【読書メモ】「忌中」車谷長吉

西村賢太以前に私小説といえばこの人だったのではという印象がある作家。

しっとりとして遣る瀬ない「古墳の話」が好き。青春時代に淡い感情を抱いた相手をむごい事件で突然失う話。感情表現が抑えめで、時おり使われる断定口調に主人公 ≒ 筆者の強い拒絶の意思が表れており、新聞投書欄のような淡々としつつも生々しい描写が物語の切実さを増している。終盤、唐突に全文掲載される追悼の祝詞が、スクラップブックに切り抜いた記事を乱暴に貼り付けたような狂気じみた効果をもたらしていて、特に印象に残っている。

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