり捨てた。

カオス

SWARRRMが標榜する「Chaos&Grind」。これは厳格なルールであり、高みに到達するための足がかりでもある。Grindに関してはブラストビートを必ず曲中で使用するという縛りとして語られるが、一方もうひとつのChaosに言及されることがあまりない。

あまり聞かなくなったがカオテッィク・ハードコアというジャンルでSWARRRMが語られることもあった。目まぐるしい曲展開、発声方を使い分けるボーカル。たしかにSWARRRMも当てはまるが、単にそこにとどまらないくらいバンドは挑戦を続けてきた。TSUKASAという稀有なボーカリストをメンバーに加え、叫びながら歌うというやり方で持って歌を中心に持ってくるグラインドコア、というのが『Black Bong』以降のカオスの少なくとも1つだったと思う。

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Q:
Chaos&GrindのChaosについては今まであまり語られることがなかったと思います。ずばりChaosに対してはどのような意識や意図を持っていますか?

KAPO:
アンバランスさ、演奏の崩壊具合、不協和音、大胆で理論的に間違ったアレンジ、リズムを外す又は捉えられない状態。これらの瞬間に一番興奮するからです。

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今作ではどうか。
2極化だ。
前作で極化した状況を揺り戻したのは決して単なる原点回帰や評判を気にしての反動ではない。1曲の中で、叫び:歌という2つの極端を、それに加えてクリーン(軽さ):歪(重たさ)という極端を同時に存在させている、という状況がカオスなのだ。エッジが効いているから両極端のもう一方が映えるのだ。これはやるのは難しい。
例えば、ゴリゴリの演奏にサビだけクリーンでメロディを歌い上げるオーバーグラウンドのメタルコアだったり、ブラストビートにイヴィルなボーカルを乗せギターがひたすら美麗なトレモロリフを奏でるブラックゲイズだったり。

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Q:
要素としてのブラストビートやトレモロリフは導入しているもののSWARRRMは例えばピュアなグラインドコアだったり、少し前に流行ったブラックゲイズなどとは明らかに一線を画すバンドだと思います。他のインタビューで「Your Rule is not My Rule.」という考え方をしていると目にしました。その他にバンドとしてこれはやらない、というルールや決まりごとがあれば教えて下さい。

KAPO:
過去においては、結構こだわりあったように思いますが、バンドの寿命を延ばすためそれらを捨て続けてきたと思います。今となっては覚えていないし大事にも思っていません。

TSUKASA:
ないと思います。俺たちがやりたい事をやりたいようにやるために、制限を設ける必要性を欲しいと思ったことはないな。

Q:
引き続き歌の比率が多くとてもメロディアスです。ハードな音楽ではメロディは敬遠されることもあります。これもSWARRRMのカオスの一つだと思うのですが、これを突き詰める意図を教えて下さい。

KAPO:
すべては、いい曲を作るという目標を達成させる為の手段です。

Q:
前作リリース後の評判の一つに「ビジュアル系」の要素がありました。
私は最近は殆どそのジャンルは聞きませんが、思春期はいわゆる全盛期の一つでありそれなりに聞いたものでした。確かに、ヘヴィネスを抑えつつもここ一番では非常に歌謡的である、というのは共通しているところもあります。音楽の一つとして意識したことはありますか?
特にTSUKAさんの歌唱法はなにかモデルとしている人やスタイルがありますか?それとも自然にやっていたらこのスタイルに到達したのでしょうか?

KAPO:
所詮、変態グラインドコアバンドである我々と、そういうプロフェッショナルな方々とでは比較の対象にもならないと考えてます。もちろん有名な名曲は普通に口ずさめる程度に知ってます。
ただ参考にしたことはないです。

TSUKASA:
歌い始めた時、歪んだ声の音源を聴いていて誰が歌っているかわからないのがあったので、そうしたくないというのはありました。カポさんと一番いい選択をして、今の歌い方になったと思います。変わったという感覚は、ないんだけどね。

Q:
前作の評判としてグラインド歌謡以上に言われていたのが和の要素ではないかと。
ここでいう和の要素はさきほどのビジュアル系に通じるのですが、おそらく2回聞けばなぞれるようなキャッチーさと哀愁をもっとメロディがもはや良くも悪くもガラパゴス的に存在している(独特だが世界で真似されるわけではないという意味でも)日本歌謡(≠JPOP)に通じるのではないかと。
メロディを作成する際に、念頭に置いていることはありますか?
また日本という土地で生まれ育つで良くも悪くも日本の歌謡曲にある程度触れて育つことになると思います。
その影響はありますか?

