【声劇台本】蟹と魚のハッピー占い 1:1
◆登場人物◆
男
占いは信じないタイプ。
女
良い結果の占いは信じたいタイプ。
朝のテレビ番組が流れている。
女 「最っ悪……」
女がリモコンのボタンを乱暴気味に押す。
男 「なんでテレビ消したの?」
女 「今日の蟹座最下位だった……はぁ……病む……」
男 「たかが占いでぇ(笑) うお座は?」
女 「……2位」
男 「2位かぁ」
女 「なにその反応。嬉しくないの?」
男 「いや別に」
女 「最下位の私からしたら2位でも超~羨ましいんですけど」
男 「あいにく占いで一喜一憂できるほどピュアじゃないんで」
女 「この番組の占いは、当たるって評判なんだからね」
男 「ふうん。誰が占ってんの?」
女 「ペッパーズ矢嶋」
男 「誰だよ」
女 「最近テレビでよく見るよ。変な仮面付けてる、ちょっと怪しい感じの人」
男 「全く知らねえ……てか占いとか見んのやめたら?」
女 「でももし1位だったら、見逃したら勿体無いし……」
男 「逆に下の方だったら気分悪くなるだけだろ。つまりプラマイゼロ。つーかそもそも占いなんてテレビで流すなよなぁ」
女 「なんで?」
男 「だって嘘言ってんだぜ? ナニナニ座のあなたは、今日は一日ナントカでしょう~とかさ。なに勝手に決めてんのって感じじゃない?」
女 「いいの。別に嘘でも。悪い結果のときはすぐ消すし」
男 「ずりぃ」
女 「うるさいな。私だってそこまで占い信じてるわけじゃないけど、なんとなく……今日一日を過ごすための指針が欲しいの。ついでにハッピーになれればラッキーってだけ」
男 「ふうん」
女 「あ! そんな事より、私のイヤリング知らない?」
男 「イヤリング? どんな?」
女 「(探しながら)お気に入りの! ピンクの石のやつ! あぁ~無い~!」
男 「そういや最近見てねーな」
女 「って、やばっ! もうこんな時間!? いいや、じゃあ私行くから!」
男 「気をつけてな」
女 「ハァ……いいよね在宅は」
男 「パソコンあればどこでもできる仕事だからな」
女 「いいなぁ……。いってきます」
男 「いってらっしゃい」
女、仕事に出かけていく。
男 「占い、か……」
・・・夜。女が帰宅する。
女 「疲れたぁ……」
男 「お疲れ。今日は忙しかった?」
女 「まあね。忙しさは普通だったけど、最後に電話かけて来た客が最悪でさ、超クレーマー。よくあんな叫べるねって感じ」
男 「お互いカメラ付けて対面にすりゃいいのにな。客も自分の顔晒せば無茶な態度とらないだろ」
女 「対面はこっちが嫌だな。顔覚えられても嫌だし」
男 「あー」
女 「対面にしたらしたで別の問題が起きそう。見た目で態度変えたりさ」
男 「それもそうか。セクハラとかな」
女 「キモーい! 絶対無理」
男 「……そういやさ、話変わるんだけど……これ、お前の好きそうなアプリ見つけたんだけど」
男、スマホの画面を見せる。
女 「なにこれ?」
男 「占いアプリ。めちゃくちゃ当たるって評判らしい」
女 「へえ。インストールしたの?」
男 「うん」
女 「占い、嫌いなクセに?」
男 「あ、あんまり評判良いから、ちょっと気になったんだよ」
女 「ふーん……で、どうなの? 当たった?」
男 「まあ……結構当たってる」
女 「へぇ。私も占ってよ」
男 「あ、これ登録した自分しか占えないからさ。お前のスマホにもインストールしてやるよ」
女からスマホを受け取り、インストールする。
男 「ほい」
女 「あー、最初に色々登録しないといけないんだ」
男 「ここでちゃんと情報入れないと、正確な結果が出ないんだよ」
女 「うん。ちょっと疲れたから今はいいよ。私さきにお風呂入ってくるね」
男 「……ああ。メシは?」
女 「買って来た。お皿にあけて並べといてくれる?」
男 「ん」
・・・翌朝。
女 「最悪。ありえない」
男 「今度はどうした?」
女 「11位。最下位の一個上」
男 「あらら」
女 「ねえ、このペッパーズ矢嶋って人、なに考えてんの? かに座に恨みでもあんのかな! 二日連続でこんな悪い結果にする?」
男 「まあ、占った結果なんだろ」
女 「はぁ……イヤリングも見つからないままだし」
男 「そのうち出てくるって」
女 「またクレーマーから電話かかってくるかも……病むぅ……」
男 「この番組見てる人間が何人居ると思ってんだよ。そりゃ誰かには当たるかもしんねーけど」
女 「……」
