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Let's begin とにかく何かを始めよう

1960年代終わりから80年代にかけて、学園ものと呼ばれた青春ドラマが隆盛を極めた。
リアルタイムで見ていたわけではないのだが、竜雷太が先生役の、「これが青春だ!」夏木陽介の「青春とはなんだ」など平日の夕方の再放送枠は、学園ものが目白押しだった。
他にも、長きにわたって千葉県知事を勤めた森田健作の「俺は男だ」などの作品は、主題歌と共に今なお心に刻まれ、色褪せることがない。
そんな数多ある青春ドラマのなかで一番思い入れの深い作品が、ヘッダー画像の「飛び出せ青春」である。
主人公の先生役河野武を演じた村野武範は、食いしん坊万歳のレポーターといった方がわかりやすいのかも知れないが、私にとっては村野武範=河野武のイメージが今も大きい。

そしてこのドラマの主題歌の、「太陽がくれた季節」を歌った青い三角定規はこの曲以外にこれといったヒット曲には恵まれなかったが、飛び出せ青春にはこの曲しかあり得ないと言い切れるほど印象深い曲である。余談だが、というかまあどうでも良い話だが、青い三角定規の男性ボーカル岩久茂が女優秋吉久美子の元夫だというのを後で知った。

飛び出せ青春は、太陽学園という落ちこぼれ集団が通う高校のサッカー部を舞台にしたドラマで、生徒役も個性派揃いだった。
生徒の中のリーダー格高木を演じた石橋正次は、夜明けの停車場♪を歌ったあの石橋正次であり、高木と対抗するもう一人のワル片桐こと剛たつひとは、その後NHK教育テレビや民放のワイドショーにレポーターで出ていたのを微かに記憶する。
他にも黒沢明の「どですかでん」で主役をつとめた柴田役の頭師佳孝、実写版「丸出ダメ夫」の主人公だった山本役の保積ペペなどアクの強い若手俳優がキャスティングされていた。保積ペペはこの後放映された中村雅俊の「われら青春」にもただ一人レギュラー出演し、1年ダブリの設定からか貫禄が備わり、われらではいっぱしの不良気取りの役柄だった。

片方、太陽学園の教師陣を演じたのは、校長役がぴったりの、彼の有島一郎。
河野武を敵対視し常に小言幸兵衛だった教頭役の穂積隆信。その腰巾着役は、後に名優の誉れ高いあの柳生博が演じた。多分彼が世に出た初期の人気ドラマが飛び出せ青春だったような気がしなくもない。
お決まりの紅一点、マドンナ役の女子教師は酒井和歌子だったが、彼女はこの時点では出演人のなかで一番知名度のあった役者さんに違いない。

ほぼ一話完結の物語の構成と、今なお役者として活躍する大物ゲストが登場したのも見所のひとつだった。
一見優等生風だが、カンニングの天才、確か林という役名で出演したのが、まだ顔中ニキビだらけだった水谷豊だった。10代でバンパイヤという30分枠のテレビドラマの主人公を演じ子役時代から知っていたので一目であのバンパイヤの役者だとわかったが、水谷豊という芸名はこの後かなりの時間を経て知った。
そう、傷だらけの天使出演前の不遇だった時代にゲスト出演した中の一作品が飛び出せ青春の林だった。これは太陽にほえろの記念すべき第一回に出演する更に前の話のはずだ。

その他にも赤塚真人がゲストだった学校荒らしがテーマの回も印象深い。赤塚真人は数多くの青春ドラマに出演後、山田洋次作品や、杉良太郎の時代劇にもしばしば登場したバイプレーヤーなのでその顔を見ればああこんな役者さんがいたなあと納得がいく人も多いだろう。
この話をかいつまんで説明すると、深夜に学校に忍び込み金品を奪う窃盗グループの一人赤塚真人がひょんなことから幼馴染みと偶然出会う。その幼馴染みこそ太陽学園サッカー部の一人で、年長の赤塚を兄のように慕っていたことから自分の家に居候させることを喜んで承諾し、有名大に通うという赤塚の嘘を真に受け、家庭教師まで願い出るという内容だったはずである。なぜそんな細かいディテールにまで覚えがあるのかは、その中で使われたcongratulationという英語の台詞を、ドラマの設定上無学な赤塚が知る由もなく、その発音を説明するのにコングラチラチラチオンといったストーリー展開に思わず吹き出し、強烈に印象に残ったがためだ。
その後英語の授業でcongratulationを習ったときも、あの時のコングラチラチラチオンだと思わずほくそ笑み赤塚真人の顔が浮かんだ。

今思えばこれぞ脚本の妙とでも言えるのかもしれない。飛び出せ青春の脚本は鎌田敏夫が中心で、上記の二作品も鎌田敏夫の脚本とある。俺たちの旅、男女七人夏物語と続く一連の鎌田作品の礎を築いた作品と言っては言いすぎか?

タイトルの冒頭に書いたLet's beginは、河野先生が新人教師として着任の挨拶で開口一番述べる台詞だが、このドラマのメイン・テーマそのものがLet's begin とにかく何かを始めようなのである。

すこしこっぱずかしいのだが、またまた時代錯誤も甚だしい内容に終始したにも関わらず、一人悦に入る自分がいじらしくもある。

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