KAPO:
歌謡曲の影響は0ではないでしょうか。私は世代的にRCサクセション、ARB、THE MODS等のバンドの熱心なファンでしたし、それらの影響は確実にあるのではないですか。

TSUKASA:
ないとは思えない。ただし、歌メロを作る時に、こうでなければとは思ってはないな。

Q:
過去作を聴いてもボーカルがその役割を担当しなかっただけでポップな部分、メロディアスな部分はありました。わかりやすくはブラックメタルのようなトレモロリフ。曲の一部だったそれが歌の姿で前面に出てきたことでそれがバンドの新しい個性になりました。
明らかにTSUKASAさん加入以降の変化だと思います。バンドの武器としてメロディを取り上げると決めたきっかけは何だったのでしょうか?私は新ボーカルTSUKASAさんの影響があるのではと思うのですが、それもあったのでしょうか?

KAPO:
グラインドコアにキャッチーなフレーズを挟み込みたいという意識はこのバンドの当初からありました。最初の音源にすらキャッチーな曲及びフレーズ出てくると思います。

TSUKASA:
歪んだ声だけで、曲が成り立たなくなってきたのは事実で、カポさんとやりとりを繰り返してきた結果だと。「あがれ」が、大きな分岐点だった気がします。

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オリジネイターのキャッチーな要素を抽出して切り貼りしたコピペフォロワーとは異なって、種々の要素が曲の中で混在している、というのがこのバンドのやり方だ。表題曲である「ゆめをみたの」のドラマティックな展開をぜひ聞いてほしい。この表現を可能にしているのが20年以上のバンドの試行錯誤のキャリアだろうと思う。

今作をまとめると、、、
・前作までで強化していた歌の要素をクリーンボーカルの歌唱法を加えることで更に表現力を増している
・前作までで軽くしていたギターに歪みの要素を復活させ、合わせて演奏力を増している
結果的に、歌に合わせて演奏を軽くしていた前作に比較し、曲中で両極端を同時に表現する、文字通りカオスを内に孕んだエクストリームミュージックとなっている。

表現力における歌詞と聞き取りやすさ
SWARRRMは進化し続けているバンドだ。1stEPのリイシュー盤を持っている人はCDを取り除いて見てみると良い。概ね「これはすでに古い。オレたちの新しいのを聞け」と書いてある。1stフル「Against Again」はタイトルからして初期衝動とは別の意図的なハードコアバンドだとわかる。
曲も一貫して大体3分ちょいあるから、ショートカットグラインドとは一線を画す音楽性で、ピュアなグラインドバンドほど捨てていく表現力を磨いてきた。

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Q:
Chaos&Grindを標榜していますね。インタビューを読むとGrind=ブラストビートという解釈だったはず。ここを軸足にすることで表現の幅を広げてもグラインドバンドとしてあることができるのかなと個人的に思います。バンドとしてはグラインドコアの表現に敢えて挑戦するような意識はありますか?

KAPO:
過去においては、ブラストビートの応用の可能性を広げたい、もしくはブラストビートを使った新しいロックを創造できるのでは、とかの思いはあったような気がしますが、今は“いい曲”を作るのに必要なアレンジの一つに変化してます。

Q:
Against Againというのはもう一度反抗、ということで初期衝動から離れて考えていることを示唆していると思います。その上でファストコア的なショートカットグラインドコアにははじめから興味がなかったのでしょうか?

KAPO:
Crossed Out 好きでしたよ。
Olho secoの『Fome Nuclear』やBrigada Do Ódioとかのブラジル崩壊グラインドも好きですね。

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それにしたって「Black Bong」、つまりTSUKASAが参加してからの変化のスピードは目まぐるしい。相性が良い、とはインタビューでのメンバーの言だが他にも要素があると思う。今作を聞いて思ったのは歌詞だ。

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Q:
TSUKAさんに声をかけたきっかけはやはりAtomic Fireballとのスプリットでしょうか?

