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3LAの新入荷レコード紹介/ 文体と音色の話 / かっこいいおっさん枠 /

30代に突入してもずっと中二病が完治せず、激情ハードコアとは何なのか、Skramzとは何なのか、考え続けているが本当は答えを出してしまうのが嫌なのかもしれない。答えを出したと思ったら新しい価値観が次々と生まれて塗り替えられていくからずっとそういう状態なのかも。そしてその状態がそれなりに好きなのかもしれない。


HEEL or BABYFACE / peelingwards (CD)
http://longlegslongarms.jp/music/products/detail.php?product_id=2348

ayutthayaとのスプリットに続いて2021年リリースされるEP、『HEEL or BABYFACE』が入荷されました。
1曲目「サイファーウタキ」のノイズ、インダストリアルなイントロから幕を開け(この時点ではex.NOAH、現新日本プロレスの石森太二の技「サイファーウタキ」なのか、沖縄の斎場御嶽なのかは不明だが大きな問題ではない。)歌物ヘヴィオルタナをたたみかけていく様が、これはこれで日本ならではの音楽なのだろうと思った。
ノイズ混じりの強靭なディストーションサウンドはプロレス技のようでもあるし、民族系な雰囲気を醸し出すビートは沖縄ルーツかと言われたら「ああ、そうかも」って納得してしまうかもしれない。プログレッシブな決めを組み合わせながら、Screamoと90年代的なモダンヘヴィネスなバンド一体となってうねるリフ&グルーヴが邦ロックと溶け合っていく...。確かに激情要素はあるんだけど、たぶん問題はそこではない。後期TADの超絶歌が上手くなったverのような質感が素晴らしい。

ただ本当は国内のバンドはそんなに積極的に扱いたくないという気持ちはあったりもする。飲み込まれていく内輪的パワーバランスと、外部にいるリスナー達を排除した思考から生み出されるアウトプットが非常に暴力だから。その壁を超えた作品だけが評価に値すると思う。そのアウトプットってなんだろう、と思うと自分にとっては"文体"というやつなんだと思う。だから話題になってるこの記事の結論とは自分は対極かもしれない。


Careful Climb / Slow Worries (LP: Ltd300)
http://longlegslongarms.jp/music/products/detail.php?product_id=2343

オランダ、アムステルダムのポップパンク/インディーロック、Slow Worriesによる2020年アルバム。300枚プレスです、少ない!
Helium、The Spinanes、Slant 6といったバンドからの引用を語られているようにパンクやエクスペリメンタル的な要素を織り交ぜつつも90年代リバイバルという文脈にいるのかもしれないが、ボーカル+ギター2人+ドラムという変則的な編成にもある程度納得感がある。そう、これはギターロックのバンドなのだという納得感。若干のノスタルジーさえ感じる甘いメロディが特徴だが、バンドの根底にある現状への怒りや問いかけが不協和音的に絡み合い、ただ夢見がちなだけのインディーロック勢とは異なる独特の味を醸し出している。個人的にオランダのシーンは全然追っていないので詳しくはわかりませんが、Howrah、Apneu、Blue Crime、といったバンドにも属しており、聞いた限りでは関連したどのバンドよりSlow Worriesがポップです。

オランダのシーン、まじで知らね〜となってしまうのはある程度は仕方ない。世の中のメディアが報じるのは基本、国内+US+UKくらいの音楽ニュースなのだから。音楽大国ドイツを除いてスペイン、フランス、イタリア、オランダあたりのパンクなんてのはほとんど情報は回ってこない。日本のアーティストの情報が海外で回らないと一緒。でも表現されてる質が低いのかと言われるとそんなことはなくて、世界への視点でいえばUS/UKや大国の持っているものと異なる観点がある。それがエッジになると思ってる。日本のアーティストも、自分があたかも白人であるような価値観は嘘なので、マイノリティ側として自覚するべきだと思う。


Driving Spain Up A Wall / City Of Caterpillar (12inch EP)
http://longlegslongarms.jp/music/products/detail.php?product_id=2342

