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尻のことを考え、寝落ちし鎌倉へ

寝る前にベッドでゴロゴロしていたら、ふと、自分の尻に手が触れた。

そのとき、「尻って、別に割れなくても良い部分から割れ始めてるな」と感じ、

いや、そもそも割れてるのがすごいよね、
大昔の魚みたいな生き物から人類に進化する過程で、
遺伝子が「尻は割れたほうが生き物として有利だ」という方向性になった理由ってなんだったんだろう。
本能的に、穴を守ろう! 守ろう! とした結果、進化の過程で両端が盛り上がり始めて、
ある生物の段階から急にプリッとなったのかな?
だとしたら、祖先の生き物が、日常的に穴を襲撃されるようなことがあったのかな?
にしたって、人間の尻、綺麗にプリッとなり過ぎてないかな?
プリッとしてなかったら、ウォシュレットのアイコンとかどうなってたんだろう。
”平面尻”のイラスト? でもそれって「棒」だよな。
平面尻って、リアルに考えると、怖いな……

そんなことを考えていたら、眠りについていた。

翌朝、5:50にアラームが鳴った。
この日は、久しぶりの休日だったから、
日帰りで熱海にでも行こうと考えていた。

頭では「あ、熱海に…」と思うのだが、
体全体が「眠すぎるので熱海は一旦中止」と訴え、
指が勝手にアラームを切ってしまった。

スマホの待ち受け画面に貼ってあるTo Doリストが、
眠すぎて閉じかけている目に入る。
「けつ ほうごうする」とメモしてあった。

けつ? ほうごう?

あぁ、ケツを縫合…。

尻の割れ目を無くすことで全人類との差をつけようとしたんだ私…。
そんなことしないよ、ごめん…。
と、昨晩の自分に謝っていると、また眠ってしまっていた。


次に目を覚ましたときには11:00だった。
熱海…今から行ってもあっという間に日が暮れてしまう。
しかし、この熱海心(あたみしん)をどうにか満足させなければ、
休日が終わったとき激しい後悔に襲われてしまう。

鎌倉に行くことにした。

決して熱海の下位互換で鎌倉にしたわけではなく、
最近ずっと行きたいなと思っていたからだ。
何回か行ったことがあって好きな街だったが、何年か訪れていなかった。
海があって、そこまで遠くない、ベストな街として鎌倉が浮かんだ。


ローソンで、糖質オフのパンと、サラダチキンと、からあげクンを買って、貪りながら最寄り駅へ向かう。
前日から、5万80000回目のダイエット・断酒を始めていた。
だから、尻の割れ方について考え、「ケツを縫合する」とメモした昨晩の自分はシラフだったわけだ。

酒飲まないで寝たけど睡眠の質とかも改善されてない気がするし、
気分によっては鎌倉ビールを流し込んでやるぜ!


張り切りながら着いた鎌倉。
いつでも仕事できるように、と一応持ってきたPCたちは一度コインロッカーに預ける。
何か緊急の仕事がある度に、400円を支払い、これを取り出さなければいけない。
お金を払って仕事をするという矛盾した行為を行うことで、自分をバグらせてみようという実験的な気持ちもあった。
(が、結果的にこの日仕事はなかったので残念ながら私がバグることはなかった)


駅を出て、鎌倉大仏を目指そうか? 商店街で買い物しようか?
迷ったが、とりあえず海を見ようと思い、由比ヶ浜方面へ歩き出した。

途中で見かけた可愛らしい北欧風雑貨のショップに入ると、
イッツアスモールワールドで並んでるときに眺める壁の絵みたいな柄のマスクがあったので、気に入って購入した。
すぐにつけようと思って、それまでつけていたマスクと交換すると、
「顔版Yogibo!?」というぐらい顔にフィットしたのでものすごく驚いた。

幸先がいい。


海についた。

私はしょっちゅう海を見たいと思うことがあるが、いざ海を見ると、
「綺麗…」と30秒間ぐらい思ったあと、そこから何を思っていいか分からなくなり、
「うん、海を見た」と満足して帰ってしまう。

うん、海を見た。
それに、お腹が空いた。
糖質オフのパンと、サラダチキンと、からあげクンは、海を見てたら溶けた。
海はすごい。


鎌倉駅前でランチを食べるのもいいけど、せっかくだから鎌倉大仏の方まで行って何か食べようかな。

その道中で、店頭に並んだ、ネズミの形をしたスリッパが目に入った。
スリッパの、指を包み込む部分がネズミの顔になっており、かかと部分には尻尾がついている。

1ヶ月ほど前にスナネズミを飼い始め、それから常にネズミのことを考えているので、つい反応してしまい、さらにそのスリッパはうちのスナネズミに似ていた。
欲しい〜! と思いながら見ていると、
「それ、ウールでできてるので暖かいですよ。履いてみても大丈夫です!」
と店員さんが声をかけてくれた。
スリッパだからまぁ入るだろうし、買っちゃおうかな…と思ったが、
試着せずに買ったスカートを家に帰って履いてみたらギュチギュチだったということが何回かあるので、試し履きさせてもらうことにした。

ギュチギュチだった。

「あぁ… すみません、入らないです…」
「あら! でも、ウールなので履いてるうちにちょっと伸びますよ。いつも何cmの靴を履いてますか?」
「25.5cmです」
「あ! それは…」
伸びるので大丈夫ですよ、と続くのかと思って笑顔を作ったら、

「大きいですね!」と言われた。

会社の人が誕生日プレゼントに靴を買ってくれることになり、サイズを伝えたら「でかっ」と言われたことを思い出した。
でもこれで決定的に”足がでかい”というアイデンティティが増えた気持ちになり、嬉しかった。私は足がでかいんだ!

