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中条遺跡 土偶A 30:弁財天の縁日

縦に長く広がっている刈谷市の中部と南部を分ける猿渡川(さわたりがわ)の南側に位置する野田資料館に向かったのは7月の下旬のことでした。

●中条遺跡 土偶A

北側から野田資料館に向かおうとすると、石鳥居をくぐるしかなかった。
鳥居はあるものの、一般道のようなので、愛車に乗ったまま鳥居をくぐって、南南西に向かうと、30m以内で、左手にある野田資料館の前に出た。
ただし、野田資料館は月3日間の午前中しか開館していないことが判った。
地元の人でないと観る時間は無さそうだ。
資料館の前に愛車を駐めて、くぐってきた鳥居の主を探すと、西40mあたりに、さっきくぐってきたのと同じ規格の石造八幡鳥居があった。
石造八幡鳥居のすぐ奥には拝殿らしき社殿があり、資料館はこの神社内に存在していることが判ってきた。
かなり大きな神社であることも判ってきた。
龍蛇神が祀られている可能性もあったので、参拝していくことにして、まずは拝殿らしき社殿から真南に一直線に延びる表参道を辿って、社頭を見に行くことにした。
現在の社頭は石造八幡鳥居から180m以上南にあり、表参道を横切っている一般道に面して、やはり同じ規格の石造八幡鳥居があった。

1野田八幡宮社頭

これが一ノ鳥居らしかった。
一ノ鳥居の外側に出てやってきた表参道を振り返ると、暗い参道が一直線に奥に延びている。
鳥居の社頭学にも、脇の社号標にも「野田八幡宮」とある。
さらに、鳥居に向かって右側の生垣の中には巨石が置いてあり、白く「今留の森(いまるのもり)」とペイントされている。
今留の森とは野田八幡宮の森のことで、教育委員会制作の案内書によれば、現在もそう呼ばれているというのだが、「今留」の意味に関する情報は見当たらない。
『参河国神名帳(みかわこくしんめいちょう)』に「正四位下 伊麻留明神(いまるみょうじん) 坐碧海郡」とあり、この伊麻留明神が野田八幡宮のこととみられている。

ところで、参道は一ノ鳥居から一般道を横切って、さらに南に延びている。
その荒れた参道をさらに辿ると、40m以上先で幹線道路に出た。
この本来の社頭には車止めの石柱が2本立っているのみだった。

1A野田八幡宮社頭社頭

しかし、この場所の方が現在の社頭より「今留の森」の雰囲気が強い。
ここに至って、最初に愛車に乗ってくぐり抜けた鳥居は脇参道の鳥居で、
社殿前の鳥居は三ノ鳥居だったことが判ってきた。

1MAP野田八幡宮社頭

辿ってきた表参道を戻り、一ノ鳥居をぐぐり、60mあまり進むと、さっきもくぐった銅板葺の笠木を持つ朱塗りの両部鳥居の前に出た。

2野田八幡宮二ノ鳥居

この神社で唯一、ハレの雰囲気を振りまく建造物だ。
これが二ノ鳥居。

二ノ鳥居をくぐって、さらに70m以内で開けた場所に出たが、広場の先60m以内奥正面に、社殿前の三ノ鳥居があった。

3野田八幡宮三ノ鳥居

三ノ鳥居の両袖には玉垣が延びており、鳥居前には一対の狛犬が睨みを効かせている。
野田資料館はこの右手に位置している。

いよいよ三ノ鳥居をくぐると、目の前に茅の輪が出ていて、三ノ鳥居の奥20mあまり先には1.8mほどの高さの石垣とその上に玉垣を巡らせた土壇上に桧皮葺(ひわだぶき)の屋根を持つ拝殿と回廊が両袖に延びていた。

4野田八幡宮拝殿

屋根の下部には陰湿な場所に生育するヘラシダが繁殖し、回廊の前面には白地に「野田八幡宮」と墨書きされた献灯が並んでいる。
夜間に点灯されるのだろうか。

拝殿の建物を眺めている時に奇妙なものを見つけた。
上記写真では小さくて見えないのだが、桧皮葺の屋根の軒の小口(断面)は茅の輪の位置から眺めると、ちょうど参拝者の方を向く角度になっており、桧皮の小口が集積されているのが目視できるのだが、その屋根の30cmほどの厚みのある小口の中央には花のような浮き彫りが装飾されていた。

5野田八幡宮十六菊花紋

桧皮の小口なので、風化していて、形は明瞭ではないのだが、分割されている数を数えてみると16分割されている。
つまり皇室を表す十六菊花紋だった。
ここに祀られているのは以下の三柱とされている

・八波多大神(八幡大神=品陀和気命)
・大郎子命(オオイラツコ)
・物部祖神

品陀和気命(ほんだわけのみこと)とは応神天皇のこと。
大郎子命とは応神天皇の皇子のことだ。
天皇が祀られているとはいえ、十六菊花紋の使用が認められているということは、皇室に認識されている神社なのかもしれない。
八幡大神という記紀で無視されている神の祀られた神社に物部祖神が祀られているのは、正史で語られていない事情があるのだろう。

回廊の東側に祀られているものがあるので、回ってみると、回廊沿いに未だ新しい玉垣に囲われた神域があり、大粒の白い玉砂利の敷き詰められた中に
劔の切っ先のような形をした磐座が祀られていた。