KAPO:
友人であった事が最大ではないでしょうか。

TSUKASA:
神戸にFROM HELLを呼んでもらった時だったと思います。機会があれば歌わせてくれと。その流れで『Black Bong』だったと思います。

Q:
曲作りについて興味があります。TSUKASAさんにバンドから接近しているように思えます。曲があってあとから詩を載せているのでしょうか?

KAPO:
基本曲が先なのですが、僕の作曲方法はギターフレーズとベースラインを同時に作る事がよくあります。その時、歌までついてきてしまうこともあります。今作でいえば「答えが」「涙」のサビとか「ゆめをみたの」の歌いだしとか。

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killieとのスプリットで個人的に一番衝撃だったのがまるで個人的な日記帳から抜粋されたかのように生々しい歌詞だった。
前作「こわれはじめる」を経て今作でもその傾向は続き、さすがにあそこまで生活感のあるワードはないものの今までにない境地に至っている。
激しい曲調にあった攻撃的なワードもあるが、一方で深い悲しみや鋭い後悔や自己批判の視点もある。

Q:
歌詞は完全にTSUKASAさんにまかせているのでしょうか?なにか修正が入ることはありますか?

KAPO:
字余り部の歌詞の変更を依頼するくらいです。

TSUKASA:
基本的には、俺が書いてます。最近はカポさんと曲のやり取りの中で歌詞が変化していく事も多くなってきました。1人で書いている感覚は、もうないのかも。「ゆめをみたの」の冒頭〜は、いい例だと思います。カポさんが曲と同時に歌メロ、歌詞をつけているときもあるので、選択肢は以前よりかなり広がったと思います。かみさんとは、毎曲、歌詞の話をしますし、かみさんが書いた歌詞をもとにして、作ったやつもあります。
「カナリア」がそうだったと思います。きりがないので、また今度。

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初めて聞いたとき感じたのは女性らしさだった。
歌詞を読むと、冒頭の5曲には「涙」もしくは「泣く」と言うワードが使われている。(3曲めはタイトルが「涙」。)明らかにラブソングと取れるような歌詞の断片もある。「フィーメールボーカル」と音源の紹介にあえて書かれる(つまり特異)くらいに男社会であるメタル/ハードコア界隈。
病み、ユーモアに転化せずに男性があえて弱さを素直に見せるというのは、なかなかできないことなのではないかと思った。

Q:
書かれた歌詞がすべて本当の出来事をモチーフにしているわけではないと思いますが、なかなか赤裸々です。外に向かっていくことが多いハードコアの歌詞において内面に深く入り込むスタイルも独特です。「涙」や「泣く」といったワードが多く並んでおり、歌詞を書く上で心情の変化などはありましたか?また自分の内面を言葉にして叫び歌うことに抵抗や恥ずかしさはありますか?

TSUKASA:
ないですね。周りは物凄いスピードで変わっていくので、自分が何処にいるのか把握する上での変化はあるのかも。撮影で1人でうたうのは、恥ずかしい。

Q:
曲も歌詞も作られたという意味ではフィクションです。
ただTSUKASAさんが作詞をするようになってから明らかに曲に個性、というか人格が生まれてきていると思っています。『偽救世主共』は非常に格好良いタイトルですが明らかに神話的です。つまり突き放せばどこか遠くの物語。
一方で近作の歌詞では明らかに「誰か」の存在があります。つまり一人称の誰かの物語なのです。それによって非常に曲が個人的になってくる。TSUKASAさんの体温が感じられるというか。歌詞をそのままバンドメンバーの人生と捉えるのは間違いだと思いますが、それでも人間味は増しました。
メタルだけでなくハードコアにも物語や神秘性はあると思っています。
体制批判や環境問題、ハードコアにはいくつかお約束があります。
ここから離れてより個人的になることにハードコアバンドとして抵抗はありましたか?