男 「お前個人を占った結果じゃない。だろ? その点昨日の占いアプリは──」
女 「あ! そろそろ出ないと! 今日は走りたくない~! 行ってくるね」
男 「あ、おう……いってらっしゃい」
女、あわただしく出ていく。
男 「…………」
・・・3時間後。男のスマホに通知が届く。
男 「お? やっとかよ」
<セバスちゃん さんの登録が完了しました>
男 「セバスちゃんて……執事かお前は」
男 (N)「俺の仕事はプログラマーだ。もちろんスマホ向けのアプリを作ることもある。俺の手にかかれば、占いアプリを作るなんて朝飯前ってわけだ。でも、こいつはただの占いアプリじゃない。いや、占いアプリですらない。単純な受信専用のメッセージアプリだ。もちろん見た目はそれっぽくしてあるが、実際には俺の打ち込んだ文章を占い結果として、アイツのスマホが受信できるようになっている」
女、会社の休憩室でスマホをいじっている。
女 「えっと……より正確に占うために以下の情報を入力してください……ふんふん」
男のスマホにまた通知が届く。
男 「来たな。どれどれ……」
女 「7月7日生まれ、蟹座、性別女っと。あなたの願い……あなたの願い? そんなのも入力するんだ」
男 「……」
・・・夜。女が帰宅する。
男 「おかえり。今日はどうだった?」
女 「ヤバい」
男 「やばい? やばいって何が?」
女 「これ見て」
男 「ああ、昨日のアプリな。使ってみた?」
女 「使った」
男 「当たった?」
女 「ヤバい」
男 「ヤバい以外の語彙は無いのか」
女 「ヤバいくらい、当たってる」
男 「え?」
女 「今日、お昼休みに占ってみたの。そしたら……この結果が出たの」
男 「見せて。……今日のラッキーカラーはベージュ。ラッキーアイテムは茶色のバッグ。探しものが見つかりそうな予感……」
女 「で、これ見て」
男 「お? イヤリング見つかったのか。良かったな」
女 「私、今日ベージュのコート着てったでしょ? で、茶色のバッグ」
男 「うお……!」
女 「バッグの中にあったの! イヤリング!」
男 「おおお~」
女 「このアプリすごくない? ヤバいよ~!」
男 (……まあ、ソファの隙間に落ちてたのを見つけて俺が入れたんだけどな)
女 「誰が占ってんだろ……(アプリをいじる)ソルティ鮎川……? 聞いたことない名前ね」
男 「……」
女 「まあいっか。明日も良い占いになりますよーに」
男 「なんだそれ(笑)占い経由する必要ねえし。明日も良いことありますように、でいいだろ」
女 「いいのー。どっちも一緒だもん」
男 (N)「占いなんて真っ赤な嘘だ。でも知らない誰かのついた嘘でヘコむくらいなら。俺が……ソルティ鮎川がハッピーに変えてやる」
──翌朝。
女 「じゃあ、行ってくるね」
男 「あれ、今日は見て行かねえの? 占いコーナー」
女 「うん。アプリで見るからいい」
男 「そっか」
女 「あ……今日のぶんの更新まだだ。遅くない? いつも何時更新なんだろ」
男 「さあなぁ……昼までには更新されるだろ」
女 「今日の占い見てから服とか決めようと思ったのになー」
男 「……」
女が出かけたのを見送り、パソコンに文字を打ち込んで行く男。
男 「蟹座のあなたの今日の運勢は……大吉。ラッキーアイテムは……」
・・・
女 「ただいまー。疲れたぁー」
男 「おかえり」
女 「今日またあのクレーマーから電話かかってきてさー、営業時間終了だって言ってるのに電話切ろうとしないし、ほんと最悪。ほんと疲れた~」
男 「こっちから切ってやればいいんだよ」
女 「上司が切電許可出してくんないんだもん……あー疲れた。疲れたしか言葉出ないぃ」
男 「お疲れさん。あ、そうだ。冷蔵庫にお土産入ってるから」
女 「おみやげ?」
男 「前に食べたいって言ってた、ハニーメイドのシュークリーム」
女 「えーっ!!(冷蔵庫を開ける)本当だ! 嬉しーい! でもなんで急に?」
男 「たまたま売ってたからさ。平日で人も並んでなかったし」
女 「ありがとー! ……あっ!?」
男 「どうした?」
女 「やっぱり当たってる! 今日の占いでね、嬉しいサプライズの予感って出てたの!」
男 「まじかよ。すげーな、ソルティ鮎川」
女 「うん! ホントすごいよー」
──次の日。
男 「今日はどうしたもんか……毎日良い結果ってのも変だよな。うーん……たまには悪い事も書いたほうがリアルか」
男、キーボードを打ち始めた手を止める。
