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「じっちゃんの かけら」

おれのきらいなもの。

 ピーマン(口の中が青くさくなる)。

注射(いたい)。

それからじっちゃん。

 じっちゃんは、やくそくをやぶったから、おれは大きらいだ。

 春になったら、いっしょに花見に行こうなっていったのに。

屋台のリンゴアメも、焼きそばも、タイヤキだってかってくれるっていったのに、じっちゃんは、おれにさよならもいわずに死んじゃった。

 

じっちゃんなんかきらいだって、おれがいうと

 「じっちゃんはな、見えなくても、とうちゃんやおさむの心の中にちゃんといるんだぞ」

 って、とうちゃんがいった。

 

「とうちゃん、心って、どこにあるんだ?」

 おれがきいたら、とうちゃんは

 「心っていうのは、ここにあるんだぞ」

 って、シャッのポケットのところをポンポンとたたいた。

そんなのうそだ。そんなところに、じっちゃんはいない。

 

とうちゃんも、かあちゃんも、それにじっちゃんも、みーんなうそつきだから、だい、だい、だーいきらいだ。

 

でも、ほんとは、おれ、じっちゃんに会いたい。

 なぁじっちゃん、天国なんかにいないで、おれとゲンタのところにもどってきてよ。

 

「おさむ、釣りに行こう」

 ゲンタといっしょに空を見てたら、とうちゃんが、おれの手をひっぱった。

 釣りなんておもしろくない。とうちゃんひとりでやればいいんだ。

 

おれが、土手の草をめちゃくちゃひきちぎってるのに、とうちゃんのやつ、まだ釣りをしてる。

 ちぇっ、つまんないの。

 とうちゃんにむかって、あっかんべーをしてやったら、とうちゃんの背中がモゾモゾッとうごいた。

 あれっ?とうちゃんの背中って、じっちゃんにそっくりだ。

 

「とうちゃんってさ、じっちゃんににてるな」

 おれがいうと、とうちゃんは

 「そりゃそうだ。とうちゃんの中に、じっちゃんのカケラが流れてるからな」

 っていった。じっちゃんのカケラってなんだ?

 

このとき、釣り糸がピーンとはった。

 「おっ、かかったぞ。おさむ、大物だ」

 とうちゃんといっしょに、力いっぱい釣りざおをひくと、

おれ、りきみすぎて、プップッ プププププゥー プッと、オナラがでちゃった。

 

「アハハハ。おさむは、じっちゃんとそっくりなオナラをするなぁ」

 とうちゃんが、笑ってる。

 

「おれのオナラ、じっちゃんにそっくりか?」

 「ああ、それにへの字まゆげもな。

おさむにも、じっちゃんのカケラが流れてるんだなぁ」

 

とうちゃん、今度は泣きそうな顔になった。

 

おれの中にも、じっちゃんのカケラがあるのか?

じっちゃんって見えないけど、いろんなところにいるのか?

 

家にかえると、かあちゃんが、ジュウジュウとお好み焼きをやいていた。

 「なあ、かあちゃん。かあちゃんにも、じっちゃんのカケラがある?」

 「じっちゃんのカケラって、なんのこと?」

 かあちゃんがきいたから、おれは、とうちゃんがいったことを教えてやった。

 

「うーん、かあちゃんの中には流れていないけど、そのかわりじっちゃんに、いろんなことを教えてもらったんだよ」

 「なにを教えてもらった?」

 「梅ぼしのつけかたを、教えてもらったし・・」

 うん、じっちゃんの梅ぼしは、すっぱいけど、めちゃくちゃうまいんだ。

 

「花の育てかたも、教えてもらったし・・」

 うん、じっちゃんって、花咲かじいさんみたいだったしな。

 

「泣き虫だったおさむの上手なあやしかたを教えてくれたのも、じっちゃんだったんだよ」

 じっちゃんは、おれが泣きそうになると、いつもおもしろい顔をして笑わせてくれた。

 

かあちゃんも、泣きそうな顔をしてる。おれは鼻のおくが、つーんといたくなった

 

「なあ、かあちゃん。じっちゃんは、なんでさよならっていってくれなかったんだ?」

「じっちゃんだって、きっとなかよしだったおさむに、さよならっていいたかったけど、きゅうにたおれたから、さよならっていう時間なんてなかったんだよ」

 

かあちゃんが、お好み焼きを三角にきってくれた。

おれのすきなぶた肉いりだ。おれは、ぱくってひとくちでたべた。

 

「これ、じっちゃんがやいてくれたのと、おんなじ味だ」

 「じっちゃんのカケラを、かあちゃんももらったから、おんなじ味なんだね」

 

「じっちゃんのカケラ、ここにもあったのか」

 

おれ、お好み焼きをめちゃくちゃいっぱいたべたから、おなかがはちきれそうになった。

 ゴロンとねころぶと、庭にさいてるピンク色のコスモスが見えた。

あれって、おれがじっちゃんといっしょに、タネをまいたやつだ。

 

カラカラカラって、モグラよけの風車がまわってる。

あれは、ペットボトルでじっちゃんがつくったやつだ。

 

ゲンタの小屋、おれのおもちゃばこ、植木鉢のたなも、じっちゃんがつくったんだ。

それにおれの手くらい大きなキクの花だって、じいちゃんがそだてたんだ。

 

これって、みんなじっちゃんのカケラなのかなぁ?

 

「じっちゃん!じっちゃん!じっちゃん!」

 

って大声でよんだら、カラカラカラって、風車が返事をしてくれた。

 

なんだか、あっちこっちに、じっちゃんが、かくれているみたいだ。

 

ちぇっ、しかたないなぁ、カケラをたくさんのこしていったから、じっちゃん、やくそくやぶったことを、ゆるしてやるよ。

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