TSUKASA:
歌詞は、聴いてくれた人、それぞれの受け止め方でいいと思っています。聴いてくれてありがとう。制限を設けながら書く。考えたことは、ありませ
ん。曲を作る過程において。

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メタル/ハードコア界隈だとそもそも歌詞が聞き取れないことがほとんどなので、聴いたそばから意味がわかるというのは実は結構面白い。
そもそもSWARRRMもENDONのように歌詞がない声だけのバンドなのでは?と思っていたので(実は昔から歌詞はあったそうです。)、なにげにこの変化は大きいと思うし、近作での「和の要素を感じる」という感想も、単にメロディの強化以上に聞き取りやすい歌詞もあるのではと。

特に演技性が求められる場所では神秘性が大切だ。わからないことが格好いいのだ。神様にたくさんの似顔絵があるように。だからバンドマンも化粧を施したり、ローブを羽織ったり、また歌詞をあえて見せないことで神秘性を獲得してきた。
SWARRRMの歌詞が書き手の心情を素直に表現していると考えるのは明らかに間違いだが、しかし一つの答えを提示するという点で神秘のヴェールを自ら取り払っている。演奏面でのシンプル化もそうだが、SWARRRMはあえて自らをさらけ出すことに一切抵抗がない、というかそこに進化を見出しているのかもしれない。

まとめると、、、
SWARRRMはブラストビートを中心とした曲を作る中で常にプラスアルファの表現を追求していた。
今作では、声と演奏の両極性を更に強めて表現力の緩急を手にしている。
さらに昔は聞き取り不能だった歌詞を日本語でかつ、聞こえる状態で展開することで単にメロディアスなハードコア以上の表現力を実現している。

アートワーク

前作はTSUKASAの写真を大きくあしらった大胆なデザイン。前前作は花を大きくあしらったデザイン。ハードコアらしくはないがどちらも赤を基調としながらも暗め色彩で構成されていたが、今作は太陽があしらわれているのも象徴的だが燃えるような赤、オレンジが特徴的。
デザインは金沢のGREENMACHiNEの最新作も手掛けている072。『Black Bong』以前はハードコアマナーに沿った不穏なコラージュ風のアートワークが多かったが、ここに来てルールから外れた明るさと抽象性に触手を伸ばしているように感じた。(今作もインナーのアートはかなり暗めなのだが)

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Q:
アートワークは072さん、最近では金沢のGREENMACHiNEの新作のアートワークなども手掛けています。色彩豊かで抽象的、いわゆるハードコアのマナーからは距離があるアートだと思います。どのようなリクエストをされたのでしょうか?

KAPO:
黒基調でアンダーグラウンド感全開なものを避けて メジャー感を持ちながらも072の持ち味を出してほしいと伝えたと思います。さすがの仕上がりでとてもうれしいです。

Q:
また録音まわりはPALMのAKIRAさんにお願いされていますね。地元というわけではないかもしれませんが、いわゆるお金に任せて評判の良い人にオーダーするという形ではないと思います。地元感というのは意識されていますでしょうか?また、東京から離れた土地でバンドを続けるということには明確に対抗意識や意思がありますか?

KAPO:
今回も制作に関わってもらった水谷君、072、AKIRA君は今僕が能力を評価し期待してる方々です。我々は正直、もう現場からははずれ気味で、時代性、最新型の事はほぼ知りません。この三名の感性が入る事で、かならずプラスに働くと確信してます。
土地に関する対抗意識も、他人に対するそれももう無いですね。

TSUKASA:
俺は、東京だよ。ないね。東京にない部分を、今でも感じることがあるので、幸せ。

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またタイトルは「ゆめをみたの」である。
女性らしいと感じた歌詞を象徴する言葉でもあるが、どうしても思い浮かぶのは大友克洋の「AKIRA」である。作中でキヨコが先のカタストロフを予見する重要なセリフだ。未だに世界中でパロディが作られる(直近ならCyberpunk2077。またKanye Wastも強く影響を受けたMVを作成したことがある。)作品であるから引用自体は珍しくない。
しかしSWARRRMはそういったサブカルチャーと紐付いているイメージはまったくない。

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Q:
夢を見たの、というタイトルはAKIRAからなのでしょうか?

