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【声劇台本】Ti amo 1:1

◇登場人物◇


 女と同棲してまあまあ経っちゃった男。

 男と同棲してまあまあ経っちゃった女。


男 「アイス食いてえ」

女 「食べればー?」

男 「買ってない」

女 「じゃあ無いね」

男 「……」

女 「てか最近カラス多くない? ゴミ捨て場めっちゃ荒らされてるよね」

男 「……」

女 「ねえ?」

男 「甘いもの! 甘いものが食べたいぃ!」

女 「うるさいなー、買ってないんだからしょうがないでしょ」

男 「食べたいんだからしょうがないだろ」

女 「そんなに食べたいなら買い物行ったときに買えばよかったのに」

男 「いや甘いものって唐突に食べたくなるんだよぉ……あぁぁぁ」

女 「もー、なんかあるんじゃないの……」(立ち上がって冷凍庫をあさる)

男 「あぁ……アイス……せめてゼリー……。甘味(かんみ)、甘味が恋しい……」

女 「…………あ。あったよ」

男 「え、どっち?」

女 「アイス」

男 「っしゃあ! ……チョコじゃない?」

女 「バニラ」

男 「バーニラ! バニラバーニラヒューヒュー!」

女 「なにそれ(笑)」

男 「いや、嬉しすぎてつい……あ、でもそれいつ買ったやつ? めっちゃ氷付いてるけど、賞味期限大丈夫か?」

女 「さあ? 最近買ったやつじゃないのは確かだね」

男 「そういやこのパッケージ、久々に見た気がするな。もう売ってないやつじゃない?」

女 「あの、ほら、CM覚えてない? ”ボクは、アイスを愛す”っていう」(ちょっとかっこつけて言う)