男 「いや、これじゃテレビの占いと変わんねー。これは、アイツの為のハッピー占いなんだ」
女 「今日の占い、そろそろ更新されてるかな~♪」
男 「蟹座のあなたの今日の運勢は……やっぱり大吉」
──一ヶ月後。
女 「おはよう。朝ごはん作ったから、食べといてね」
男 「ふわぁ~あ……さんきゅ」
女 「じゃあ、行ってくるねっ」
男 「おう。行ってら。気を付けてな」
女、出かける。
男 「最近元気だなアイツ……ま、これも俺の”占い”のおかげか。うんうん」
しばらくして、男のスマホに通知が入る。
男 「お? ……なんだこりゃ……」
女 『ユーザーからのレビューが届きました』
男 「あぁ、そういやそんな機能もあったな。なになに……」
女 『正直言ってこのアプリ、全然使えないです』
男 「は?」
女 『毎日同じ結果しか出ません。そのくせ更新時間にバラツキがあり非常に使いづらいです。製作者は一度でも自分で使ってみたのでしょうか? もう少しマトモなプログラマーを雇ったほうがいいと思うので、星1です』
男 「はぁ!? これはそういうアプリなんだよ! つーか毎日大吉で何が不満なんだよこのっ……セバスちゃんのクセに! クソっ!」
女 「どうしてその名前を知ってるのかな?」
女が少しだけ開いた玄関扉から覗いている。
男 「え! あれ!? お前、し、仕事は!?」
女 「今日は有給でお休み」
男 「へ? じゃあなんで出掛けたんだよ?」
女 「これから出掛けるの。ほら、上着着て、靴履いて」
男 「ちょ、待てって! オレ、髪の毛ボサボサだし!」
女 「帽子被れば問題なし! ほら、行くよっ」
男 「お、おい!」
・・・
男 「どこに行くんだよ」
女 「黙ってついてくる」
男 「……」
しばらく歩いて、目的地と思われる場所に着いた。
女 「とうちゃーく」
男 「って、神社……?」
女 「……願い事ってね、人に教えると叶わないんだって、知ってた?」
男 「!」
女 「人の願い事を許可なく知ろうとした狼藉者が居るんだよね……」
男 「……」
女 「おみくじ引こ」
男 「……え?」
ガラガラガラ……男が六角形の金属箱を振り、棒が出てくる。
女 「よし。おみくじ貰ってきてあげるから、ここで待ってて」
男 「お、おう」
女、社務所に行って戻ってくる。
女 「はい、これ。どんな運勢かなぁ」
男 「……」
男がミニサイズの巻物のようなおみくじを、くるくると開いていく。
女 「読んでみてよ」
男 「健康……朝食抜くべからず。野菜をよく摂るべし。仕事……よき。その調子でがんばれ。金銭……ギャンブル借り入れ、もってのほか。堅実に貯金すべし。恋愛……汝の隣人をもっと愛せ」
女 「やったじゃん」
男 「なんだこれは」
女 「何って、おみくじですけど?」
男 「ほぉ……神社のおみくじってのは一枚一枚手書きなのか。大変だな」
女 「ほんと、お正月とか大変だよねぇ?」
男 「……」
女 「……」
男 「なわけねーだろ! つかせめてこれ、誤字はグシャグシャってするんじゃなくてちゃんと書き直せよ!」
女 「もう! 細かい事は良いでしょ」
男 「しかもこの運勢……何だ? 大極上上吉(だいごくじょうじょうきち)?」
女 「吉の最上級だし」
男 「なんじゃそりゃ、聞いたことねえわ」
女 「本当にあるもん。ほら」
女、スマホの検索結果を見せる。
男 「え、マジであんの……?」
女 「この上ない最高にめでたい運勢だよ。良かったね」
男 「その割には貯金とか、書いてる事は大したことなかったけどな」
女 「細かいなぁ。現実はそんなもんなの! 急にお金が降ってくるわけないんだから」
男 「……結構悩むだろ? 現実的な範囲で幸運を考えるの」
女 「……そうだね。でも、ソルティ鮎川さんは30日分考えてくれたけどね」
男 「アホだなそいつ」
女 「ほんと。2、3回同じ内容の時もあったよ」
男 「あれっ? マジか……」
女 「ふふふ。でも、占い通りのハッピーな毎日だったよ。ありがとう」
男 「……」
男、照れてそっぽを向く。
女 「ソルティ鮎川はすごい占い師だよ。これから売れるね」
男 「占い師は大変なんだぞ」
女 「ねえ、ペッパーズ矢嶋みたいに仮面つける? さっき社務所でキツネのお面売ってたよ」
男 「いらねー」
女 「えー? 似合うと思うけどなぁ」
おわり。
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