とはいえ、このスリッパは欲しい。ウールだからどうにか伸びないかな?
それか自分のかかとを削るか…と諦めきれずにスリッパを見つめていたが、
店員さんが「すみません…せっかくなのに…」と申し訳なさそうにしていたのと、
自分に似たスリッパを履かれたらスナネズミも”怖…”って思うかな、
と自分の気持ちに踏ん切りをつけ、諦めた。
その店ではピアスを買った。


鎌倉大仏を目指す。
トンビがピ〜ヒョロロロと鳴きながら空の高いところを飛んでいるのを見て、懐かしい光景だなと思う。
ただ、私の幼少時代にトンビが空を飛んでいたということはなく、
好きなゲーム「ぼくのなつやすみ」でピ〜ヒョロロロがゲーム内SEとして流れていた
→「ぼくのなつやすみ」は懐かさをくすぐるゲーム
→ピ〜ヒョロロロは懐かしい
と頭が思い込んでいるだけであり、私とトンビの思い出などは全くない。


道中、サンダルが売っている店の前を通るたびに、思い出すことがあった。
高校生のときに友人と鎌倉に来たが、私のかかとが靴擦れで痛くなってしまい、
鎌倉大仏を目指しながら歩く途中で、痛みに耐えられず、私がすごく不機嫌になってしまったのだ。
合わない靴を履いておいて不機嫌になるなんて自分勝手すぎるし、
なぜあのとき途中でサンダルを買わなかったのだろうとずっと後悔している。

あのとき、もっと靴擦れしてかかとが削れていれば、さっきのネズミスリッパだって入ったかもしれない。
こんな未来を知っていれば、
「大丈夫! あえて、かかと削ってるから! 7年後、25歳のとき、私、ネズミスリッパと出会うんだけど、それ履きたくてさ!」
と、友達に向かって笑えたのに。


鎌倉大仏がある高徳院の前に着いた頃には、腹ペコだった。
腹ペコの状態で大仏さまを見たら「食べたい」と思ってしまうかもしれないので、
先に昼食をとることにした。
通りには、しらす丼の店、蕎麦屋、カフェなどが並んでおり、
ウロウロ悩んだが、蕎麦が好きなので蕎麦屋に入った。

すごく感じのいいお店で、しかも小さいしらす丼があり、
せいろそばとセットで注文。井之頭五郎した。
(井之頭五郎する=注文で正解を出すこと)

お蕎麦を待っていると、キッチンの方からお店の人同士の話し声がする。
「消火器が…らしくて…うん。それで…その消火器が…。」
消火器の話をしている。
しばらくすると、お店の人の顔馴染みらしいお客さんがお店に入ってきて、
「う〜ん、今日は鴨南蛮にするわ! そういえば、あの消火器が…で! その消火器はね、…なのよ」
と話し出した。

鎌倉大仏前のこの通りでは、今、消火器が話題の中心なのだろうか?

消火器が話題の中心になる世界線について考察していると、
つやつやのお蕎麦と、白くて眩しいしらす丼がやってきた。
美味しくて、体感、カービィぐらい吸い込んだ。夢中で食べた。

こじんまりした店で、自分以外のお客さんは、消火器の話をしているお客さんだけだったが、
店員さんが全然こっちを見ないのがすごく良かった。
というのも、先日ラーメン屋に行ったら、お客さんのオーダーを見逃さないようにするためだと思うが、ホールの子がずっと背後に立っており、
「”この人、もう麺食べ終わってるのに最後までスープ味わってるよ…”とか思われてたらどうしよう…」と、気が気じゃないままスープをすすっていたのだ。
ラーメン屋の店員さんはしっかり仕事をしようとしてるだけなのに、私のネガティブ心が本当に邪魔をする。
それでもスープをすする、私のスープすすり心と、ネガティブ心が拮抗した結果、ちょっっ……とだけスープを残した。

そんなことを回想して対比してしまうほど、このお蕎麦屋さんは、落ち着いて食事のできる良いお店だった。


拝観料を払って、鎌倉大仏を見る。

修学旅行生らしきグループがおり、「@@ちゃん真ん中ね!」と言いながら集合写真を撮っている。
真ん中に選ばれる子は、写真的価値が上がる人気者だったりするのかな?
など考えながらボーッと見つめる。