2017年にリリースされたCity of CaterpillarのEPが入荷されました。
収録曲はどちらも新曲というわけではなく、「Driving Spain Up A Wall」のほうは結成当初から存在していた楽曲でライブ音源としては存在しており、バンドの楽曲群の中では長い間世に出ていない名曲という位置付けとなる。というわけで制作自体はバンド復活に合わせてThe Atomic Garden StudioでJack Shirleyによってミックスとマスタリングが行われている。「As The Curtains Dim (little white lie)」のほうは録音は元々のセルフタイトル製作時のセッションに含まれていたという。本作EP自体、過去のバンドと現在のバンドを繋ぐような作品になっている。3LAからCDでのディスコグラフィーをリリースしているが、この作品もアナログで持っておく理由はあると思う。2000年代のポストハードコアの時代、旧来の価値観が揺らぐ中でそこには確かに試行錯誤の正直な痕跡があるのだ。

envy、killieメンバーを交えたインタビューでも話にあがっていましたが、City of Caterpillarの音楽には聞いている人間を深く考えさせる何かがあると思う。これって歌詞がどうとか、発信していることがどうとかっていう話ではなく、音に浸る中でその人がどう感じるかっていう言語を超えたところの感覚であって、それってテキストでいう"文体"=音色に近いもの。だからこれこそが音楽なんだって思うの。


Between the Richness / Fiddlehead (LP: Blue & Clear Moon)
http://longlegslongarms.jp/music/products/detail.php?product_id=2333

Have Heart、Basement、Youth Funeralなどのメンバーによって結成されたFiddleheadは2021年のアルバムは、良くも悪くもおっさんEMOの最高峰みたいな感じになってる。その系譜はポップパンクとも、ポストハードコアとも微妙に異なる、ガチのハードコアからのEMOなんだけど、演奏しているメンバーの歳相応の表現内容、つまりオッサンにしか出しえない人生観滲み出るタイプのEMOになっていて、日本でいうなら後期GLAYみたいな感じ。その表現には何一つ目新しいものなんてものはなくて、エッジを効かせようという魂胆自体が、そもそも無い。ただ自分の人生を歌う、パンクロックに乗せて。それだけの方向性しかないんだけど、それがやれちゃうのがおっさんEMO。前作での父親との死別、そして今作では息子が生まれたこと、その2つの豊かさがテーマになっている。わかります?人生の豊かさ。Pleasure'2021。

おっさんが世の害悪みたいな価値観(概ね正しいんだけど)がどんどん広がっているのですが、パンク/ハードコアのおっさんは「かっこいいおっさん」枠に定義されないと厳しいなって思う。始まりはキッズだけど、そのスタンスで変わらないとしたらそれはそれで成長しないってことになる。人は成長するし、その先を歩んでいるおっさんを僕は尊敬する。


Elliott Smith: Expanded 25th Anniversary Edition / Elliott Smith (2xCD)
http://longlegslongarms.jp/music/products/detail.php?product_id=2330

EMO、という音楽を果たして"音のみ"の話の枠に押し込めてしまって良いのだろうか?
確かにEMOは80年代から始まるハードコアパンクの文脈上にあり、ポストハードコアから派生した歴史がある。そのテーマとなるのは社会からの疎外感であったり、自己嫌悪であったり、時に薬物や自殺願望であったりと様々だが総じてネガティブな、そして内的な何かがルーツにある気がする。Elliott SmithはEMOだろうか?その答えはNOだ。では、このアルバムがBikini KillやUnwoundを後押ししたKill Rock Stars(Born Againstもリリースしてる)からリリースされたことはパンク/ハードコアの文脈とは無関係なのだろうか?
1995年のアルバムに加え、初期ライブテイクを追加した2枚組。52ページのブックレットは紙の厚みもすごくてCDというより寧ろ本。そして3LAとしては重要なEMOのルーツである存在、と定義して入荷していくことにしました。彼の音楽はAmerican Footballに影響を与えており(これは公にも発言している)、また直接的/間接的に多くのEMOミュージシャンのコードワーク、そしてボーカルのトーンにも影響を与えている。EMOは音楽的に定義されるのか、と言われたらそれもNO、心の奥にある本当の痛みや悲しみを表現することがEMOかもしれない。そしてそれは2020年代のインディーロックにも受け継がれているのかも。Elliott Smithはそんな音楽の風上の、ちょっと外れたところに今もいる。

と書いているものの、Elliott Smithについてめちゃくちゃ深く聴いているわけじゃないのでこれから少しずつ深めていこうと思う。音楽的なところでEMOとより深く繋げられたら面白いと思うのですよね。

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