男 「ああー! あの寒いキャッチフレーズの奴か。アイスを愛すって……寒すぎ。アイスだけに」

女 「えー、私は結構好きだったけどなぁ」

男 「まあ、CMに出てる女優さんは可愛かったな」

女 「……」

男 「でもあのCMやってたのってかなり前だよな。えっと製造年月日は……2010年」

女 「10年前? やば」

男 「2010年が10年前っていうのが信じられんな。時が経つのは早いぜ」

女 「丁度ここに引っ越してきた頃じゃない?」

男 「そのくらいだなー。いやさすがに10年住んだらこの家にも飽きてきたよなぁ。最初は綺麗だった家の中も、気づけば物が増えたもんだ」

女 「っていうかたまには掃除してよ。結局私ばっかり片付けてるんだから。服も脱ぎっぱなしだし」

男 「タンスがいっぱいでさ、入りきらないんだよ」

女 「もう着ない服とか捨てたら?」

男 「捨てるのはなぁ……ほら、古着屋とかに持ってけば売れるかも」

女 「じゃあ持っていきなよ」

男 「ああいうのってさ、洗濯してから持ってくの? しわくちゃのヤツ持ってくの恥ずかしいよなぁ……うーん。結構量あるしな……やっぱちょっと面倒だな」

女 「(鼻で笑う)そう言うと思った」

男 「でもこんだけ物あると引っ越しするとき大変だよな。前は小さい軽トラで充分だったけど」

女 「結構おっきいトラック要るね」

男 「そろそろ引っ越したいな……。そういやさ、ここに引っ越してきた頃に、映画見に行ったよな。アレなんだっけ?」

女 「トイストーリー3?」

男 「そうそう! え、あれ10年前かよ。ピンクのクマが出てくるやつだよな?」

女 「そうだよ。え、全然最近だよね」

男 「全然最近だよ。マジかぁ……ショックだわ」

女 「で、結局どうするの?」

男 「え、引っ越し?」

女 「アイス。捨てる?」

男 「うーん……賞味期限は書いてないんだよな」

女 「うん、書いてないね」

男 「あれ? アイスってさ、賞味期限ないんじゃなかったっけ?」

女 「ええ?」

男 「確かそうだよ……(スマホで調べる)ほら、”アイスクリーム類に賞味期限はございません”って書いてある」

女 「へえ、そうなんだ。じゃあ消費期限は?」

男 「ぬっ?」

女 「消費期限の方が重要なんだよね。賞味期限は過ぎても食べていいけど、消費期限は過ぎたら食べないほうがいいの」

男 「消費期限も……書いてねーな。もしかしてアイスって永久に保存できるんじゃ……」

女 「そんなわけないっしょ。なんにだってリミットはあるよ」

男 「じゃあ捨てるか」

女 「……捨てちゃうんだ」

男 「ん? おう」

女 「あんなにアイス食べたいって言ってたくせに」

男 「アイスは食いたいけど、これはちょっとな」

女 「でもさ、考えてみて? ワインは古いほど美味しくて価値が高いんだよ。アイスだっておんなじかもしれないよ」

男 「いやアイスは違うだろ」

女 「同じだよ! 10年だよ? 貴重な時間だよ? 10年間もずっと一緒だったんだよ。なのにその味も確かめずに捨てちゃうわけ? それってあんまりじゃない!?」

男 「いや……え……?」

女 「食べて」

男 「急にどうした」

女 「食べてよ」

男 「もう美味しくないんじゃない? 一応乳製品だし、ハラ壊すかもしんねーしさ」

女 「……じゃあ捨てたら。せっかく大好きなアイス見つけたのにね。あーあもったいない」

男 「だったらお前が食えよ」

女 「私はもう……」

男 「え?」

女 「なんでもない」

男 「…………はぁ、ちょっと出かけてくるわ」

女 「どこ行くの?」

男 「タバコ」

 男、出ていく。

女 「…………」

 女、アイスのカップを掴み、窓を開ける。

女 「ばかぁーーーっ!!」

 女、勢いよくアイスのカップを投げ捨てる。

女 「もう、10年だよ……」

 女の回想。

女 「アイス買ってきたよー」

男 「おっ、それ最近テレビでやってるやつじゃん。”ボクは、アイスを愛す”」(CMセリフはカッコつけて!)

女 「似てなーい(笑) これCM見て気になってたんだー。”Ti amo(ティアーモ)”」

男 「ティアーモって変わった名前だよな。英語?」

女 「ノンノン。ボンジョルノー♪」

男 「あ?」

女 「今のがヒント」

男 「ボンジュール。フランス語ね」

女 「ブー。ボンジョルノとボンジュールは言語が違うよ」

男 「え!? そうなの? ボンジョルノってボンジュールの言い方変えただけかと思ってた……。ボンジョルノ……? うーん……」

女 「ブブー時間切れ。答えはイタリア語でしたー」

男 「わかんねえって」

 二人、笑いあう。回想終わり。

男 「ただいま」

女 「……ねえ。話、あるんだけどさ。ちょっと真面目な話」

男 「後でもいいか?」

女 「いま。いまじゃないとダメ」

男 「……じゃあ俺も話あるから、先に話してもいいか?」

女 「(ため息)……どうぞ」

男 「アイス買ってきたけど、要る?」

女 「いらない」

男 「あそう」

 女、こみ上げてくる気持ちを抑えきれず。

女 「……ごめんやっぱ無理。もう無理! もう待てない! 10年待ったよ? お互い30超えたし、色々オーバーしてるんだよ。白髪もね? 最近よく見つけるようになったし……シミとか、色々増えてきちゃったし……。ずっとこのままなんとなくってのはさ……駄目じゃん。人間にだって賞味期限あるじゃん! 結婚もしたいし、子供だって欲しいし、将来のこと考えたらさぁ!」