6モクレン磐座

かたわらの立て札は風化しており、文字がほとんど読み取れないのだが、2行目の「モクレン」だけが読み取れた。
磐座の背後のまだ若い樹なのに複数の異形な太い枝を持つのは、まさしくモクレンのようだ。
ただ、この磐座とモクレンに関する情報は見当たらず、由来は不明だ。

この磐座とモクレンの背後奥に50cmほどの高さの石垣上に瓦葺平入素木造でガラス格子窓を持つ連棟社が祀られていた。

7野田八幡宮連棟社

社内には奥に棚が設けられており、拝殿側から以下の5社の末社が並んでいた。

・御子神社 ※八幡大神(応神天皇)の御子神の意なら大郎子命か
・石余社  ※初めて遭遇した神社で、祭神不明
・水神社  ※祭神:ミズハノメ
・風神社  ※祭神:シナツヒコ
・倉穂姫社 ※祭神:ウカノミタマ

この中に水神社が祀られていた。
水神社は野田八幡宮の西から南200mあたりを流れている森前川(もりまえがわ)と関係がありそうだ。

8野田八幡宮水神社

9森前川

上記写真は野田八幡宮の西210mあまりの場所に架かっている双葉二号橋上から森前川の下流側を撮影したものだが、ブロック積み護岸がされている河道はお世辞にも美しいとは言えない。
このあたりで川幅は10mほど、河道の深さは3.5mほどだ。
森前川の水源は不明だが、野田八幡宮の南東770mまでは地図上で辿ることができ、高架の国道23号線脇の暗渠に消えているから、23号線上に降る雨を落とし込んでいる可能性がありそうだ。
いずれにせよ、猿渡川に流れ込む流路延長は約2.2kmとされている。
「森前川」は「今留の森の前に流れる川」の意なのだろう。

磐座とモクレンの東側にも磐座とモクレンのある西方を向いた連棟社が祀られていた。

10野田八幡宮連棟社

瓦葺平入で中央に千鳥破風を持ち、白壁とガラス格子窓を持つ建物で、水神の祀られた連棟社より左右が長い。
社内を覗くと、左手から以下の末社が祀られていた。

・神明社            ※祭神:天照大御神
・三豊稲荷社          ※祭神:ウカノミタマ
・陣屋稲荷/稲荷社       ※祭神:ウカノミタマ
・縣神社            ※祭神:県大神
・砥鹿神社(とがじんじゃ)   ※祭神:大己貴命(オオナムチ)
・板倉神社           ※祭神:板倉重昌(板倉氏の祖)
・山神社/石清水八幡宮/天神社 ※祭神:オオヤマツミ/八幡大神
                    /菅原道真公
・豊受大神宮(外宮)      ※祭神:豊受大神
・多賀社/金刀比羅社      ※祭神:イザナギ/大物主神

この連棟社には直前のページで紹介した小垣江町(おがきえちょう) 神明社と同じく蛇神大物主神の他に大己貴命を主祭神とする砥鹿神社が祀られている。

11野田八幡宮砥鹿神社

砥鹿神社がここに祀られている理由は砥鹿神社が三河一宮だからだと思われる。
大己貴命の名が小垣江町 神明社で「大巳貴命」となっていたので、その間違いを指摘したのだが、「大巳貴命」という間違いが多いのには理由がある。
「己巳(つちのとみ)」という干支が存在することで、「己」と「巳」の混同が起きやすいのだと思われる。

    《意味と五行説》
・己(キ)=自分(土)
・巳(シ)=蛇 (金)

以下は次にやってくる己巳の年・月・日だ。

・己巳の年=2049年
・己巳の月=西暦年の下1桁が4・9(十干が甲・己)の年の4月=2024年4月
・己巳の日=弁才天の縁日(60日に1回)=2021年1月21日

大己貴命の成人してからの名という説のある大国主大神を主祭神とする出雲大社には龍蛇信仰が存在し、千家尊統宮司(第82代出雲国造)は以下のように説明している。

八百万の神たちが大社に参集されるに􏰇つい􏰃て、龍蛇様が大国主神すな􏰆わちダイコク様の使者􏰂とし􏰃て大社ま􏰀できた。泳い􏰀でくる龍蛇様を玉藻(たまも)の上に承(う)ける。

千家尊統宮司が龍蛇様と呼んでいるのは出雲地方の神在月(かみありづき)である10月(旧暦)に海岸に打ち上げられるセグロウミヘビのことで、セグロウミヘビを神の使い􏰂として􏰃奉納する神迎祭という神事が行われてきている。
このことから、大己貴命(大国主神)の本質は龍蛇神とみられる。

上記写真のセグロウミヘビの腹部の鱗をUPにしてよく見ると、出雲大社の神紋(下記)の亀甲形をしていることが見て取れる。

12出雲大社神紋 二重亀甲剣花菱紋


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野田八幡宮は江戸時代には刈谷藩の三大神社の一つだったといいます。もう1社が小生のブログでも紹介した市原稲荷神社であり、
https://note.com/38rashi/n/nc2396354acf8

もう1社は刈谷市ではなく、お隣の知立市に位置する神社のようです。

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