そういえば修学旅行の写真とかって、後日、学校の廊下に貼られて、買うやつを選べるシステムあったよなぁ。
小学校の林間学校か忘れたけど、
あぐらをかいて、川で何かを洗っている後ろ姿の自分単体の写真が売られてて、
「なんのシーンだよ!」と思ったし、
その後ろ姿がすごく猫背でだらしなくて、あれ、剥がしたかったなぁ……。

学生達の姿を見ていると嫌なことをどんどん思い出すので、大仏の顔に目を向けた。
薄目を開けて、修学旅行生を観察しているような顔に見えた。
自分だ。



鎌倉オルゴール堂というお店にも寄ったけどすごく楽しかった。
あまりにもたくさんオルゴールがあるので、どれかひとつは買いたいなと思って悩んでいたが、パカっと開くと曲が流れ始める、小物入れタイプのオルゴールの音色を聴いた瞬間、
「ここに、もう会えない誰かとの思い出のものを入れたらめちゃくちゃ切ない」という勝手な想像で涙が出てきて、胸がジーンとして満足し店を出てしまった。


近くの長谷駅から電車に乗って鎌倉駅に戻ろうとしたが、せっかくだから違う駅にも行ってみるか。と観光名所を調べると、鎌倉高校前駅の踏切がスラムダンクの聖地らしい。
アニメを見たことがないので、そこでバスケをやったのかと思い(OPです。今調べた。無知で申し訳ない)、
スラムダンクの聖地ならいい場所だろうと(見たこともないのに勝手に思うべきではない)確信し、向かうことにした。

江ノ電で向かう途中、あまりにも綺麗な夕焼けと海の水平線が車窓から見えたので、
「なんだこの凄い景色は! 降ろしてくれ! 今、ここで降ろしてくれ!!!」と、
走り続ける電車にイラっとし、「やっと止まった…」などと思いながら、鎌倉高校前駅のもうひとつ前の駅で降りた。
七里ヶ浜駅。
「今、ここで降ろしてくれ!!!」とか思ったけど、
江ノ電の駅は一番ベストな場所にあるので、駅から海辺に向かうと、もちろん最強の夕焼けが見えた。

夕日が落ちるのを眺めながら、そのまま歩いて鎌倉高校前駅まで。
肝心の聖地に辿り着くと、確かにとてもいい景色だったが、
聖地なのでたくさんの人がおり、
「私はスラムダンクも見ていないのに…」と謎の後ろめたさを感じ、写真も撮らずに改札に入ってしまった。
電車を待つホームの目の前が一面海だった。来てよかった。


鎌倉駅に戻って鶴岡八幡宮を見たりしていたらすっかり日が暮れ、
お土産屋さんも閉まり始めたので、コインロッカーに預けた荷物を取り、帰りの電車に乗る。

でもまだ19時にもなってないしなぁ…と、
乗り換え駅だった横浜に寄っていくことにした。

横浜。イルミネーションであちこちキラキラしていた。
綺麗だな〜と思いながら、
道を埋め尽くすカップルの間を縫うようにして歩く。

私も大好きな温泉施設、万葉倶楽部の、
足湯がある屋上で、何かがチカチカと光っている。
どうやらスマホのフラッシュライトをつけて、誰かが手を振っているらしい。

そんな、ディズニーシーのホテルミラコスタに泊まってる人が、
閉園時間が近づいて出て行くお客さんに向かってやるようなことを、
万葉倶楽部の屋上でやる!?

自分たちはまだディズニーの敷地内にいて、しかもこれから泊まるんだという高揚感をもった宿泊者と、
楽しかったディズニーのテンションがあるから、キャラクターでもなんでもない人間に手を振り返せる人々、
ディズニーだからこそ成り立つその文化を、万葉倶楽部の屋上で、やる…!?

いや、そんなわけない。あれは「ヘルプ」だ!
足湯で何かが起こってるんだ……!

みんな気付いて!


と思って目の前の道に目を向けると、
女子高生やカップルが、楽しそうに、スマホのライトを万葉倶楽部の屋上に向かって振り返していた。

「これ、ディズニーのやつ。結構こういうところでやると盛り上がるんだよね。俺発見してさ」と話す彼氏に、
「すごいすごい!」と嬉しそうにする彼女。


私は、この、目の前のみんながいる世界から”あぶれている”……。


せっかくの休日が終わろうとしているのに、
後味の悪い漠然とした不安を感じながら万葉倶楽部の横を通ろうとしたら、
「温泉運んでます!」と書かれたタンクローリーが停まっていた。
車体からホースが伸び、万葉倶楽部に温泉を注入している。
タンクローリーをよく見ると「熱海」と書かれていた。

今朝、6時に起きていれば、
今頃私が浸かっていたかもしれないお湯がここにある。

浸かっていこうかと思ったが、
さっき見た屋上からの光が脳内でチカッチカッと振れてそれを拒否したので、
スナネズミの待つ家に帰った。

スナネズミは別に「おかえり」という素ぶりを見せるわけでもなく、
一所懸命、床材を掘っている。
後ろから見ると、お尻が揺れていてすごく可愛い。

スナネズミのお尻は割れていない。

ネズミの尻は割れる必要がなく、
人間の尻は割れる必要があるというのは、どういうことなんだろう。


今度こそ早起きしたい。


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