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懐かしい匂いの何が懐かしいの

「なんか今日の空気の匂い、懐かしいな」と思うときって、
大抵いつもより暖かい、晴れの日の午前中なのだが、
いつもより暖かい晴れの日の午前中の空気がなぜ懐かしいのかが
ずっと分からない。

朝10時、前日の朝から続いていた作業を終えて編集所を出ると
疲労した目に太陽の光が突き刺さってきて、
そのあとにあまりにも懐かしい空気の匂いがしたので、
帰りながら「いつのなんの記憶の匂いなんだ」と考え続けた。

やっぱり分からない、思い出せない。

「プールの帰り道かな」と毎回思うけど、
私は小学生時代も中学生時代もそんなにプールから帰ったことがない。
でも塩素の匂いとかがすごく懐かしいのってなんでなんだろう、
「プールの帰り道」が、私にとって”懐かしい”の代名詞なのはなんで?


それにしたって今日の空気は懐かしい。

受験の合格発表日とか? 遠足の日の朝とか?
でもその日の空気を覚えているわけではないし……

そうやっていろんな懐かしそうな日のことを思い出していると、
慶應義塾大学の前を通った。

入学に関する行事か、
たくさんの学生がワイワイしながら校内に入ろうとしているのを見て、

「なんか今日の懐かしい空気、この光景と近い記憶な気がするな」と思って
脳が自分の大学生活に関する記憶を呼び起こし始めたが、
私は慶応生でもないし、ワイワイと校内に入ったこともないし、
全体行事っぽい日も、知り合いを見つけられず一人でボソボソと歩いていたし……
なんで慶應生がワイワイしている光景が懐かしいんだ!?
この光景に、どんなヒントがあるんだ?
ますます正解の記憶から遠ざかってしまったような気がした。


寒い季節を超えて、春の暖かさをすっかり忘れていたところで
「1年前の春」を思い出させるような空気を浴びて、
懐かしいと感じるだけなのかも知れない。

でも確実に、ボヤーっと、ある懐かしい特定の日が頭に浮かびかける。

いつか「あの日の空気の匂いだ!」と思い出せたらいいけど、
多分、携帯を持っていない時にどうやって友達と待ち合わせをして公園で遊んでたのかもう全く思い出せないように、
思い出せることがないような奥底の記憶の匂いなんだろうなと思う。


話はずれるけど、
街中で不意にたくあんの匂いがすると「懐かしい!」と思う。

それで、今まで普通に、
「あ、たくあんの匂いだ」と思ってたけど、
この前ふと、
「いや、街にこんなにたくあんがあるわけなくない?」と気が付いた。

たくあんの匂いではなく、おそらく、
たくあんのような匂いなんだ!!

たくあんのような匂いがする木があるのか?
ある条件で自然退廃した何かが全部たくあんのような匂いになるのか?

調べたら誰かが同じような質問をYahoo!知恵袋でしていそうだなと思ったけど、
いつか自分で突き止めようと思うので検索しない。

次、たくあんのような匂いに出会った時に、
嗅覚を頼りにそのたくあんの匂いを辿って元を突き止めるんだ!!!

漬物屋に辿り着いたらどうしよう。


さらにいうなら、
私は別にたくあんに関する思い出を持っているわけではないのに、
たくあんの匂いの何が懐かしいんだ?
別におばあちゃんの家でよくたくあんの匂いがしていた、とかではない。

むしろおばあちゃんの家でよく嗅いだのはお線香とかみかんの匂いだが、
お線香やみかんの匂いを嗅いでも「懐かしい」とは思わない。


春の午前中の匂い。塩素の匂い。たくあんの匂い。
「懐かしい」とは違う、
心がなんかキュウッとする、
言語化しづらい感情が別にあるのかもしれない。


でもちょっと前に、
ヘドロのような匂いを嗅いで「懐かしっ」と思い、
なんで…?と考えたら、
飲食系のバイト時代に毎朝水道下のヘドロをすくっていた記憶を久々に思い出して「あ〜!」となったので、
正解の記憶があるにはある、とも思う。

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