KAPO:
違うけれど 僕自身も真っ先に連想したのはそこですね。 
女性的なタイトルにしたかったのはあります。

TSUKASA:
言われるまで忘れてました。そのシーンを思い出そうとする自分が、変な感じで、楽しかった。

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新作からは離れるが、ここ数年のバンドのリリースについて気になったので、この機会に聴いてみた。

Q:
2010年のATKAとのスプリットを最後に以降は、GARADAMA、PASTAFASTA、Terror Squad、Disgunder、killie、assembrage、ENDONと日本の尖ったバンドとスプリットを出しています。レーベルも日本です。
まずスプリットを出す相手のバンドの基準などあれば教えて下さい。個人的にはtoosmell Recordsの赤石さんがやっているPASTAFASTAは意外ですが(個人的に好きなバンドなので)嬉しかったです。

KAPO:
もちろん好きなバンドです。Terror Squadとkillieはどちらも計画から5年以上かかったとおもいますが、どちらも無茶苦茶かっこよくかかった時間を納得せざるをえないすばらしい体験でした。

Q:
また過去のインタビューで海外のレーベル(日本のレーベルとも悶着があったようですが)と決別したことが語られていました。
現在では海外のレーベル、バンドとの共作は考えていないのでしょうか?
同じインタビューでお気に入りに海外のバンドを挙げていらしたので、海外に対する情熱がなくなった、というのではないと思いますが。

KAPO:
水谷君が海外のリリースの手配はしてくれてますが、積極的な思いはないです。終了するまでに納得の曲を仕上げたい、それだけです。

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ただ「良い曲を作る」ために存在するバンド

SWARRRMは変化し続けていくバンドだ。今まで発表したどのアルバムもその他のアルバムの延長線上にある一方で決して単なる焼き直しにはなっていない。

それでもアルバム単位でいえば『FLOWER』を一つの変換点の一つの指標と考えて、それ以前それ以降として音楽性で分けて考えることができる。
インタビューへの回答では「あがれ」が変化の兆し、きっかけの一端であったことが示唆されている。

具体的に言えば『Black Bong』で加入したTSUKASAの歌唱力を活かした「うた」つまりメロディの導入がここ最近のこのバンドのエピックであったことは確かだ。個人的にはTSUKASAの個性がバンドに新たな可能性を吹き込んでいき、そこを足がかりに音楽性を変更していったと思っていた。つまり新ボーカル加入が偶発的に変化をもたらしたと考えていたのだが、今回バンド側に話を聞いたところ、全編歪んだ歌唱では誰が歌っているかわからない状態からTSUKASAという存在を打ち出すこと(ボーカリストの個性の再確立)という企図があったものの、明らかにバンドから意識して音楽性を変えたことが明らかにされた。
ブラストビートを用いた新たなロック(音楽性で言えばハードコアやメタル)の可能性の模索が命題だった時期もあったがが、そこにはもうこだわらないと。単にいい曲を作りたい、これが今のバンドの命題でそのためには手元にある技術を何でも投入すると。

良い曲とは

しかし良い曲を作るというのは多くのバンドにとってふつうのことだ。
敢えて良い曲を作ることを改めてバンドの指標にするというのはどういうことなのか。ここでいういい曲を作る、ということは具体的にはどういうことか。作曲方法とそれに取り組む考え方や姿勢の2つの側面で考えてみたい。

A.作曲サイド
【Chaos】
ヘヴィさからの脱却はそのままポップさにつながらない。
ヘヴィさへのこだわりは捨てたが良い曲に必要ならばそれは臆面なく使っていくのがこのバンドのスタイルだ。

それに加えてインタビューへの回答に明確なスタイルが明言されている。
敢えて崩すこと、バランスだったり法則だったりを意図的におかしくすること。Chaos&Grindという信条、Grindはブラストビートとして語られる一方Chaosは明確に話されることがなかったというのはすでに書いた。
私は変化や全く違う要素を一つの曲に同居させることがカオスの要素なのではと思っていたが、今回はっきりと楽曲の制作の技術的な要素をバンドから聞くことができた。
前作のタイトル『こわれはじめる』はこの意味で大変重要である。SWARRRMの楽曲は本質的に不安定さをはらみ、ある意味では完成されていない。それが聞き手に不安感・焦燥感などを与える要因になっている。

【楽曲制作】
歌の発生源がたんにTSUKASAにとどまらないことが示唆されている。
TSUKASAが作曲に影響を与えていて相互作用で今のバンドのスタイルが出来上がっている。
また、別の質問の回答ではバンドサイドは(技巧や集客力より)友人であることを重視している(またこの回答ではTSUKASAから手を上げていることも意外だった)が、その選択と決断がバンドにうまく作用しているのは、ロジックよりも経験による直感が働いているのかもしれない。

