隠したほうがいい感情

先日身内のこどもと共にデパートに行く機会があった。子の母親が乳児を抱っこして、私ともう1人でベビーカーを持ちながら5段ほどの小さな階段を降りているときに、ベビーカーの側面の部品の噛み合わせが外れて不安定な状態になってしまった。(あとで乳児の母親に確認したら、運ぶときに外れやすいのでよく組み直す部分だということだった。折れたり破損した訳ではなく、組み合わせている筒状の部品が分解されただけ。ベビーカーを押して使っている場合は安定しているが、折り畳まずに宙に浮かせて運んだ場合不安定な状態だと外れやすい部分なのだと思う。)
階段の途中で不安定なベビーカーに気づいて「あ！」と、私が同行者に伝えたとき、後ろにいた見知らぬ中年男性は、部品がパカッと外れたところを見て笑っていた。私は驚いたが、ここで立ち止まっては後ろの人に迷惑になると思ってそのまま階段を降りたところの隅まで同行者を誘導した。
私の同行者は笑っていた中年男性を見ていないし、そのときはベビーカーを直して目的地まで行くのに集中していたのでわざわざ言わなかったが、運んでいるベビーカーの部品がパカッと外れて宙ぶらりんになったところってそんなに面白い？と、今でも不思議に感じる。
私も、笑いのツボを他人と共有できないときがあるけれど、やっぱり余裕や油断がないと知らない人の困った様子を見て笑ったりできないよなぁと思うのだ。「大変ですね」と言って焦らせずに待つ姿勢を見せるとか微笑ましく見守るというわけでもなく、あの瞬間「ぷっ」と、吹き出した感じだった。
実際自分の子を抱えていたらそんな中年男性のことなんかいちいち気にしていられないだろうけど、ベビーカーの片側を運んでいた私はその中年男性が後ろで吹き出したことを思い返すと今でも不快。オフモードで油断していて目の前で起こったことにうっかり吹き出してしまった、こども心を持つただの中年男性なのかしら…最近若者が高齢者に舌打ちされたとか理不尽な説教をされたとかの投稿を見かけたので(noteではない媒体)、それよりはただ通り過ぎただけだからずっとマシなのだと思う。駅の段差とか公園とか地域に根ざした場所だったらもっと配慮してほしいと思うけれど、デパートはそこまで不要不急の外出先とは言えない場合が多いから、あくまでも利用者自身かデパート側が配慮すべきと言われてしまうだろうな。
でも、あの場でベビーカーを見てぷっと吹き出した中年男性は、私か同行者が強面でガタイの良い人間だったらきっとうっかり私に聞こえるぐらいの声で吹き出したりしなかっただろうと思えてしまうところが今でも私が腹を立てているポイントなのかもしれない。うっかり笑ってしまったなら「ベビーカー、そうなることよくありますよね」ぐらい取り繕って言えるかと思うが、困っている人や慌てている人に対してどういう反応をするのかはこれからもあの中年男性自身が決めることだし、この私情も隠しておいた方が無用な争いを避けられるのだろう。
ただ吹き出して去っていったあの男性は、きっと自分にはとおく無関係な出来事だと感じているんだろうな。