熟した果実
大切なものは目に見えません
こころ
この世にうまれ出たときから
常に脈動し続ける胸の臓物が
目の前三十センチ四方の空気を
ぶるぶるとゆらす
脳内に搭載した顕微鏡を使って
その複雑な動きを分析する
入り乱れる感情が生むのは
滝のように雪崩落ちる罵詈雑言
幼い頃にはピンク色していた心のひだが
自分でも気づかぬうちに
怒りや苛立ちや焦りで
能面のようにツルンとしてきた今日この頃
誰かの感情のつぶてがすりぬけてゆく
かつてより美しくなくなった世の中にあらがい
わたしは自分史を再構築しようとする
老眼鏡が手放せなくなったわたし
歩くために杖が必要になったわたし
今よりほんの少し優しくなった社会を
先の未来に期待するけれども
わたしはわたし
庭先で熟した無花果の収穫時がわからない
縁側で座ってひとり考え込むわたし
もいで持ってきたのは隣家に住む少年だった
ありがとう
とどめを刺してくれて
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