また歌詞も緩やかな共同制作の状態にあるようで(Kapoの回答は謙遜かなと思っている)、面白いのがTSUKASAの歌詞制作に実際に女性の視点が影響を与えているということだ。今作はアートワークも含め女性らしさ(ハードコア/メタルという男性らしさに対するSWARRRMなりのAgainstだと思う)を感じさせると思ったのだが、なるほどこういう事情があったのかと思わず膝を打った。

B.考え方サイド
インタビューを通して感じたのは下記3点。
1.柔軟さ
2.拘泥しない、こだわらない
3.決断力

1と2は近しいところにある。
ヘヴィさへのこだわりを捨てたことは一つの決断に過ぎない。ポップとも言えるメロディ、ギターソロやコーラスの導入も柔軟さ、そしてハードコアというフォーマットにはまらない選択だ。ハードコアかくたるべしという伝統に対する反骨精神の現れでもある。良い曲を作るために、「らしさ」はもう要らない。

なにかであることから脱却すれば次に求められるのは決断力である。
良い曲の絶対条件がない以上、求められるのは選択肢とそれをいかに使うかという選択、決断である。
ここで意識されるのがバランス感覚で、ハードコアならここでモッシュパート、メタルならここで高速ギターソロ、という正道から外れたSWARRRMは自分たちで正解を追求することになる。
SWARRRMは「孤高」と評されることもあるが、どのシーンにも音楽的に属していないというのは判断基準から全部自分たちで決めるということだ。
それは常に選択肢と決断の連続。
『FLOWER』が難産だったのもTSUKASAと全く新しい音楽、全く新しいSWARRRMを作ろうとしていたからに他ならない。人間はとかく決断することを避ける生き物でもあるからだ。「らしさ」からの脱却は茨の道である。道を切り開く苦しみがある。一つの楽曲が完成するまで数々の試行錯誤と未完成があったはずだ。

■まとめ
『FLOWER』以降のSWARRRMにヴィジュアル系への類似を見る意見などはあるが、SWARRRMの楽曲をしてミクスチャーやクロスオーバーという評はあまり見たことがない。
他ジャンルから要素をそのまま持ってくる、ということがないからだ。
だから部分的に何か似ているけれど、決して既存の何かではない。(例えばヴィジュアル系に似ているところがあるという意見があっても近作をしてヴィジュアル系のアルバムと紹介することはない。)

内部に決定的(で意図的)な崩壊を抱えたバンド、SWARRRM。
他とは違うなにかから、自分たちが納得する1曲を、に。
20年の混沌は切磋琢磨と試行錯誤の20年だったはずだ。
意図的に崩されたバランスはkillieとのスプリット収録の「愛のうた」で直接的に表現されているような人間的な迷い、後悔と結びつき、喜怒哀楽の一つとしてのピュアな怒り以上に複雑な感情(葛藤のような時に相反する2つ以上の感情が同時に存在している状態)を表現する、その原動力として作用しているように思う。
そして音楽的には完全にアンダーグラウンドのハードコアに属していながら、ヘヴィさを始めとする様々な「らしさ」への執着からの脱却は、単に選択肢の増加という音楽制作の手段以上にバンドに変化をもたらした。

今作ではポップさの追求と(試行錯誤の末に調整された適切なバランスで表現された)ヘヴィな演奏、そして様々なフックが今までのアルバム以上に自然に同居しているという意味ではバンドのキャリアでかつてない完成度を誇っている。
逃げの原点回帰でも、搦手の他ジャンルからの剽窃でもない。
最新作が常に最高傑作というのは過去のスタイルのこだわりがない分、冷静に昨日までの自分たちを俯瞰し、何が足りないのか、何が伸ばせるのかを考えた上で今日改善していく、そんなマインドを持っているからだろうと思う。
過去の自己のスタイルにも拘泥しないのだ。
変化を恐れないバンドなので今回も単に讃一辺倒ではなく、批判もあるだろう。
しかし、このバンドを長年追っているファンの方でも今作を聞けば必ず驚きがあるはずだ。

Text by 冬のしじま (life-4)

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