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諏訪敦「眼窩裏の火事」(府中市美術館)の感想

昨年末、府中市美術館を訪れた際に展示の予告を見て以来、観に行きたいと思っていた展示がこちら。

諏訪敦さんは現代写実絵画のトップランナーと評される作家のようだ。氏の作品を初めて見た一個人としては、まず静物画の展示に圧倒された。ひと目見ただけでは写真か絵画なのか判別できない程の緻密さで描かれた作品が並び、両目がミシンの針のように平面上をゆっくり縫って何度も往復していた。

一般的な絵画は、どれほど写実的であっても陰影や塗りむらを見て無意識的に「絵画らしさ」が感じられ、自然と絵を観る姿勢になと思うが、今回の展示に関しては間近まで近づかないと写真か絵画なのか判別できず(もちろん絵画作品の展示なので絵画であるに決まっているのだが、感覚的な話)、絵を見ている間中、自分の認知の深いところでは何をもとに絵画と写真の違いを区別しているのかを考え続けていた。こうした感触は、去年ゲルハルト・リヒターの写実的な作品を観たときにもなく、極めて写実性が高い氏の作品だからこそ感じられることだと思う。

また、個人的には描き込みの量が多い作品ほど、その制作にかかった時間が推測され、作家の執念や執拗さのようなものが感じられるのだが、圧倒的な描き込みで作られているこれらの作品からは不思議とそういった感情は感じられなかった。まるで最初から完成されているかのような静謐さが漂っており、それは恐らくシャッターを一回切った瞬間に一枚の画ができあがる写真のプロセスが背景にあるように錯覚してしまうからのように思われた。

写真家作者自身が苦しめられているという閃輝暗点の描き込みがあることで、単に写実的なだけではなく、作者の主観的なまぼろしを追体験することができた。

また、これまでは写実性を強調した感想を書いてきたが作者は昨今写実性から離れた作品も制作しているらしく、そうした狙いが伝わる作品も多かったがそれについてはまた改めて書きたい。

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