見出し画像

ラブホテルを見上げる夜

こんばんは。今日もお疲れさまでした。

20代の前半、私はスモーカーでした。ランチの後は必ずタバコを喫い、肺の中を煙でいっぱいにして仕事に戻る日々でした。そのバイト先はみんな仲が良く、スモーカーの5つ以上歳の離れた男性たちがランチに連れていってくれる事もよくありました。

私たちは、つけ麺を食べたり、狭い店で肩を寄せ合って定食を食べたりした後、いつも決まった場所でタバコを吸いました。

それは、ラブホテルの前の路地でした。携帯灰皿を片手に持ち、私たちはタバコを吸いました。「何故ここでタバコを吸うんですか?」不思議がる私に、彼らは口を揃えて言いました。「ここが一番面白いからだよ」

平日昼間のラブホテルは、中年のカップル、若いカップル、ひとりの女の子、ひとりの男性、車の横付けなど、色々なことが待っていました。すぐに出てくる人もいれば、全く出てこない人もいます。私は、年上の彼らの話を大人しく聞いていました。

「ほら、今ひとりで女性が入ってすぐ出てきたろ?チェンジだな。かわいいのに」

そこには、私の知らないことが沢山起こっていました。料金表がついた壁の向こうにその世界はひっそりと広がっていたのです。

夜になり、その場所を通ると、昼間に見るより、赤い妖しさを感じました。聞こえはしないし、光が漏れ出る訳でもないのに、そこでは何かが行われている事をより感じられる気がしたのです。

料金表の壁に消えていく女性の顔も、心なしか心構えが違うような気がします。何かを覚悟して入っていく彼女たちは、カッコ良いようでもあり、覗いてはいけない顔だったようにも感じます。

残業してラーメンを食べにいっても、彼らは夜ここでタバコを吸おうとは言いませんでした。そして、それは当たり前の事のようでもありました。夜のあの場所は、何故か秘密を持った場所でした。

ラブホテルに入る度、私はあの頃の私たちを探します。でも、そんな無粋な人はいません。スモーカーが少なくなったからでしょうか?私たちは、いつもあの場所で窓が開いたら面白いと思っていました。窓を開ける私と目が合ったら、手を振り返してくれるでしょうか?

おやすみなさい。

サポートありがとうございます。いただいたサポートは、他の応援したい方へのサポートや、女性やお子さんを応援する機関への寄付に当てさせていただきます。