男 「……」

女 「そりゃ好きだけど……一緒に居て楽しいけど……それだけじゃ駄目じゃん! ねえ? だから…………私と……」

男 「お、おい」

女 「私と……別れてください。10年間ありがとうございました」

 女、泣いている。

男 「ちょっと待て」

女 「もう無理……! ごめん!!」

 女、出ていこうとする。

男 「ちょっと待てって! 俺の話も聞けよ!」

女 「……」

男 「……ティアーモ」

女 「……!」

男 「やっぱりあの約束、覚えてたんだな」

女 「……思い出したんだ?」

男 「ああ。さっきまですっかり忘れてた。すまん」

女 「……いまさら」

男 「(遮って)でも俺は! 約束の返事はずっと前にしたつもりだったんだ」

女 「……意味わかんない」

男 「確かに遅かったかもしれないけど……お前カップの中見てなかっただろ?」

女 「だって重かったもん。中身減ってない」

男 「それはたぶん……中身のせいだ」

女 「……??」

男 「だから、ティアーモを、あのアイスを半分こして、二人が食べたら……結婚するって約束だったろ」

女 「そうだよ。だから私、半分食べてずっと待ってたんだよ……。でもいつ見ても、中身は残ったままだった」

男 「最後にフタを開けてみたのはいつだ?」

女 「覚えてない」

男 「そっか……。俺が返事をしたのは、アイスを買って半年位経った頃だ」

女 「……! じゃ、じゃあなんで今まで何も言ってくれなかったの?」

男 「いや、言葉で言ったらこの約束の意味無いだろ。アイスを食べることが返事なんだからさ。だからお前が気づくのを待とうって思って……そしたらまあ、すっかり忘れてたってわけ」

女 「なにそれ……」

男 「いやほんと、カンペキに忘れてたな。10年あっため続けた……いや、冷やし続けた返事か、はは」

女 「笑えない……全然笑えないよ!」

男 「ごめん」

女 「……返事をしたってことは、食べたんだよね?」

男 「そうだよ」

女 「じゃあなんで重いの」

男 「それは……だから……」

 男、急に歯切れが悪くなる。

女 「何よ?」

男 「だから……その……」

女 「はっきり言って」

男 「カップの中に……入れたんだよ」

女 「何を」

男 「……指輪」

女 「え?」

男 「指輪だよ。婚約指輪! 返事が遅くなったのは、腹をくくるのと指輪を買う金を貯めるのに時間がかかったからなの!」

女 「嘘……」

男 「嘘じゃねえ。フタ開けてみりゃわかるだろ」

女 「……」

男 「……なんだよ? あれ、ティアーモは?」

女 「……外……」

男 「外?」

女 「投げちゃった。思いっきり」

男 「何ぃ!?」

女 「だって! 中に指輪が入ってるなんて知らないもん!」

男 「だからってなんで外に投げんだよ! ゴミ箱に捨てんだろ普通!」

女 「だ、だって! ムカついたんだもん!! 外に投げ捨てでもしなきゃ気持ちが収まらなかったの!」

男 「最悪……」

女 「こっちがサイアク! あのね、今まで私がどんな気持ちで待ってたかわかる? さっきどんな気持ちで冷凍庫からアイス出して来たかわかってる!?」

男 「だからそれは悪かったって言ってるだろ!」

女 「はあ? ねえ何で逆切れ? ありえないんだけど」

男 「すいませんでした」

女 「全っ然心がこもってないね」

男 「はいはい……反省してまーす」

女 「それは反省してる言い方じゃないよねえ! 普通さ、待ち合わせに1時間遅刻してきたら謝り倒すよね? キミは10年遅刻して来たの。すいませんで済んだら警察いらないってレベルを超えて、今後一生私の言うことを聞かなきゃいけないレベルなんですけど!」

男 「食うんじゃなかった……」

女 「なんか言った?(怒)」

男 「いえ別に……あっ! てか指輪! 早く取りに行かねーと誰かに拾われて持ってかれるかもしんねーぞ! カラスとか!」

女 「ハッ! だめーーっ! それは私の指輪ぁーーーーっ!!」

 女、あわてて家を飛び出す。

男 「……10年か……。まだ指のサイズ、変わってないよな?」

 おわり。

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