2022年短歌ピックアップ

#2022年の自選五首を呟く
#2022年のB面ベスト的な自選五首を呟く

Twitter上の上記ハッシュタグのツイートを準備するために、主に「うたの日」からピックアップしたものです。

天気雨きらきら 電話ボックスの君の世界には僕はいない

ロブスターたいへんクルーズどころじゃないロブスターたべるのがたいへん

蜘蛛の仔よ飛べ成層圏に星降る日 光る風とは君らのことだ

ヴィンテージの重さは透明な時間 いまそこにHYSTERIC GLAMOUR

迷宮の奥には古き龍が棲み人の世にあるべき謎を吐く

春の夜の原稿用紙の罫線の色やわらかく羽化を待ちおり

二度と戻らない日常 六月の終わりの空は群青だった

夕方は皆希薄になりがちで消えないようにお家に帰る

ヒステリーっていい波なので直角にパドリングして波に乗ってく

花びらのふるえは湖畔の風のせい 君の不在のせいなんかじゃない

日に三度火を吐くといふ竜である あの背は三度吐き終へし部長

ウクライナ領のかたちを覚えつつテレビ見上げてロースカツ食む

通過列車にご注意してると君がいて、物凄い速さですっ飛んでった

コストコのピザが買えなくなったとき初めて穀倉地帯を思う

ほんとうは墓まで持っていくはずの嘘をエイプリルフールに使う

やはらかき心をとぢし団子虫その綻びに春は来にけり

釣り銭を渡される 触れた指だけで異星人とも通じ合えそう

洗濯機鼻歌みたいンー(わしゃー)ンー(わしゃー)って にちようびだね

ヴァンゲリス小さく掛けて雨音を二人で分ける 晴れなくていい

頃合をみて引き上げた釣り針に何でお前が掛かっているの

手招きにぞわりぞわりと総毛立つ深夜の三角公園だった

咲きこぼれ散る姿さえ花だった 花水木の頃墓参りへ行く

写真には少女時代の母があり無限の未来が残されていた

優先席マークの人の角度にて坐す若者の疲れのナナメ

わたくしの都心はいまも色分けがぴあmapのまま空があかるい

よく錆びた送電線の鉄塔に懐く夏草(空に届くかな)

ヒダリマキマイマイオナジマイマイ科なのに左に巻いててすごい

筆名を氏名欄へと記入して余白に襲はるるやうな心地す

ひとつ傘の下で君と分け合いたかった小さな空気 ネオンの味の

理不尽に叱られたのだったと気づく求肥が硬口蓋に貼りつく

片恋の残骸として降りつもるあかるい窓の下の虫たち

硝子片散りばめた朝の光に刺され転がされてゐるゴミだ

きったねえプライベートをきったねえパンツで隠して月が綺麗ね

夢でみた花火がとても美しく君が君のまま照らされていた

水羊羹切れば夏の夜夜夜思い出は既に美しいもの

夕立 ──同じ墓には入れないかもしれぬのか愛しい娘よ

あの月でさえ零せない陽炎だ僕たち二人っきりの孤独だ

なぜという問いを盗まれ白い風 あ、ここから秋を始めるんだ

デモ隊と警官隊の衝突で生まれた銀河へ薔薇を手向ける

戸棚には強力わかもとの壜が聳え立ってて強力だった

どんな夢みてるのかしらこの寝相グッパオンだわ間違いないわ

炎天のペンキの匂い夏色に塗(まみ)れた作業服の職人

知らぬ間に我が家の表札が変わり違う世帯になってたよ、秋

我が町にプロレスが来て試合して幸楽苑でラーメン食ってた

夜九時の閉店間際の書店の燈(ひ)少女の燐寸(マツチ)のごと暖けし

夕闇に追い立てられた残照が歯ぎしり世界は口を閉じてく

隣客の肩の重みを受け止めて通勤電車の紫苑の群生

きらきらと心の中身が零れてて鼻をかんでは未練を断ってる

重陽に九を重ねて創業は大正九年九月九日

産声がwhere? where? と切なくて、ここよ、ここよ、と家庭を築く

はい/いいえ/はい/はい/はいと丸をする問診票は今日もなめらか

このカップ素敵ねと底の刻印を覗き込む母そんな母だった

引っ越した町ごと君が迫り来る1/50000地形図を正しく折れば

なんとなく一本背負いをしてみたら綺麗に決まったのがいまの妻

黒々と貨物列車が過ぎるのを鉄条網の前で見ていた

少年は駈けまわりまた駈けまわりこっそり傷ついてまた風になる

満ちてゆく月を途中で飲み込んだような顔して戻ってきた君

年上も年下もなく気づいたらそこにいたよね おめでとう、僕たち

こころまでとおくへ君は網膜に水平線を逆さに映す

君のいないバスのにおいが好きだって気づいた秋の夜のことです

お米には神が住んでて神々を研ぐ指先の心地よきこと

あゝなんて青いのだ月透けるその水の底に我あの底に月

死別とは来世でめぐり逢うまでの遠距離恋愛 また春がくる

杭打ちの音だけ響くカーン……カーン………心に麻酔は効かないのですね

B面へ切り替わる無音のなかで横顔ごしの冬凪だった

ここもまた愉しからずや囚われて給料が出る牢屋と思えば

冬服のポッケから出すけばけばの懐炉も君に似て優しいね

伯父さんの写真ばかりのアルバムで奇行に走る少女が母だ

化け物に食べられるかと思ったら「食べれません」と棄てられた夜

慟哭を奏でる楽器になりたくて剃刀で触れる手首のフレット

この町もかつては村でファミコンを売ってる店が一軒あった

冷蔵庫下段にメフィラス星人の刺身があるというから楽しみ

自転する地球、分娩、楓の実、遺伝子、落下の軌跡、恋とか

祖父の遺業をお墓の下の祖父に継ぐ『おばあちゃんをひとりにしない』

馬方の拝みし馬頭観音へ黙礼をしてハイエース過ぐ

草笛を吹いては棄てて日が暮れてそれだけでいい一日だった

覚悟して結婚したに決まってるでしょう「はらたいらさんに全部」みたいに

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