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【悪い見本も見本ですと揶揄された過去】

前職で、新人の現場研修のあたった折に、ある新人から聞かされた一言がある。「悪い見本も見本ではある」の一言だ。自分に対するある意味痛切な批判には違いないのだが、その言葉を聞いた時の思いをはっきりと記憶するのでここに書き止めたく思う。

 人にものを教えるという行為自体、自分にとって恐れ多い事ではあったのだが、仕事柄持ち回りで新人研修に当たらねばならなかった都合上、不本意ながら引き受けざるを得なかったと記憶する。

 1日の仕事の流れをそこそこではあるが丁寧に、そつなく指導をすすめたつもりの中で、何かの場面で些細なアクシデントに遭遇した折、自分では謙遜のつもりで「人にものを教えたことなど殆どないので、うまく手本が示せず悪い」といったニュアンスの言葉を投げかけた際、当の新人が発した一言が「悪い見本も見本ですから参考にさせてもらいます」だった。

 当時の私の性格から言って、昨日今日入った新人如きに、そんな減らず口を叩かれたら普通なら倍にして言い返したはずだが、何故かその時、怒りの感情より先に「こいつうまいこというなあ、古い言い回しで言えば言い得て妙だ」という感想を抱いた。

 転職して間もなくの研修でその指導に当たる相手に対して、常識から考えればとても口にできる言葉ではないが、さも平然と初対面の相手に対して、はっきりと自分の考えを述べられるその新人が羨ましくもあった。

 慇懃無礼という四字熟語に表されるように、心にもない過度の他人に対する美辞麗句は、時に相手を不快にさせるものだ。それを思えば彼の新人の発言には、思い返す今もつい苦笑いを浮かべてしまう。彼の如何なる心情がその言葉の意味に込められていたのかは今となっては窺い知ることも叶わぬが確かめられるものなら確かめたくもある。

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